第55話 シャワー買っちゃった!
頭上では、耳が痛くなるくらいカモメみたいなのが鳴いている。
そんな中、私たちまんぷく亭一行は、ようやく港町にたどり着いた。
山越えをやめて、どうしてわざわざ港町まで来たのか。
理由は簡単。
前の街で、『王都を目指すなら、山を行くより遠回りでも海路のほうがいい』って聞いたから。
この港町からは、王都の近くの街まで向かう船が出ている。
船で寝ているだけで、王都のかなり近くまで行けるなんて最高すぎる!
――と、その前に。私には、どうしてもやらなきゃいけないことがあった。
「お湯を浴びる装置?」
サビーの眉毛が八の字になる。
「そう! 私の地元では〝シャワー〟って言うの!」
私は興奮気味に、頭の上からお湯を浴びるジェスチャーをした。
「そんなの必要か?」
サビーがシーフードピラフをかき込む。
「わ、私は……大賛成!」
珍しく、ラセンが声を張る。
宿を確保したあと、港町のシーフードレストランで晩ご飯を食べながら、私は二人に荷車の改造案を切り出していた。
それは、〝シャワー機能〟の追加。
もう、粘液とか無理。冷たい川も無理。体を洗えないのはもっと無理!
前までは、お湯で体を拭いたりして、なんとかごまかしてきた。異世界だし、仕方ないかなって思って。
でも、昨日タコに絡まれて、私の考えは変わったのだ。
「はい、多数決により、シャワー搭載決定です!」
鼻息荒く宣言する。
「まあ、俺は川でも全然いいけどな」
サビーがイカ焼きにかじりつく。
「それじゃ、サビーは川ね。ラセンには優先使用権をあげます!」
「や、やった!」
ラセンは胸の前で小さく手を叩いた。
◇
翌日、私はこの街にある荷車屋を訪れていた。
もちろん、シャワーの相談をするためだ。
「ほう、お前さん、いい荷車を引いてるな」
店のおじさんが、私の荷車を見て感心したようにうなずく。
なんだか自分のことを褒められたみたいで、ちょっと嬉しい。
「あのー、こんな感じの装置を作れませんか?」
シャワーの説明をするために、がんばって書いた説明図を手渡す。
おじさんはふんふんとうなずきながら、説明図とにらめっこする。
しばらくして、おじさんが顔を上げた。
「これなら作れるな」
「ほんとですか!?」
思わず声が裏返る。
「まあ落ち着け。たしかに作れはするが……高くつくぞ? なにせ、かまどに湯を沸かす仕掛けを組み込まなきゃならんからな」
そう言っておじさんが見せてくれたのは、細い管がくねくねと入り組んだ、不思議な装置だった。
「こいつで湯を沸かすんだが……この街にひとりしかいない職人が、腕によりをかけて作る逸品でな。とにかく高い。この装置だけで金貨十枚だ」
き、金貨十枚!? こんな小さな装置が!?
「ほかに必要な材料費と工賃を合わせて……全部で金貨二十枚だ。どうする?」
「お願いします!」
即答した私に、おじさんが目を丸くする。
迷う必要なんてない。私はシャワーを浴びたい!
「け、決断が早いな……。分かった。だが、金額が金額だ。悪いが前払いで頼む」
かばんから財布を取り出して、おじさんに金貨二十枚を手渡す。
これで、屋台で稼いだお金はほとんど吹き飛んだ。
けど、後悔はない。
「確かに受け取った。それじゃ、三日後に取りに来てくれ」
店を出てサビーたちと合流したあとも、私のテンションは下がらなかった。
「買っちゃった! シャワー買っちゃった!」
ご機嫌にぴょこぴょこ跳ねる私を見て、サビーが呆れたようにため息をつく。
「即金で金貨二十枚も払って……。お前、船代のことはちゃんと考えてるんだろうな?」
私はぴたりと足を止めた。
「……考えてなかったろ?」
サビーがじとっとした目を向けてくる。
そうだった。船に乗るのだって、当然お金がかかる。
「言っとくけど、金なら貸さないぞ」
「わ、私も……そんなに余裕、なくて……」
うわぁ、ラセンまで控えめに断ってきたよ。
やばい、このままだと私だけ船に乗れない!
「と、とにかく! 運賃を見に行こうよ!」
乗船所の運賃表を見た瞬間、私は膝から崩れ落ちた。
私の運賃が金貨十枚。
さらに、荷車の積み込みが金貨五枚。
手持ちは金貨十六枚。
払えなくはない。
払えなくはないけど、ほぼすっからかんになっちゃう!
「に、荷車は、共有財産ってことで……」
上目づかいで二人を見る。
「金の話は揉めるから、きっちり分けようって言ってたのは茉歩瑠だろ?」
言った。
パーティーを組んだとき、そう決めたのは私だった……。
こうなったら、目的地に着いたらすぐ依頼を受けて、がっつり稼がないと。
それからの三日間、私は極限まで節約して過ごした。
買い物は禁止。ごはんも私だけ質素なものにして……。
ただひたすら、荷車の完成を待った。




