第33話 冒険に使える荷車が欲しいんですけど
私は倉庫街の一角にある、荷車専門の店に来ていた。
「荷車っていっても、こんなに種類があるんだ……」
二輪で、前に引き手がついている。
基本の形は同じでも、荷台の作りは用途によってまるで違うみたいだ。
どれを選べばいいのかわからなくて、店のおじさんに声をかける。
「すみません。冒険に使える荷車が欲しいんですけど」
「冒険? そりゃまた珍しいな。普通は野菜とか木箱とか、そういう荷物を運ぶために買うもんだろ」
「えっと、食料を運んだり、依頼で採ったキノコを持ち帰ったり……いろいろ使いたくて」
「そうだなぁ……」
おじさんは頭をぽりぽりとかきながら、しばらく考え込んだ。
やっぱり、冒険者向けの荷車なんてないよね。
「それなら――」
そう言って、おじさんは一台の荷車の前で足を止めた。
「これがいいんじゃないか? 用途をひとつに絞っていない、汎用型の荷車だ」
それはそう。
あまりにもそのまんまな提案に、思わず顔がゆるむ。
「おまえ、今『それはそう』とか思っただろ」
ぎくっ! このおじさん、妙に鋭い!
「い、いや……はい……」
「まあいい。最後まで説明を聞いてから、買うか決めてくれ。こいつはただの汎用型じゃあない。あとから用途に合わせて拡張できるようになっている。そのための溝や穴が、最初から作ってあるんだ」
「へぇ」
ちょっと興味が湧いてきた。
たしかに、よく見るとほかの荷車にはない溝がいくつもある。
何かを固定するための作りっぽい。
「しかもだ。この溝は、どの荷車屋の部品でも取り付けられるように、作りが共通になってるんだ。だから、旅先の店でも拡張できるってわけだ。もちろん、俺の店でもな」
なるほど。
今は荷物が運べれば十分だけど、あとから必要になった機能を足せるのはかなり便利かも。
しかも、旅先で荷車屋を見つければ、そこでも拡張ができるってことだよね。
すごいじゃん!
「これ、買います!」
「おいおい、お嬢ちゃん、即決かよ。まあいい、金貨十枚だ。払えるか?」
金貨十枚か……。ギルドの登録料を思い出すなー。
でも、今回は完全に必要経費だ。
「大丈夫です!」
「そうか。なら、明日取りに来てくれ。整備しておく。金もそのときにな」
「はい!」
◇
翌日、私はサビーを連れて荷車屋に来ていた。
「すげー! 新車じゃん!」
サビーが少年のように目をきらきらさせながら、荷車のまわりをぐるぐる回る。
いや、実際、少年なんだけど。
私は店のおじさんに金貨十枚を渡す。
「たしかに受け取ったぜ。これでこいつはお嬢ちゃんのものだ。大事に使ってくれよ」
そう言われると、なんだか気分が上がる。
車なんて買ったことないけど、新車を受け取るときって、たぶんこんな感じなのかも。
「よいしょっと」
引き手の間に入って、ぐっと力を込める。
「よしっ!」
そのまま荷車を引いてみる。
「軽っ!」
思っていたよりもずっと軽い。
これなら荷物を山ほど積んでも、ちゃんと運べそうだ。
「ありがとうございます!」
おじさんにぺこりと頭を下げて、私は荷車を引きながら店をあとにした。
「ちょっと、俺にも引かせてくれよ」
宿へ戻る途中、興味津々のサビーが、目を輝かせてこちらを見ている。
「いいよ」
私はサビーに引き手を譲った。
「すげぇ! 軽い! 楽しい!」
サビーはすっかりはしゃいで、上機嫌に荷台を引く。
「ちょ、気を付けてよ! 新車なんだから、ぶつけないでよ!」
「大丈夫だって!」
笑いながら荷車を引くサビーの後ろを、私もつられて笑いながら追いかけた。




