第37話 受けちゃう? 討伐依頼
「受けちゃう? 討伐依頼」
数日後、私たちは依頼掲示板の前で、どの依頼を受けるか悩んでいた。
最近まで掲示板なんてほとんど見ないで、受付に直行して「キノコ!」だったから、こうしてじっくり眺めるのは久しぶりだ。
なんだか懐かしいような、それでいて妙に新鮮でもある。
なんで新鮮なのかって?
もちろん、Bランクまでの依頼を受けられるようになったから。
魔物の討伐、洞窟での希少鉱石の採取、要人の護衛――報酬も、金貨十枚なんてのは当たり前で、中には三十枚なんてやつまである。
そのぶん、難易度も見るからに高そうだ。
「これなんてどうだ?」
サビーが指さしたのは、見覚えのあるシルエットの魔物が描かれた魔物討伐だった。
……これ、ウリ坊の親と同じ魔物だ……。
「うーん、ちょ、ちょっと、いまいちかなぁ」
あいまいに笑ってごまかし、視線をほかの依頼書へと向ける。
「こ、これなんて……どうでしょう?」
ラセンが遠慮がちに指したのは、ウサギみたいな魔物を討伐する依頼だった。
なになに? 〝畑を荒らす魔物を退治。報酬、金貨十枚〟。
「見た感じ、なんか弱そうだし、報酬も金貨も十枚か……。いいじゃん! これにしよう!」
私はその依頼書を剥がすと、受付へと向かった。
◇
「この畑にでるんじゃよぉ。奴らのせいで、収穫前のジンニンが台無しじゃて」
おじいさんが指さした先には、見渡す限りのジンニン畑だったものが広がっていた。
そこかしこが掘り返されて、畑というより穴ぽこ地帯だ。
「私たち、まんぷく亭におまかせください!」
畑の持ち主であるおじいさんの前で、自信満々に胸を叩く。
「まんぷく……? まぁ、なんでもええわ。たのんだで」
おじいさんはそう言い残して、家のほうへ戻っていった。
「さてと、討伐対象はどこかなー」
畑をぐるりと見渡す。
すると遠くの畝で、白い影がいくつか、ぴょこぴょこと跳ねているのが見えた。
「いた! 見た感じ、完全にウサギだなー。ウサギ狩りなんて、ちょっとかわいそうかも」
私たちは身をかがめ、土を踏む音を殺しながら、慎重に白い影へと近づいていく。
「……前言撤回。あれ、普通にやばいやつだ」
見た目こそウサギ。
白くて、丸くて、ぴょんぴょん跳ねる。
けれど、サイズは大型犬並み。しかも、頭にはやたら立派で鋭い角が生えている。
あんなもので突かれたら、ひとたまりもない。
ここは気を引き締めて行かないと。
数は全部で三羽。まだこちらには気づいていない。
「よっこいしょ」
リュックを下ろし、おにぎりをひとつ取り出してサビーに渡す。
「どうも!」と、サビーは当然のように受け取り、もしゃもしゃと食べ始める。
「え? こんなときに……ごはん、ですか?」
その様子を見ていたラセンが、目をぱちぱちさせた。
私は説明せず、さらにリュックの中を探る。
そして、小さな容器を取り出した。
「はい、これはラセンの分。食べて」
「えっ? えっ? い、今ですか?」
「そう。食べて」
ラセンは疑問符を頭に浮かべたまま、容器を受け取る。
蓋を開けると、中にはプリンのような、薄黄色のぷるぷるしたデザートが入っていた。
「こ、これは?」
「リウタン仁豆腐。略して、リン仁豆腐。甘くて美味しいよ」
「は、はぁ……」
ラセンは不安そうにしながらも、覚悟を決めたようにスプーンですくう。
スプーンの上で、ぷるんと揺れるリン仁豆腐。
おそるおそる口に入れ、こくんと飲み込む。
瞬間、ラセンがかっと目を見開いた。
「えっ、えっ!? な、なに!? 魔力が……魔力が全身に……えっ?」
混乱しながらも、ラセンはひと口、もうひと口と、リン仁豆腐を食べ進める。
器の中身は、あっという間に空になった。
試作しておいたリン仁豆腐。
私の魔法で〝魔力回復〟の効果を引き出してある。
これならラセンの魔力を回復できるんじゃないかと思って持ってきたんだけど、大成功だ!
「……全身に魔力がみなぎってる! 行ける……これなら行けるっ! サビー、遅れないで!」
ラセンは勢いよく声をかけると、そのままウサギへ向かって飛び出した。
サビーもすぐに後を追う。
え? あれ? ラセンって、そんなキャラだったっけ?
あっけに取られながらも、私は慌てて二人のあとを追った。




