第62話 命を狙われるとか、やだなー
食事を終えて宿に戻り、サビーとラセンが私の部屋に集まった。
まずは、アーネストさんからもらった報酬の山分けだ。
袋の中には金貨五十枚が入っていて、一人十六枚ずつ分けることにした。
余った二枚は、バフ飯の材料代として私が預かることになった。
続いて、恒例の作戦会議。
ステッキがテーブルの上に乗ると、いつものように映像を映し出す。
まんぷく号の周りには、私たちらしき棒人間が三人と、小さな丸に足が生えたみたいな生き物が一匹。
そこから二本の矢印が伸びて、片方は冠、もう片方は熊の絵を指していた。
ステッキが解説を始める。
「これが今の状況だ。俺たちは王都を目指している。少なくとも、王都側がこちらに直接手出ししてきた気配はない。直近の問題はキメラだ。この短期間で、すでに二度も戦うことになった」
「はいっ!」
私は勢いよく手を挙げた。
「なんだ?」
「たとえば、王都が私たちの動きに気づいて、キメラを差し向けてるって可能性はないの?」
「いや、その可能性は低いだろう。魔物同士の合成は禁忌だ。それに、その術自体、とっくに失われている」
「そっか……」
やっぱりメリアと王様は関係ないのかな……。
今度はサビーが口を開く。
「キメラだけどさ、実際に戦ってみた感じ、そこまで圧倒的に強いってわけじゃないんだよな。もちろん、茉歩瑠のバフ飯があっての話だけど。俺たちを本気で潰すつもりなら、もっとやばいのを送り込んできてもよさそうじゃないか?」
「あ、あのときの魔物が、キメラだったんだ……。わ、私は、十分怖かったよ……」
ラセンは、ガークの巻き添えみたいな形でキメラに襲われたんだよね。
目の前で岩がぱっくり割れて……あれは怖いよね。
二人の意見を聞いて、ステッキがくの字に曲がる。
「実は、俺も同じことを考えていた。船がキメラに襲われたのも、俺たちが乗っていたからとは考えにくい。俺たちを狙っているなら、船そのものではなく、最初からこちらを狙ってくるはずだ」
たしかに。
あのとき、クジライカみたいなキメラは私たちを狙うというより、船そのものを壊そうとしていた。
もちろん、船が沈めば私たちだって無事じゃ済まない。
だから、狙いとしては間違ってないんだけど……。
なんというか、やり方がまわりくどい気がする。
――そのあとも、みんなでいろいろな意見を出し合った。
けれど、これだと思える答えは出なかった。
結局、今のところは、キメラとの遭遇は偶発的なものと考えるしかなかった。
「それならそれで、移動中の警戒は怠れないな」
サビーの表情が険しくなる。
「ぐ、偶然でも、そうじゃなくても、備えは必要……だと思う」
二人の言葉に、私はうなずいた。
「サビー用のバフ飯、ラセン用の魔力回復ラムネ。この二つは、いつでも使えるようにしておくよ」
「おう、頼むぜ!」
「わ、私も……ラムネは、常に持っておくよ」
作戦会議が終わり、二人はそれぞれの部屋へ戻っていった。
ひとりになった私は、ベッドにごろんと横になった。
するとウリ坊が、当然みたいな顔でお腹の上によじ登ってくる。
私はそれを両手で持ち上げた。
ウリ坊が、ぴこぴこと手足をばたつかせる。
「命を狙われるとか、やだなー」
「今のところ、その心配はなさそうだがな」
ぽつりとこぼした言葉に、ステッキが返事をした。
「『今のところ』でしょ? 私たちが王様を止めようとしてるってバレたら、狙われる可能性はあるんだよね?」
「……それは、そうだが」
異世界に来てから、死にかけたのは何度目だろう。
あのクジライカだって、一歩間違えば船ごと海の底だった。
これから、どんな危険が待ち受けてるんだろう……。
ウリ坊をお腹に乗せて、目を閉じる。
王様のこと。
キメラのこと。
あの不思議な少女、メリアのこと。
考えなきゃいけないことが山ほどある。
でも、お腹の上の暖かな重みが、沈みかけた気持ちを少しだけ和らげる。
私は、そのまま眠りに落ちた。




