第61話 やっぱり、今はまだ話せない
ギルドを出た私たちは、宿へ向かって歩いていた。
街の中を流れる運河に、街灯の明かりが揺れている。
赤レンガの倉庫が立ち並ぶ景色は、本当なら観光気分で浮かれてもおかしくないくらい素敵なのに、今の私はどうにもそんな気分にはなれなかった。
まんぷく号を引きながら、ぽつりとつぶやく。
「実はさ、気づいてたけど、言えなかったことがあるんだよね……。たぶん、敵って王様だけじゃないよね」
「……」「……」
二人は黙ったまま、私の隣を歩いている。そこで、ステッキが静かに口を開いた。
「この話は、歩きながらするものではないな。改めて、ここまでの状況を整理したほうがいい」
私たちは、無言のまま歩いた。
宿を確保したあと、遅めの夕食をとるために、近くのレストランに入った。
テーブルの中央にどんっ、と置かれた大皿のパエリアみたいな料理に、サビーの視線が釘付けになる。
「うまそう! 早く食おうぜ!」
いつものノリに戻ったサビーのおかげで、さっきまでの重たい空気が嘘みたいに消えた。
こういう切り替えの早さが、私たちらしくていいと思う。
エビの殻に悪戦苦闘したあげく、最後は頭から丸かじりしたサビーを横目に、私はアクアパッツァみたいな魚料理を取り分ける。
さすがにお腹が減ったのか、小食のラセンもパエリアを黙々と食べている。
「さっきの件だが、少し話をしてもいいか? 食べながらでかまわない」
ひょいと、ステッキがテーブルの上に飛び乗る。
「王の暴走を止めるのが目的なのは変わらない。だが、問題はキメラだ。俺たちはすでに二度、キメラと戦っている」
「そうだな。しかも、今回のはかなりでかかった」
今度は魚の骨と格闘しているサビーが、皿から顔を上げずに答える。
「キメラを作っているのが何者かはわからない。だが少なくとも、王都を目指す道中で、今後もキメラとの戦闘があると考えておいたほうがいいだろう」
キメラを作っている――メリア。
あの子と直接話したことがあるのは、私だけだ。
みんなにも、そのことはちゃんと伝えるべきだと思う。
でも、名前を出した途端に、またあの子が現れるかもしれない。
余計なことを話したせいで、私みたいに、サビーやラセンまで目をつけられるかもしれない。
喉の奥で言葉が詰まる。
やっぱり、今はまだ話せない。
「ん? 茉歩瑠、どうした? 食わないのか?」
魚の骨をくわえたまま、サビーがこちらを見る。
「あ、うん。食べるよ。これからもキメラが出るのかーって思ってさ」
「そうだな。今よりも強いのが出てくるかもしれないな。バフ飯、頼むぜ?」
「う、うん。任せて!」
胸の奥がちくりと痛む。
私とサビーのやり取りを、ラセンは黙ったまま聞いていた。




