第44話 今すぐ作るね!
「ぷいっ、ぷいっ、ぷいっ」
ウリ坊が、珍しく私の足元をとことこと歩いている。
しかも、やたらご機嫌そうだ。
ずっと街にいたぶん、こうして自然の中を歩くのが嬉しいのかもしれない。
次の街までの道はきれいに整備されていて、荷車もすいすい進む。
道行く人と挨拶なんか交わしちゃったりして、気分はすっかりピクニックだ。
ふと、ウリ坊がぴたりと足を止める。
道端に咲く白い花。
その前で、こっちを振り向いて「ぷいぷい」と鳴いた。
「ん? 何か見つけた?」
かばんから食材辞典を取り出して、花の項目をめくる。
あった、これだ。
「〝スリートピー〟っていうのか。なになに? 〝花粉に強力な睡眠作用〟? ……とりあえず、何本か摘んでおこう。使うかわかんないけど」
花を数本、そっと摘み取る。
「どんな香りなんだろう?」
私はそのうちの一本に鼻を寄せて、くん、と匂いを嗅いだ。
◇
「はっ!」
ぱちりと目を覚ますと、群青色の空が目に入った。
「えっ!?」
飛び起きて、慌てて周囲を見回す。
焚き火の明かりに照らされたサビーとラセンの姿が見えた。
「やっと起きたか。お前、花の匂いを嗅いで、そのままぶっ倒れたんだぞ。覚えてないのか?」
サビーは完全に呆れ顔だ。
ラセンも、その横で苦笑いをしている。
「で、でも……無事に目を覚ましてくれて、よかった……」
ああ、そういうことか。
食材辞典に書いてあった〝花粉に強力な睡眠作用〟ってやつだ。
私が魔法をかけなくても、もともと強い効果を持つものもあるってことか。
ちょっと匂いを嗅いだだけなのに……。
「うぅ、なんかごめん。心配かけたよね……」
これからは、むやみに嗅いだり食べたりしないように、気をつけないと。
「ぐぅぅぅぅ」
不意に、静かな夜に重低音が鳴り響く。
サビーの腹の音だ。
「茉歩瑠。俺、腹が減っちまって、もう限界だ」
「ごめんごめん! 今すぐ作るね!」
荷車の屋根に吊り下げたランタンに火を灯す。
荷台の中が、やわらかな光に包まれる。
袋からリウタンの種をひとつ取り出して、それを地面に置く。
「レーナ! クーシ! イオ!」
呪文が種に触れた瞬間、光がぱっと散った。
「よしっ!」
種をかまどに放り込む。
つまみを回すと、青白い炎が勢いよく立ち上がった。
炎を調節して、水を張った鍋をかける。
そう。試したかったのはこれ。
リウタンの種に魔法をかければ、燃料としても多くの魔力を引き出せるんじゃないか。そう考えたのだ。
結果は大当たり! 鍋はすぐに湯気を立て始めた。
手早く材料の下ごしらえを終え、かまどにフライパンを乗せる。
具材とお米を入れ、スープを足しながら煮込んでいく。
お米がやわらかくなり、具材にもしっかり火が通ったところで、最後に味を整える。
仕上げに、ステッキをひと振りして――リゾットの完成だ。
「おまたせ。クスイルとドエリナのリゾットだよ」
〝ドエリナ〟は、街の八百屋でみつけた、じゃがいもみたいな根菜。
食材辞典で調べたところによると、体力回復の効果があるらしい。
「うまい!」
「こ、これ……おいしい」
空腹だったこともあってか、二人が黙々と料理を口に運ぶ。
「ぷいぷい」
ウリ坊もお尻をふりふりさせながら、皿に顔を突っ込んでいる。
ウリ坊のごはんは、街で買ったペットフード。すっかり気に入ったみたいで、最近はこればかり食べている。
「私も食べよっと!」
自分の分を皿によそい、切り株に腰を下ろす。
スプーンでひと口すくった、その瞬間――
「わー! おいしそう!」
すぐそばで、女の子の声がした。




