第50話 はい、リン仁豆腐!
翌朝。
私たちは採掘場へ続く森の中を歩いていた。
今日は採取じゃないから、荷車はなし。
お弁当はかばんの中だ。
「採掘場が魔物に占拠されたって、どういう状況なんだ?」
「そういえば、そこまでは聞いてなかった。それに、どんな魔物かも聞き損ねちゃった」
「いや、そこは聞いとけよ! 大事だろ!」
「だってあのおじいさん、いきなり叫んだりして怖かったんだもん。サビーは直接会ってないから、そんなこと言えるんだよ」
むすっとしながら歩いていると、やがて森が開けた。
眼下には、とんでもなく巨大な穴が口を開けている。
そっか。採掘場って、坑道じゃなくて、山そのものを掘り進めるやつか。
私たちは足を滑らせないように気を付けながら、その巨大な穴をそっとのぞき込んだ。
「……いるな」
サビーが低くつぶやく。
底のほうで、何かがうごめいているのが見える。
……なにあれ?
「どれ、俺が見てこよう」
ステッキがぱたぱたと穴の底へ降りていく。
しばらくして戻ってくると、私の耳元でささやいた。
「あれは、ローリーだな。お前の世界で言うダンゴムシだ」
「あー……」
なんか、すごく嫌。
だって、この距離から見てあの大きさでしょ? 近くで見たら絶対にでかいやつじゃん。
「で、あの魔物は何なんだ?」
私とステッキのやり取りに、サビーが割って入る。
「ローリーだって」
「やっぱりか。となると厄介だな」
「そうなの?」
「あいつ、めちゃくちゃ硬いんだ。たぶん、俺の短剣じゃ歯が立たない」
丸まったダンゴムシを想像する。うん、なんかすごく硬そう。
すると、ラセンがおずおずと口を開く。
「そ、それなら……私の魔法で、対処できる……かも?」
「ラセン、やれるの!? それなら――」
かばんを探って、小さな容器を取り出す。
「はい、リン仁豆腐! 召し上がれ!」
「うぅ……またこれ……」
空になった容器を手に持ったまま、ラセンの詠唱を見守る。
「大地を焦がす灼熱よ、紅蓮の渦となれ」
杖の先に、ファイアボールとは比べ物にならないほど巨大な火球が浮かび上がる。
離れた場所にいる私たちにまで、その熱がびりびりと伝わってくる。
「一握の灰すら残さず、すべてを焼き払え――ブレイズ・ヴォルテクス!」
叫びと同時に、火球がゆっくりと動き出す。
炎はみるみる加速しながら、採掘場の底へと落ちていく。
それが着弾した瞬間、採掘場全体が地獄の釜みたいに業火を噴き上げた。
「うわぁぁ!」「なんだありゃぁぁ!」
私とサビーの声が重なった。
やがて火柱が消え、私たちは熱気の残る穴をそっとのぞき込んだ。
魔物の姿はきれいさっぱり消えていて――ついでに、採掘現場も見事に粉々になっていた。
「こりゃまた、派手にやったのぉ!」
突然、背後から大声がした。
焼き物工房のおじいさんだ。
「ご、ごめんなさい……! か、加減を、間違えました……」
ラセンが、しどろもどろしながら頭を下げる。
「ほほぉ」
ラセンの謝罪を気にする様子もなく、おじいさんが穴の底をのぞき込む。
「おお、こりゃええわい!」
おじいさんが興奮気味に叫ぶ。
すると、どこに隠れていたのか、採掘場のあちこちから鉱員たちがわらわらと現れた。
みんな慣れた手つきで、砕けた鉱石をスコップで袋へ詰め込み始める。
「これって、どういう……?」
呆然とその光景を見つめたまま、おじいさんに尋ねる。
「なんてことはない、砕く手間が省けたってことじゃ。おっと、こうしとる場合じゃないのう。上等なウシカルムが手に入るんじゃ、さっそく皿を焼かんと! お前さんらも、あとで工房にこい!」
そう言うなり、おじいさんは慌ただしく戻っていった。




