第59話 宿代だけ貸して!
料理を食べた船員たちが、次々と甲板へ戻ってくる。
「体が軽い!」
「いけるぞ!」
その声を合図に、彼らが一気に反撃に出た。
甲板を蹴って飛び回り、触手を翻弄していく。
さらに、落下の勢いを乗せた鉈が、キメラの触手を切り裂く。
さっきとは違い、一撃がちゃんと効いている。
キメラは奇声を上げながら、なおも船体を叩く。
「えー! まだ元気なの!?」
「茉歩瑠ちゃん、下がって!」
ラセンがラムネを口に放り込み、氷魔法を放つ。
氷の弾が、暴れまわる触手をまとめて凍らせる。
「サビー!」
ラセンが叫ぶ。
すでにサビーは、無事なマストへ向けて駆け出していた。
軽くなった体で、マストを蹴り、ぐんぐんと登っていく。
マストの先端まで駆け上がったサビーが、短剣を逆手に構える。
「これで終わりだ!」
サビーが跳ぶ。
短剣を突き出したまま、まっすぐ巨体の頭に落ちていく。
そして、刃がその頭を深々と貫いた。
キメラの巨体が、びくりと大きく震える。
絡みついていた触手から力が抜け、その巨体が船体から剥がれ落ちた。
大きな水しぶきが上がり、甲板に静寂が戻る……。
「うぉー!」
船員たちが一斉に勝ちどきを上げた。
湧き立つ船員たちのあいだを、キメラの返り血を浴びたサビーが、短剣についた血を振り払いながら戻ってくる。
「サビー! すごかったよ!」
そこへラセンも、ふらつく足取りで戻ってきた。
「や、やったね……。あのラムネ……全部食べちゃった……」
そう言った途端、ラセンの体がぐらりと傾く。
「ラセン!」
慌ててその体を支える。
足元に、空の小瓶が転がった。
◇
予定より二日遅れて、私たちの乗った船は目的地の港町に到着した。
まんぷく号が、ゆっくりと桟橋へ下ろされていく。
「あの戦いの中でまんぷく号が無事だったなんて、ほんと奇跡だよ」
シルバーのかまどが、朝日を受けてきらりと輝いた。
久しぶりの陸地。
私は大きく背伸びをした。
「ふぅ。さてと、まずは宿を探さないとね。と、その前に……」
二人をちらっと見る。
「ごめん! 宿代だけ貸して! お願い!」
煙が出るくらいの勢いで、両手をすり合わせる。
「ったく、しかたねぇなぁ。今回だけだぞ?」
……ほんとに申し訳ない。
うつむきながらまんぷく号を引こうとしたところに、港の詰所のほうから、ひとりの女性が駆け寄ってきた。
「あなたたちですか? 船が魔物に襲われたときに、力を貸してくださったという方々は」
「あ、はい。そうですけど……」
女性の格好を見て、私は気がついた。
ギルドのお姉さんと同じ制服。たぶんギルドの人だ。
「申し訳ありませんが、今からギルドまでお越しいただけませんか」




