第10話 バフって、味方強化のアレだよね?
バンッ!
凄まじい音でドアが開く。
「うわっ!」
ビクッと飛び起きた私の目に飛び込んできたのは、血まみれになったランドルフさんだった。
「うわあっ!」
飛び起きた勢いのまま、ベッドから転がり落ちる。
「ラ、ララ、ランドルフさん!? ち、ち、血が!」
尻もちをついたまま、震える指先をランドルフさんに向ける。
廊下の灯りで逆光になっているから、表情はよく見えない。
けど、大きな鼻息から、興奮状態なのがわかる。
「おまえっ!」
ランドルフさんが、突然大きな声を上げた。
「俺に、何を食わせた!」
やられる!
本能で察した私は、ベッドの陰を目指して少しずつ後ずさる。
も、もしかして、魔法をかけたおにぎりを食べたせいで、ランドルフさんがおかしくなっちゃった!?
そんな私に、彼がゆっくりと近づいてくる。
そして――
「これを見ろ!」
血がべっとりと付いた槍を私へと向けた。
「ひぃぃぃ! ごめんなさい!」
私はバネ仕掛けのおもちゃのように床から飛び上がると、ベッドの上で見事なジャンピング土下座をキメた。
そのとき。
「やーめーなーさいっ!」
ランドルフさんの頭を、ヘイゼルさんが後ろからぺしっと叩いた。
◇
完全に寝不足。
あんなことがあったあとに、眠れるわけがない。
半分閉じた視界の先には、しょげたランドルフさんがうつむいて座っている。
あの後、ヘイゼルさんにかなり絞られたらしい。
「その、なんだ……昨夜は驚かせてすまなかった」
「あー、いえ、だいじょうぶです」
ちぎったパンをもぐもぐとしながら、ぼんやりと返事をする。
「本当にごめんなさいね。はい、どうぞ」
ヘイゼルさんは困ったように笑いながら、私の前にコーンスープみたいな黄色いスープを置いた。
甘い香りが鼻をくすぐって、私の寝ぼけた頭を揺り起こす。
「弁当を食い終わったあと、魔物が現れたんだ。俺たちはいつものように、槍を構えて応戦した。だが――」
スープをすすりつつ、ランドルフさんの話に耳を傾ける。
「いつもと違った。俺の槍が、魔物の強靭な皮膚を貫いたんだ。あんなことは初めてだ」
ふんふんと話を聞きながら、ちぎったパンを口へ放り込む。
「おにぎり、とか言ったか? あれを食ったあとから、なんというか、こう、体中に力がみなぎった感じがしてな。あれはいったい何なんだ?」
「さあ?」
私は素っ気なく返事をすると、再びスープをすすった。美味しい。
「『さあ』って、おい、俺は真剣に聞いてるんだぞ?」
だって、そんなの聞かれたって私にもわからない。
美味しくなる魔法はかけたけど、力がみなぎるとか、そんな魔法はかけてないし。
そのとき、腰のステッキがつぶやいた。
「どうやら、おにぎりにバフがかかったようだな」
「ばふ?」
ステッキに小声で聞き返す。
「お前の魔法が、火竜の実の力を引き出したようだ」
「どういうこと?」
「話すと長くなる。あとで詳しく説明してやる」
「ふーん」
ランドルフさんが魔物を倒せたのは、どうやらバフってやつのおかげらしい。
バフって、ゲームでいう味方強化のアレだよね?
つまり、私のおにぎりは食べた人を強くするごはんになっていた。
……ということらしい?




