第38話 ファイアボール一発分くらいは食べて!
「炎よ、我が杖先に灯り、仇なす者を撃て! ファイアボール!」
ラセンが呪文を唱える。
杖の先に生まれた火球が、まっすぐにウサギめがけて飛ぶ。
けれど、ウサギはそれを寸前で跳んでかわす。
「ちっ!」
ラセンが舌打ちして、すぐさま次の詠唱に入る。
舌打ち!? こんなの、私が知ってるラセンじゃない!
その横では、サビーがもう一羽とやり合っていた。
サビーが振り下ろした一撃を、ウサギが頭の角で受け止める。甲高い音が畑に響く。
うわっ。このウサギ、思った以上に手ごわい。
私は次の一手のために、リュックの中を探る。この状況なら――これだ!
「サビー!」
クスイルの実入り焼き菓子を放ると、サビーはそれを片手で受け取り、そのまま一気に頬張る。
「ファイアボール!」
再びラセンの杖から火球が放たれる。
炎は、サビーと角を打ち合わせていたウサギの背中に直撃した。
「ピギィ!」
悲鳴を上げて、ウサギが地面に倒れる。
「やった! まずは一羽! って、あれ?」
ラセンが、ふらふらとした足取りでこちらへ戻ってくる。
「どうしたの?」
「あ、あのぉ……魔力が……」
えーっ、ファイアボール二発で終わりなの!? 燃費、悪くない!?
リュックからリン仁豆腐を取り出し、ラセンに渡す。
「はい、おかわりどうぞ」
リン仁豆腐をかき込むラセンの目に、再び力が戻る。
「うおーっ!」
そのまま勢いよく戦場へと駆け戻っていく。
魔力の残量で性格まで変わるの?
なんか、こっちが疲れるんだけど……。
サビーとラセンの戦闘は続く。
動きの速くなったサビーがウサギをかく乱し、その隙を突いてラセンがファイアボールを叩き込む。
息の合った連携は、やっぱり前に同じパーティーを組んでいたからかも。
あと一羽、というところで、ラセンがまたふらふらと戻ってきた。
私は何も言わず、リン仁豆腐を差し出す。
ラセンもそれを無言で受け取る。
スプーンですくって、ひと口。
その直後――
「も、もう……食べられない……」
「えぇっ!?」
「わ、私……その……実は、小食で……」
盲点だった。
サビーがあまりにも毎回もりもり食べるせいで、そんな可能性これっぽっちも考えていなかった。
ラセンって、小食だったのか!
「せ、せめてファイアボール一発分くらいは食べて! あとは残していいから!」
「は……はい……うぅ……」
ラセンは今にも泣きそうな顔で、スプーンを口に運ぶ。
容器の半分ほど食べたところで、ぴたりと手が止まった。
「もう……無理です……いってきます……」
よろよろと戻っていくラセン。
その直後、最後の一羽がこんがりまる焦げになった。
お腹いっぱいでぐったりしているラセンを荷車に乗せて、街へ戻る。
「うぅ……。ご、ごめんなさい……」
「いいよ、気にしないで。街に着くまで寝てていいから。そうだ、お腹いっぱいのときは、右を下にして寝ると楽になるらしいよ」
「は、はい……」
ラセンは小さく返事をして、ごろりと横向きになる。
リン仁豆腐二つ半でお腹いっぱいになっちゃうのか……。
サビーみたいに、私のバフ飯でラセンも強化できれば討伐依頼も楽勝! なんて思ってたけど、これはちょっと作戦を立て直さないとまずいかも。
それに、戦士と魔法使いじゃ相性のいいバフも違うはずだから、食材探しも、料理の研究も、もっとがんばらなくちゃいけない。
あと、報酬も三人で分けるから、今までより難しい依頼も受けていかないと。
料理の研究に、パーティーのやりくりに……あれ?
なんか急にやること増えてない!?




