第27話 約束してた別の料理を持ってきたよ
「ふんふんふーん。キノコはどこかなー」
「ぷいぷいぷーい」
ウリ坊と一緒に、鼻歌まじりで森の中を進む。
「おい、今日の依頼はキノコ採取じゃないんだぞ。わかってるのか?」
隣をぱたぱたと飛ぶステッキにたしなめられる。
「わかってるって!」
けど、空は気持ちよく晴れ渡っていて、気分はすっかりピクニックだ。
どうせ、他のパーティーも探索してるし、私はいつもどおりキノコでも掘って過ごそうと思っていた。
明日キノコ狩りの依頼を受ければ、そのまま納品できるし。
「……」
そんな私の後ろを、サビーが黙ったままついてくる。
当然かもしれない。
これから探しに行くのは、自分をあんな目に遭わせた連中なんだから。
「ごめんね。サビーの気持ちを考えたら、この依頼、受けないほうがよかったかも」
「……いや、いいんだ。今、俺を雇っているのは茉歩瑠だしな。それに、うまい飯も食えるし」
最後だけ冗談めかして、サビーは苦笑いを浮かべた。
「キノコみーっけ!」
緊急依頼のことなんてすっかり頭から抜けて、私はウリ坊と一緒にキノコ掘りに夢中になっていた。
今日はいつもより豊作だ。
持ってきた袋に入りきらないかもしれない。
「茉歩瑠、そろそろ飯にしようぜ。俺、腹が減っちまった」
気づけば、太陽はもうてっぺんまで昇っている。
「そうだね。あの木陰で食べよっか」
大樹の根元に腰を下ろし、バスケットを開ける。中をのぞき込んだサビーの目が、ぱっと輝いた。
「いただきまーす!」
サビーはさっそくおにぎりにかぶりついた。
毎回同じおにぎりなのに、本当にうれしそうに食べてくれる。
なんだか代り映えしなくて、こっちが申し訳なくなるくらいだ。
大量のおにぎりは、あっという間になくなった。
そして、食後のお楽しみ!
「今日はね、約束してた別の料理を持ってきたよ。料理っていうより、お菓子だけど」
そう言って〝クスイルの実入り焼き菓子〟の包みを開くと、香ばしい匂いがふわりとあたりに広がった。
「うまそう! 俺、お菓子ってあんまり食ったことがないんだ。屋敷では禁止されてたからな」
屋敷?
サビーの言葉が少し引っかかったけど、とりあえず一緒に焼き菓子をひと口かじる。
「うん! 美味しい! 香ばしい!」
「これが焼き菓子ってやつか! うまいな!」
今朝焼いたときも味見はしたけど、少し時間を置いて味がなじんだからか、あのときより風味が増している気がした。
「休憩おしまいっ! もうちょっとだけキノコを探したら、街に戻ろう!」
お尻の砂を払い、立ち上がった、そのとき――
「ギアアアアアアアッ!」
今まで一度も聞いたことのない雄叫びが、森に響いた。
声を聞いただけで、ぶわっと全身に鳥肌が立つ。
「な、なに!?」
恐怖で足がすくむ。かろうじて立っているけど、膝が完全に笑っていた。
ステッキがぱたぱたと飛び回りながら、周囲を警戒する。
「俺も聞いたことがない鳴き声だ。注意しろ」
サビーが短剣を構える。
「ギアアアアアアアッ!」
再び、あの声が響く。
なに? なんなの!?
「ど、ど、どうしよう……!」
半べそになりながらステッキに尋ねる。
「身を隠したほうがいいな。茂みの奥に入るぞ」
私たちは周囲を警戒しながら、茂みの奥へと身を潜めた。
「さっきの声、なんなの? この世界って、あんなのばっかりなの?」
「さっきも言っただろう。俺も、あんな禍々しい鳴き声は初めて聞いた」
茂みの中で小さく身をかがめ、ひそひそ声で話す。
ウリ坊もすっかり怯えて、がたがたと震えている。
「サビー、あなたは知ってる?」
サビーは険しい顔のまま、少し考え込む。
「うーん……もしかして……」
「え? 心当たりがあるの?」
「噂で聞いたことがあるんだ。普通の魔物じゃない、妙な化け物が出るってな」
「妙な化け物?」
――私とステッキは、サビーの話に耳を傾けた。
「つまり、魔物同士を無理やりくっつけたようなやつがいるってこと?」
「らしい。俺も見たことはないけどな」
ステッキがくにゃりと曲がり、ぽつりとつぶやく。
「魔物同士をくっつけた……キメラか……」
「キメラ?」
ゲームの敵でよく出てくる、ライオンや大蛇をくっつけたみたいなやつ?
「この世界って、そんな魔物までいるの? やばくない?」
「いや、この世界にキメラはいない。あれを作り出せるのは……いや……まさかな」
ステッキが黙り込む。サビーも何も言わない。私は二人を交互に見た。
「と、とにかく、やばいことはわかった。逃げよう!」




