第41話 二人にも、一緒に来てほしいの
その夜。
待ち合わせのレストランに来たものの、まだ二人の姿はなかった。
サビーと何度も通った店なのに、今日はやけに落ち着かない。
見慣れたはずの店内が、どこかよそよそしく見える。
緊張をごまかすようにお茶をすすっていると、やがて二人が一緒に店内に入ってきた。
「待たせたな! そこでラセンと会ったんだ。俺、もう腹ぺこだー」
「お、おまたせしました」
二人が私の向かいに座る。
ちなみに今日は、ステッキにも同席してもらっていた。
「ラセンは初めましてだよね。紹介するね。これ、私のステッキ」
ぴょん、とステッキがテーブルに飛び乗る。
「よろしくな」
「あ、はい。よろしくお願いします。ステッキさん、魔道具なんですね」
やっぱり。
魔道具ってこの世界じゃ普通なんだ。って、今はそこじゃない。
本題に入らないと。
「お腹すいてるところ悪いんだけど、食事の前に二人に話しておきたいことがあるの」
私の様子を見てか、サビーが少しだけ表情を引き締めた。
「どうしたんだよ、そんなに改まって。いいから話してみろよ」
「え、ええ。お話を、聞かせてください」
二人にうながされて、私はゆっくりと口を開いた。
私が目指しているのは、イグラルトという国。
その国の王が、世界中から魔力を奪ったこと。
そして、その王を止めることこそが、私の目的だということ。
――ただ、私が別の世界から来たことだけは、話さなかった。
二人は黙って、最後まで私の話を聞いてくれた。
ひととおり説明し終えた私は、震えそうになる声をなんとか押さえ込んで、最後の言葉を口にする。
「――二人にも、一緒に来てほしいの」
しんとした時間が流れる。
その沈黙を破ったのは、サビーだった。
「いいぜ! 俺は行く! 魔法使いたちが魔力を失った原因がその王様なんだろ? だったら、ほっとけるわけないだろ!」
「サビー……」
胸の奥が熱くなって、涙がにじみそうになる。
私はそれを必死にこらえた。
続いて、ラセンが口を開く。
「わ、私は……」
けれど、そこで言葉が止まった。
迷うように視線を揺らす彼女。そして……。
「す、少し……考えさせて、ください……」
当然だ。
王様を止めるのを手伝ってなんて、冷静に考えればむちゃくちゃな話だ。
「うん。ラセンが決めることだから。答えが出たら、教えて」
「は、はい……」
ステッキが、二人に向かって深く折れ曲がる。
「二人とも、すまない」
かちゃかちゃと、皿にナイフとフォークが当たる音だけが響く。
こんなに味がしない食事は、初めてかもしれない。
この空気をどうにかしようとしてくれているのか、サビーが時々「うまいな!」と声を上げる。
けれど、すぐに静けさが戻る。
「あ、あの……」
ラセンが、そっと食事の手を止めた。
「ま、茉歩瑠ちゃんは……なんで、そんな大変なことを、しようとしてるの?」
「え? 茉歩瑠〝ちゃん〟?」
突然の〝ちゃん〟付け呼びに、私は思わず聞き返した。
「あっ! ご、ごめんなさい! 急に、なれなれしかった、です……」
「いや、急すぎるだろ!」
サビーのツッコミに、私は思わず吹き出す。
「ふふっ、あははははっ!」
大笑いする私とサビーを前に、ラセンは耳まで真っ赤にしてうつむいた。
「ごめんごめん! 全然いいよ、ちゃん付けで! それで……なんだっけ。ああ、そうだ、『なんでそんな大変なことをしようとしてるのか』だよね」
もちろん『宝物庫のお宝に目がくらんで』なんて絶対に言えない。
それに、別の世界から来たことも話してないし。
どう答えようかと、目を伏せる。
すると――
「……簡単には……言葉にできないくらいの、覚悟が……あるんですね」
私の沈黙を、ラセンが都合よく受け取ってくれた。
……た、助かったぁ。
「それじゃ、また明日ギルドで!」
私たちは、レストランの前で別れた。
宿へ戻る夜道。満天の星空を見上げながら、ぽつりとこぼす。
「ラセンが悩むのは当然だよね。私だって勢いでこっちに来ちゃったけど、たまに後悔するもん」
「そうなのか?」
腰のステッキが、意外そうに声を上げた。
「そりゃそうでしょ。こっちはもう何回か死にかけてるんだよ? こんなに危険だなんて思ってなかったもん」
「……そうだな。すまない」
「あのさー、前から言おうと思ってたけど。あなた最近、謝りすぎ。逆にこっちが不安になるから、もうちょっと堂々としててよ」
「そうだな。すまん」
「ほらまた!」
私はくすりと笑った。
「……でもさ、いろいろ工夫したり、苦労したり、仲間に出会えたり……。後悔することもあるけど、それ以上に毎日けっこう充実してるんだよ。今のところはね」
「……ありがとうな」
「そうそう、それ! 『ありがとう!』 いいじゃん!」
腰からステッキを外す。
ステッキが羽をぱたぱたさせながら、私の隣に並ぶ。
「宿まで競争!」
私は宿へ向かって、勢いよく駆け出した。




