第29話 何言ってんのこいつ!
長く伸びた影を追いかけるように、街道を歩く。
元気になったウリ坊も、私の足元をとことことついてくる。
「そういえば、ラセンに声、かけなくてよかったの?」
「べつに。それに、『俺たちに関わるな』って言われてるしな」
「そっか」
サビーがそう言うなら、私があれこれ言うことじゃない。
やがて、街の明かりが見えてきた。
ほっとした途端、張っていた糸が切れたみたいに、全身から力が抜ける。
「ごめん……。サビー、ちょっと肩、かして……」
◇
テーブルの上に、食べ終えた皿がうずたかく積み上がっている。
今回はやけ食いじゃなくて、無事に緊急依頼を達成したお祝いだ。
金貨五枚もゲットしたし、今夜は贅沢に行っちゃうよ!
「すみませーん! チキン追加で!」
口のまわりをべたべたにしながらチキンを頬張るサビーを見ていたら、なんだか負けていられない気分になってきた。
私も豪快にチキンにかぶりつく。
やっぱり、ここのチキンは最高だ!
「おい、あまり食いすぎるなよ」
ステッキの忠告を右から左に聞き流し、次のチキンに手を伸ばす。
その瞬間、横からひょいとさらわれた。
「ちょっと! それ、私の!」
文句を言いながら顔を上げると、そこにいたのは――ガーク!
奴は私のチキンを勝手にもしゃもしゃ食べながら、横目でこっちを見ている。
「ちょっと! なんで勝手に食べてるの!」
「わりいな。俺もちょうど腹が減っててな」
ガークの後ろでは、女僧侶が鼻で笑うように口元をゆがめ、ラセンは相変わらずおろおろしている。
「……何? 何の用?」
露骨に嫌な顔をして、ガークを睨みつける。
「用があるのはお前じゃねぇ。なあサビー、もう一回、俺のパーティーに入れてやってもいいぜ?」
はぁ!? 何言ってんのこいつ!
サビーを追い出したの、お前じゃん!
けれどサビーは、ガークの言葉なんてまるで聞こえていないみたいに、黙々とチキンを食べ続けている。
サビーの無反応などお構いなしに、ガークはさらに続ける。
「お前、前よりは多少ましになったみたいだからな。また仲間にしてやるって言ってんだ。どうせ今はひとりなんだろ?」
「……まあな。今はひとりだ」
二人のやり取りを、私は黙って聞いていた。
胸の奥がぎゅっとして、飲み込んだチキンが喉に引っかかる。
サビーはあんな扱いを受けていたけど、それでも元いたパーティーだ。
戻ればAランクの依頼だって受けられる。
私と一緒にいても、やることはキノコ狩りだ。
――これは、サビーが決めることだ。
そう自分に言い聞かせて、私はなんとかチキンを飲み込んだ。
「それなら、俺のパーティーに――」
「いや、いいや。俺、茉歩瑠とパーティー組むつもりだから」
「えっ!?」「なっ!?」
私とガークの声が重なる。
予想外だったのか、ガークが戸惑った顔で私を指さす。
「そいつって、この女か? お前、この女と組む気なのか?」
「そうだ。俺、もう決めてるから」
サビーはあっさりそう言うと、次のチキンに手を伸ばす。
「はっ、そ、そうかよ! いかにも低ランク丸出しのその女と組むなら、好きにしろ! そのかわり、二度と俺のパーティーに戻れると思うなよ!」
「……」
サビーは何も言わず、ただチキンを頬張っている。
「くっだらねぇ!」
吐き捨てるように言うと、ガークは椅子を蹴り、レストランを出ていく。
女僧侶も、サビーを睨みつけて、その後に続いた。
ラセンだけが、おろおろと何度もこちらを振り返りながら、小走りで二人のあとを追っていった。




