第35話 サビーがいいなら、私はいいよ
「お礼はさっき聞いたよね? 今度は何?」
なかなかキノコ狩りを始められなくて、少しだけいらつきながらラセンに尋ねる。
「……」
けれど、ラセンはうつむいたまま何も言わない。
「歩きながらでもいい? 私、キノコ探さなきゃいけないし」
ラセンがこくりとうなずいた。
荷車を引く私の隣を、ラセンがとぼとぼとついてくる。
その様子を横目で見て、いつもと様子が違うことに気づく。
この子、いっつもおどおどしてるけど……今日はただ、元気がないように見える。
「ねぇ、何かあった? パーティーで揉めたとか」
「えっ!」
ラセンがぴょこんと肩を揺らした。……どうやら、図星らしい。
「実は……」
「なーんだってえぇぇ!」
思わず森の中で叫ぶ。
驚いた鳥たちが、ばさばさと一斉に飛び立つ。
ラセンはパーティーをクビになっていた。
しかも理由が、「魔力石代が高いから」だって!
そんなの、ラセンのせいでもなんでもないじゃん!
「ラセンが悪いんじゃなくて、魔力石が高くなったからって? 魔法使いはコストがかかるって? なにそれ! そんな理由でクビにするとか、あいつバカなんじゃないの!?」
脳裏に浮かぶのは、私のチキンを勝手にもしゃもしゃ食べていた、あの腹立つ顔。
あー、思い出しただけでイライラする。
「それで、これからどうするの?」
うつむいたままのラセンに尋ねると、彼女は小さな声で答えた。
「ま、まだ何も、決めてなくて……。でも、まずは、お礼を言いに行かなきゃって……思って」
なんていい子。
ガークのパーティーにいたせいで、私たちのところには来づらかったはずだ。
それで、クビになって最初にしたことが、お礼を言いに来ることだなんて。
……それはそうとして。
「お礼の話はわかったけど、なんでまだついてきてるの?」
「それは……」
ラセンが急にもじもじし始めた。
「ラセン、俺たちのパーティーに入りたいんじゃないのか?」
横で聞いていたサビーが口を挟む。
途端に、ラセンの耳が真っ赤になった。
「……そうなの?」
「……はい……」
ラセンは指先をつんつん合わせながら、小さく返事をした。
「なーんだ、そういうことか。サビーがいいなら、私はいいよ」
「俺も、茉歩瑠がいいなら問題ないぜ!」
その言葉に、ラセンがはっと顔を上げる。
「あ、あの……ぜひ、よろしくお願いします!」
◇
キノコでぱんぱんに膨らんだ袋が、荷台の上でぽんぽんと跳ねている。
行きは二人だったパーティーが、帰りには三人になっていた。
なんか、冒険してるって感じがして面白い。
道すがら、ラセンからいろいろと話を聞いた。
やっぱり、魔力が自然に回復しなくなったことで、かなり苦労しているらしい。
予想してはいたけど、実際に話を聞くとやっぱり大変そうだ。
ギルドの依頼を一度こなすたび、魔力石をひとつ、ふたつと消費する。
報酬が金貨十枚の依頼でも、そのうち二割が魔力石の代金で消えてしまう。
ガークは、それが我慢できなかったのだろう。
でもさ、戦力を減らしたら、そのぶん依頼をこなすのもきつくなるんじゃないの?
魔法使いって、かなり大きな戦力だよね。
「それじゃ、ガークは僧侶の子と二人で頑張ってるってこと?」
「た、たぶん……。い、今はどこのパーティーも、人手不足ですから……」
どうやら、魔法使いの維持費が重いのはガークたちだけの話じゃないらしい。
魔法使いを外して、その代わりに戦士を入れるパーティーも多いんだとか。
……うーん、なんか世知辛い。
あれこれ話をしているうちに、気がつけば街に戻ってきていた。
ギルドの前で荷車を止める。
「それじゃ、キノコを納品してくるね!」
荷台からキノコの袋を下ろそうとしていると、ラセンが遠慮がちに口を開いた。
「え、えっと……そ、それなら一緒に、私の追加登録の手続きも……。パーティーへの追加……」
「ん? パーティーって、登録が必要なの?」
「そうなのか?」
私とサビーは、そろって首をかしげた。




