第23話 いい加減にしなさいよ!
本日、三度目のギルド。
まさか一日にここまで足しげく通うことになるとはね。
少年と一緒に、すっかり見慣れた扉をくぐる。
そのまま迷わず、空いているカウンターへ向かった。
少年は少し得意げに胸を張り、受付のお姉さんに声をかける。
「魔物討伐の依頼を終えてきた。これが証拠だ」
皮の袋から出てきたのは、大きな耳。
……うわ、間近で見ると、ちょっとグロい。
「お預かりしますね。討伐対象の耳で間違いないか鑑定しますので、あちらの椅子で少々お待ちください」
お姉さんはそれをトレイに乗せ、奥の部屋へ入っていった。
少年が、どかっと椅子に腰を下ろす。
「楽しみだなー。金貨十枚だぜ? これでしばらく食うには困らないな」
「私の立て替えた分も、ちゃんと返してよ?」
「わかってるって! なんなら、俺がおごってやってもいいぜ?」
「それはどうも」
浮かれきった少年に半ば呆れつつ返事をする。
あっ、そうだ。忘れてた。
「助けてもらったお礼、まだ言ってなかったよね。あなたのおかげで助かったよ。ありがとう」
「いいって! 俺も魔物を倒せたし!」
少年は照れくさそうに鼻の下をこすった。
ほどなくして、お姉さんがカウンターに戻ってきた。
「魔物討伐報告でお待ちのお客様ー」
「はいっ!」
少年はびっくりするくらい元気よく返事をすると、椅子から飛び上がった。
「確かに、討伐対象の耳でした。本日森で発見された魔物の死骸と、切り取られた耳の形状も一致しています」
「だろ? 俺が倒したんだ!」
「はい。それでは、こちらが報酬の金貨十枚になります」
お姉さんが小袋を差し出す。
少年が目を輝かせてそれを受け取ろうとした、そのとき。
すっと伸びてきた手が、横から袋をさらっていく。
「なっ」
少年がぽかんとした顔で声を漏らした。
横で見ていた私も、何が起きたのかわからず固まる。
「この報酬はいただいとくぜ」
聞き覚えのある声に振り向けば、例の金髪青年が小袋をぽんぽんと手の上で遊ばせていた。
「返せ!」
少年が金髪に飛びかかる。
けれど、ひらりとかわされ、そのまま床に倒れ込んだ。
「この討伐依頼は俺が受けたんだ。お前が報酬を受け取れるわけないだろ?」
「えっ、そうなんですか!?」
思わず、受付のお姉さんのほうを振り返った。
「確かに、この依頼はそちらのガークさんが受注されたものです。パーティー内での報酬の分配については、ギルドは関与いたしません」
……なんだか急に冷たいな。
けど、さっき私も「部外者が口を出すのは違う」って思ったばっかりだし、たぶんこれが正しいんだろう。
そのあとも、少年は何度もガークに飛びかかっていく。
けれどガークは、からかうみたいにひらひらとかわし続けた。
口元の薄ら笑いが、ひどく癪に障る。
「ちょっと! いい加減にしなさいよ!」
気づけば、私は声を張り上げていた。
「あーん? なんだ、またお前か。部外者は引っ込んでろって、さっき言ったよな?」
「た、たしかに、私は部外者だけど……あの魔物を倒したのはその子でしょ? だったら、ちゃんと報酬を分けるべきなんじゃないの?」
声が震えないように、お腹に力を入れて言い返す。
「……そうだな。お前の言うとおりかもな」
ガークはそう言うと、報酬の小袋――ではなく、ズボンのポケットに手を入れる。
そして、指先で弾くように硬貨を一枚、床に投げた。
キンッ、と音を立てて転がったのは、銀貨一枚。
「ほらよ、お前の取り分だ。これで文句ねぇだろ?」
少年は、無言で銀貨をぎゅっと握りしめた。
私も何も言い返せず、その場に立ち尽くす。
「けっ、つまんね。いくぞ」
ガークは吐き捨てるようにそう言うと、仲間の二人を連れてギルドを出て行った。




