第48話 サビーさん、あなた天才です!
「なるほどなー。王様、すげーなー」
サビーは椅子の背にもたれたまま、天井を見上げる。
「わ、私みたいな魔法使いが……魔力を失っただけじゃなくて……動物にまで、影響が出ているなんて……」
ラセンはそうつぶやくと、つらそうに目を伏せる。
「まさか、王の力がそこまで広く影響しているとは思わなかった」
ステッキも、さすがに驚きを隠せないようだった。
「だけどよ」
サビーが背もたれから身を起こす。
「これって、結局、王様を止めないとどうにもならないんじゃないか?」
そのとおり。根本の原因が王様なんだから、止めないと解決しない。
「それでもさ、なんとかしたいじゃん。なにか手はないかな?」
「……」「……」
しばらくの沈黙のあと、ラセンが小さく手を挙げた。
「あ、あの……茉歩瑠ちゃんの魔法で、ミルクを……おいしくできない、かな……?」
「それ、私も考えたんだよ。けど、私がここで魔法をかけてる間はよくても、この街を離れたら、結局また元に戻っちゃうんだよね」
「そ、そうだね……」
ラセンがしゅんとした。
「はい!」
今度はサビーが元気よく手を挙げる。
「サビーさん、どうぞ!」
「前に、茉歩瑠が花の匂いを嗅いでぶっ倒れただろ? ああいう感じで、牛を元気にできるような、もとから強い効果のある草とかないのか? それならお前の魔法に頼らなくても済むだろ?」
「はい! サビーさん、あなた天才です!」
私に褒められて、サビーが得意げに鼻の下をこする。
さっそくテーブルに食材辞典を広げて、ステッキに訳してもらいながらページをめくっていく。
「待て! あったぞ!」
牛の項目を開いたところで、ステッキが私の手を止めた。
「〝モウトロコシとウシカルムを餌に混ぜて与えると、良質なミルクが得られる〟と書いてある」
モウトロコシは、名前からして穀物っぽいな。
それと、ウシカルム。これはなんだろう?
それぞれを、食材辞典で引いていく。
モウトロコシは、やっぱり穀物だった。
効果は〝高栄養、高嗜好性〟。
栄養満点で、食べても美味しいってことか。
戦闘のバフになる感じじゃないけど、乳牛にはすごくよさそう。
ウシカルムは、鉱石だった。
けど、この辞典には簡単な紹介しか載っていなかった。
〝詳細は、第二巻「鉱石編」を参照〟だって。
……いや、第二巻持ってないんだけど。
◇
翌日。
私たちは、手分けして情報を集めることにした。
私が向かったのは、ハンマーの看板を掲げた店。
鍛冶屋なら鉱石に詳しいと思ったから。だって、鉄とか銅とか、そういうの使いそうだし。
店の外まで、鉄を打つ音が響いている。
中に入ると、並んでいたのはバケツや干し草用の大きなフォークなど、酪農家向けの道具ばかりだった。
私に気づいたおじさんが、手を止めてこちらを見る。
「いらっしゃい。何が欲しいんだ?」
「あ、えっと……農具じゃなくて、鉱石を探してるんですけど……」
「鉱石? 何に使う気だ?」
おじさんが、私の頭のてっぺんからつま先まで、じろりと見た。
うわ、完全に怪しまれてる。
「じ、実は――」
慌てて、ウシカルム鉱石を探していることを説明する。
「ウシカルム鉱石か。ウチじゃ使わねぇな」
「知ってるんですか!?」
「ああ。あれを使うのは、どっちかっていうと焼き物の工房だな。皿とかを作る材料に混ぜる」
なるほど、そっちか!
「その工房って、この街にもありますか?」
「あるよ。店を出て、丘を登った先だ。大きな煙突があるからすぐわかる」
「ありがとうございます!」
おじさんにぺこりと頭を下げて、店を飛び出そうとした。
「ちょっと待て!」
急に呼び止められて、駆け出した姿勢のまま足を止める。
「行くのはいいんだが……工房のオヤジ、かなりうるさいぞ?」
うわぁ。
職人気質とか、そういうやつか……。
苦手だなぁ……。
でも鉱石のためだ。行くしかない。
「わかりました。とにかく行ってみます」
私はもう一度お礼を言って、店をあとにした。




