第43話 チキンと私を並べないでよ!
いよいよ明日、この街を発つ。
今日は旅支度のために、朝からあちこち駆け回っていた。
まずは服装。
町娘みたいな服のままじゃ心もとないから、薄手の革で仕立てられた旅装を新調した。
服屋じゃなくて、防具店で買ったところが、ちょっと冒険者っぽい。
それから食材。
次の街までは、歩いて一週間ほどかかるらしい。
私は三人分の食料を買い込んで、荷車にせっせと積み込んだ。
食材辞典を片手に、保存がきいて、なおかつバフ効果のあるものを選び抜いた。
もちろん、燃料兼食材のリウタンの種も忘れない。五袋まとめて買って、これも荷台に積み込んだ。
最後に野宿の準備。
キャンプなんてしたことないけど、道具屋さんで聞いたら必要なものをまとめて見繕ってくれた。
テントに寝袋、それにランタン。
野宿用の食器も一式そろえた。
「ほんと、荷車を買って大正解だったね」
買ったばかりのランタンを、荷車の屋根に吊るす。
私にとってこの荷車は、移動する秘密基地みたいなものだ。
大量の荷物を楽に運べるし、煮炊きもできる。
初めての旅なのに、不思議と不安はない。
むしろ、少しわくわくしているくらいだ。
「どんな旅になるんだろうね」
「そうだな」
私はステッキと並んで、秘密基地を見上げた。
その夜。
私とサビーは、この街で最後になる夕食を食べていた。
もちろん、例のチキン。
「このチキンともお別れか……。茉歩瑠と一緒に行くって決めて、唯一の心残りだぜ」
「ちょっと、チキンと私を並べないでよ! すっごく美味しいのは認めるけどさ」
遠足の前日みたいな、妙に落ち着かない高揚感のまま、私はチキンにかぶりつく。
二人で笑っていると、レストランの入り口からラセンが入ってくるのが見えた。
うつむき加減のまま、まっすぐに私たちのテーブルへ歩いてくる。
「……な、何日も来なくて……ごめんなさい……」
ラセンは立ったまま、ぺこりと頭を下げた。
「いいって。ほら、座って。一緒に食べよ」
ラセンは小さくうなずいて、無言のまま席に着く。
追加で頼んだチキンが運ばれてきたところで、ラセンが口を開いた。
「あ、あの……一緒に行くかどうか、なんですけど……」
私はチキンを食べる手を止めて、ラセンの次の言葉を待った。
「しょ、正直に言うと、自信がない、です……」
ラセンはうつむいたまま、途切れ途切れに言葉をつなぐ。
「イ、イグラルト国の王様は……私も、知っています。一度だけ、見たことがあって……」
ラセンって、王都に行ったことがあるんだ。
「す、すごい方でした……。オーラっていうんでしょうか……見ているだけで、めまいが、しました……」
その言葉だけで、背筋がひやりとした。
同時に、危うく「私、なんてことを……」と考えそうになる。
「なので、その……怖いです……」
ラセンが言っていることは正論だ。怖いし、勝てる気もしない。
気づけば、サビーもチキンを食べる手を止めていた。
テーブルが、重たい沈黙に包まれる。
「一緒に来てくれ! 二人の力を貸してくれ! 頼む!」
突然、ステッキがテーブルに飛び乗り、二人に向かってくにゃりと曲がる。
「きゅ、急にどうしたの!? ちょっと、落ち着いて!」
私は慌てて立ち上がり、ステッキをなだめる。
「えっ!? あ、あの、頭を上げてください……!」
ラセンもあたふたと声を上げた。
「ま、まぎらわしい言い方をして……ごめんなさい。わ、私、茉歩瑠ちゃんたちと……一緒に行くって、伝えに来たんです」
「えっ!」
思わず、今度は私が声を上げた。
この流れ、絶対に断られるやつだと思ってたのに。
ラセンが続ける。
「さ、さっき言ったことは……本当です。すごく、怖いです……。でも、それでも……茉歩瑠ちゃんと、サビーと、一緒に行きたいって、そう思って……」
「どうして……?」
思わず聞き返す。
ラセンが少し困ったようにうつむく。
「ど、どうしてでしょう……。一緒に依頼を受けて……あんまり食べられないけど、一緒にごはんを食べて……。それが、楽しかったから、かな……」
ラセンが顔を上げて、はにかむようにほほ笑んだ。
テーブルの上のステッキが、私たちの顔をひとりずつ見回す。
それに応えるように、サビー、ラセン、そして私がうなずく。
「本当に、ありがとう」
先端の宝石が、きらりと小さく光った。




