第52話 今日は閉店です!
レストランで夕食。
分厚いベーコンステーキと格闘しているサビーを横目に、私はひとつ気になっていることを口にした。
「旅費なんだけど、ちょっと減っちゃって心もとないんだよね」
「た、たしかに……そうだね。乳牛が元気になったのは、うれしいけど……報酬とか、もらったわけじゃ、ないし……」
ラセンが小さく口をつけて、こくりとスープを飲む。
「それならよ、茉歩瑠の料理を……ぎ、ぎぎ……バザーで売れば、いいんじゃ、ないか?」
サビーはベーコンステーキが厚すぎて噛み切れないらしい。
切って食べれば?
「バザーって、サビーが焼きモウトロコシ食べてた、あれ?」
「そう、だっ!」
サビーがベーコンを食いちぎる。
「お店か……。でもぉ、登録料とか、お高いんでしょ?」
最初の街で食らった洗礼を思い出す。
金貨十枚とかやだよ?
「それなら大丈夫だ。俺、屋台を出してるおっちゃんに聞いたんだ。一日で銀貨二枚だってよ」
「えっ! なにそれ! お安い!」
まるで深夜の通販番組みたいなやり取りをしながら、出店の話がどんどん進んでいく。
「ま、茉歩瑠ちゃんのお料理……おいしいから、きっと売れるよ……」
「えへへ、そうかな」
ここにきて〝まんぷく亭 二号店〟の開店が現実味を帯びてきた。
問題は、どんな料理を売るかだ。
サビーが食べてるみたいな分厚いベーコンも美味しそうだけど、かまどが油でべとべとになりそう。
飼料のお礼にともらったチーズもコクがあってよかった。けど、料理にするとなると……。
うーん、むずかしいな。ほかに何か……。
……そうだ! この街には美味しいミルクがあるんだから、それを使わない手はないよね!
「ラセンってさ、氷系の魔法、使えたりする?」
「つ、使えるけど……なんで……?」
「ちょっと、いいこと思いついちゃって!」
にこにこしながら、ラセンを見る。
「な、なんでだろう……嫌な予感しか、しないんだけど……」
◇
「最後尾はここだ! 割り込むなよー!」
サビーの声が、バザーの広場に響く。
かまどに置いたプレートでクレープ生地を焼き、その上にラセンの氷魔法で冷やしたアイスクリームをのせる。
はいっ、アイスクレープの完成!
このひんやり甘い新しい食べ物は、あっという間に街中で評判になった。
急ごしらえの暖簾(もちろん〝まんぷく亭〟の文字入りね)の前には、長い行列が伸びている。
「ラセン、次のアイス!」
アイス担当のラセンに目をやる。
ラセンの横には、空になったリン仁豆腐の容器がいくつも積み上がっていた。
当のラセンは、すでに涙目だ。
「う、うぅ……茉歩瑠ちゃん……私、もう食べられない……」
「今日は閉店です!」
行列に向かって叫ぶ。
ラセンからこのセリフが出たら、その日の営業は終了だ。
「サビー、お客さんに謝って帰ってもらって!」
並んでいたお客さんたちから、一斉に不満の声が上がる。
ほんっとうにごめん!
でも、こればっかりはどうしようもないの!
◇
「わ、私……いらない……」
ラセンはうつむいたまま、水だけを口にしている。
「食わないと力出ないぞ!」
サビーは、今日も分厚いベーコンステーキにかぶりついている。本当に好きだな。
「だ、だって……リン仁豆腐で、お腹いっぱい……」
私は、リン仁豆腐に代わる魔力回復料理をまだ作れていなかった。
リン仁豆腐は魔力回復量のわりに食べる量が多いし、甘いせいですぐにお腹がいっぱいになる。
試しに茶碗蒸しみたいな味にもしてみたけど、ラセンの口には合わなかった。
「明日はバザーの屋台を休みにして、ラセン用の魔力回復料理の研究をしようと思うんだけど、どうかな」
「俺はいいぜ。連日働き通しだったからな」
「わ、私は……ぜひ、お願いしたいくらい……」
「よしっ! 決まり!」
リウタンの種をベースにするとして、問題は何を組み合わせるかだよね。
あとで、ちょっと調べてみよう。




