第51話 飲みたかったやつ!
柵の向こうにいる巨大な乳牛を、ウリ坊がじっと見つめている。完全に狩る者の目だ。
いやいや、あなたじゃ絶対勝てないから。
私はウリ坊をひょいと抱き上げて、牧場の事務所へ向かった。
「ごめんください!」
ひと気のない事務所に声をかける。
少ししてから――
「はいはい! どなた?」
奥から、オーバーオールを着た女性が出てきた。
そして、私を見るなり、あっと声を上げる。
「あー、あなたね! 工房のおじいさんから話は聞いてるわ。さ、入って!」
採掘場大爆破のあと、私たちはおじいさんの工房を訪ねた。
そこでおじいさんからウシカルムの粉を分けてもらい、その流れで、この牧場を紹介してもらったのだ。
「これなんですけど……」
モウトロコシとウシカルムを混ぜた飼料をテーブルに置く。
彼女は袋を開けると、中身をひとつまみ取って匂いを確かめた。
「ふーん。たしかに悪くないかも。これを普段の飼料に混ぜて与えればいいのね?」
「はい。配合の分量は、これに書いておきました」
メモを差し出す。
彼女はそれを受け取ると、ふんふんとうなずきながら目を通した。
「……なるほどね。オッケー、やってみるよ」
「よろしくお願いします!」
私たちは飼料のお礼にとチーズをもらい、牧場をあとにした。
◇
数日後。
「ぷはーっ! うまい!」
「お、おいしい……!」
「これこれ! 飲みたかったやつ!」
以前ミルクを飲んだあの店で、私たちはまたミルクを味わっていた。
甘い香りと、深いコクが口いっぱいに広がる。
「おいしいでしょー!」
店員の女性が得意げに笑う。
食材辞典に書いてあった飼料は大成功だった。乳牛たちはみるみる元気を取り戻し、上質なミルクを出すようになったのだ。
モウトロコシとウシカルムを混ぜた飼料の作り方は、街じゅうの牧場に広まっているらしい。
彼女が、ふと思い出したように私を見た。
「そういえばこれ、あなたのおかげなんだって? 街じゅうで噂になってるよ?」
「いえいえ。これは私ひとりのおかげじゃなくて、まんぷく亭みんなのおかげなんです!」
「まんぷく?」
彼女は、不思議そうに首をかしげる。
「私たちのパーティー名なんです。まんぷく亭」
「なるほどね、覚えておくわ! この街のミルクを救ってくれた英雄だもんね!」
そう言って、彼女はにこっと笑った。
そう言って、彼女はにこっと笑った。
宿への帰り道。
遠くから、牛の鳴き声が聞こえてくる。
今回はギルドの依頼じゃなかったから、全然お金にはなんなかったけど――まあ、みんな喜んでくれたし、これはこれでありかな。




