第57話 潮吹いてる! クジラかな?
乗船手続きを済ませ、船に乗り込む。
まんぷく号がロープで吊り上げられ、ゆっくりと甲板に下ろされる。
さらに、ロープと留め具で甲板にしっかりと固定された。
これなら船が揺れても大丈夫そうだ。
まんぷく号の様子を確認して、船室へ向かおうとした、そのとき――
ふいに、海のほうへ目が向いた。
なんだろう、この感じ……。
「茉歩瑠ちゃん、ど、どうしたの?」
「あ、うん、なんでもない。いこっ!」
気のせいかな……。
それから私たち三人は、それぞれ個室へ案内された。
ウリ坊を抱えて、自分の部屋に入る。
思っていたよりも広くて、きちんと整えられた部屋。
丸い窓の向こうには、まっすぐな水平線が伸びている。
居心地も悪くない。
これなら、長い船旅も快適に過ごせそうだ。
目的地までは、一週間の船旅。
歩けば三か月はかかる距離を、まとめてすっ飛ばせる。しかも、あの厄介な山越えルートまで回避できる。
歩かなくていいし、山にも登らなくていい。
おまけに、船の中には娯楽施設まである。
これはもう、ちょっとしたクルーズ船気分だ。
この世界に来てからずっとばたばたしてたし、少しくらいゆっくりしてもいいよね。
◇
――出航してから六日目。
最初こそ船旅にわくわくしていた。
けれど、毎日食べて寝て、たまにウリ坊と遊んで……。
そんな生活にもさすがに飽きてきた。
部屋でごろごろしているのも限界で、私は甲板に上がり、ぼんやりと水平線を眺めていた。
すると、ラセンが隣にやって来た。
「い、いよいよ……明日到着だね」
「うん。一週間のんびり船旅だー、なんて思ってたけど、さすがに陸が恋しくなったよ」
そう言って、もう一度水平線へ視線を戻す。
すると、遠くで黒い影が大きく潮を吹いた。
「わっ! 潮吹いてる! クジラかな?」
思わず声を上げた次の瞬間、その影が大きく跳ね上がる。
その姿は、ただのクジラじゃなかった。
クジラみたいな巨体に、イカの触手のようなものが生えている。
さすが異世界、クジラもずいぶんダイナミックだなー。
そんなのんきなことを考えていた私の横で、ラセンが震える声を漏らした。
「ま、茉歩瑠ちゃん……あれ、手が生えてる……。おかしいよ……」
ん? そうなの? ああいう生き物じゃないの?
腰のステッキがぴょんと跳ねる。
「あれは、キメラだ!」
「えーっ! そうなの!? またキメラ!?」
触手の生えた巨体が、再び高く跳ねる。
しかも今度は、まっすぐにこの船に向かってきている。
そのとき、船内にけたたましいラッパの音が鳴り響いた。




