第53話 やさしい甘さが広がります!
宿に戻った私は、さっそくステッキと一緒に食材辞典を広げた。
リウタンの種と相性のよさそうな食材を探していく。
美味しさは妥協したくない。
でも、第一目標はあくまで、戦闘中でもラセンの魔力を効率よく回復できること。
それと、お腹がいっぱいにならないこと。この二つを満たせる食材は――。
夢中で食材辞典をめくっているうちに、外はすっかり明るくなっていた。
目星をつけたものを市場で買い、宿に戻って試作品を作る。
それを何度も繰り返しながら、私は少しずつ食材の候補を絞っていった。
ただ、相性のよさそうな食材が見つかったからといって、すぐに完成するわけでもなくて。苦かったり、甘すぎたり、食感が微妙だったり……。
試作品作りは、思った以上に難航した。
◇
それから数日。
試行錯誤の末、どうにか形になった試作品を味見してもらうため、私はラセンを部屋に呼んだ。
「第一回! 魔力回復料理品評会へようこそ!」
「あ、うん……がんばる……」
ラセンめ、すでにお腹いっぱいになる覚悟を決めてるな。
「いやいやいや、今回はお腹がいっぱいになりにくいやつだから! 最初からそんなに警戒しないでよ!」
「う、うん……」
ラセンはテーブルに並んだ試作品を見て、あからさまに目を細めた。
「いろいろ考えたんだけど、料理っていうより、お菓子寄りになったんだよね。手軽に食べられるやつ」
「そ、そう……」
では、さっそく始めましょう!
「エントリーナンバーワン! 魔力回復飴! 魔力回復素材をたっぷり使った贅沢な一品。ひとたび口に入れれば、やさしい甘さがふわっと広がります! どうぞ!」
「で、では……いただきます」
ラセンがそっと口に運ぶ。
「ん? んんん? おいひい! こへ、おいひい!」
飴だから、なめているあいだ少しずつ魔力が回復していく。
これなら魔力を供給しながら戦えるはず。
今回いちばんの自信作!
と思ったのに、ラセンの表情がだんだん曇っていく。
「れも……ひゅもんが、となえられなひ」
「ん? なんだって?」
「らから、ひゅもんが、となえられなひ!」
ラセンが後ろを向くと、飴を吐き出した。
「だから! 呪文が唱えられないの!」
あー、そっか。ちょっと大きすぎたか。これは改良の余地あり。
次っ!
「エントリーナンバーツー! 魔力回復パウダー! 素材を粉状にして、さっと飲めるパウダーにしました! お口の中でサッと溶けて、のど爽やか! はい、どうぞ!」
ラセンが恐る恐る粉を口に入れる。
「んっ! ぶふっ!」
見事にむせて、全部吹き出した。テーブルのまわりが真っ白になる。
「むせるって! こんなの戦闘中に飲めないって!」
これはだめだ。
次っ!
「エントリーナンバースリー! 魔力回復ラムネ! 粉状にした素材を、しゅわっと溶けるラムネに加工しました! 見た目もかわいくて、口どけも軽やか!」
うんざり顔のラセンが、半ばやけくそ気味に口に放り込む。
――瞬間、ぱっと目を見開いた。
「ん……んっ! これ! これ、おいしい! それに口の中ですぐ溶けるから、呪文もちゃんと唱えられる!」
きたっ! これは手ごたえあり!
実はこれ、食材辞典を調べてたら、重曹みたいに使えそうな素材を見つけたんだよね。それでラムネを作ってみた。
素材の名前は〝宇創樹の根〟。
効果は〝魔法の効果を高める〟。
しかも、食材店で普通に買えるから、手に入れるのも楽だ。
それに――
「このラムネ、なんと! 魔力を回復できるうえに、魔法の効き目まで強くなるのです!」
「えっ! なにそれ、すごくいい! これがいい!」
ラセンが目をキラキラさせながら身を乗り出してくる。
「ただ……」
私はそっと視線をそらした。
「ただ?」
「翌日に疲れが残ります」
「えぇ……」
ラセンの目から、さっきまでの期待がすうっと消えた。
そうなんだよね。
これ、かなり強力なんだけど、そのぶん精神的な負担も大きい。
だから翌日まで、ぐったりするくらい疲れが残る。
ちょっとしたデバフ付きっていうのが、なんとも惜しい。
「以上で試食会は終了です! お疲れさまでした!」
「……」
無言のラセンをそのままに、試食会を強制終了する。
どれも決定打に欠ける感じだけど、なんとなく方向性は見えてきた。
「飴とラムネを用意して、状況に応じて使い分けよう。飴は、詠唱に影響が出ないように小さくしてみるよ」
ラセンは「う、うん……」とうなずいたけど、どこか歯切れが悪い。
そのとき、部屋の扉がこんこんと鳴った。
扉が開き、ウリ坊を連れたサビーが顔を出す。
「ラセン、どうだ?」
「サビー。私もあなたみたいに、お腹いっぱい食べられるようになりたいよ……」
サビーがやれやれと肩をすくめる。
「俺みたいに食えるようになるのはいいけど、食費が三倍になるぜ?」
「そ、それはちょっと……。けど、いっぱい食べたい……」
サビーの言葉に、ラセンが本気で悩み始める。
「いやいや、悩むのはそこじゃないから!」
こうして、私たちがこの街で過ごす最後の夜は更けていった……。




