第84話 深層素材
ウォー・オーク・エンペラーを討伐した翌日。
蒼天の軌跡の面々は、彼らが借り上げている宿の一室に集まっていた。
机の上には、深層中部で得た素材が並べられている。
五十一階層で入手した、魔法樹の心核と魔力草。
五十一階層から五十四階層までで入手した、風、土、火、水の属性結晶。
そして、レッド・サイクロプス・ギガントの角と、ウォー・オーク・エンペラーの黒鉄素材。
それらを前にして、アレッタは目を輝かせていた。
「すごいです。これだけの深層素材があれば、作れるものが一気に増えます」
「そうなのか?」
「アレッタが加入するまでは確実に金になる魔石とレアドロップ以外はほとんど持って帰れなかったんだが」
レオルが尋ねると、アレッタは頷いた。
「そうですね。確かに魔石は価値が分かりやすいです。でも、錬金術師や鍛冶師からすると、本当に価値があるのはこういった素材の方なんです」
セレナが言う。
「そうなのね。これまでは、魔石を売った資金で装備を整えていたの。それが一番確実だった」
「普通はそれで正解です」
アレッタは素直に頷いた。
「でも、これからは違います。僕がいます」
アレッタは魔法樹の心核を手に取った。
「まず、これです。魔法樹の心核と、属性結晶を使って、僕用の新しい武器を作りたいです」
「新しい武器?」
リオが聞き返す。
「はい。《魔法樹の心核ボウガン》と《属性矢》です」
アレッタは簡単な設計図を広げた。
「これまでの爆裂矢は、爆発の威力で敵を吹き飛ばすものでした。でも、この武器なら、爆裂だけではなく、属性魔法に近い効果も発揮できます」
アレッタは属性結晶を順に指し示す。
「五十一階層の森林地帯で採れた風属性素材。五十二階層の砂漠地帯で採れた土属性素材。五十三階層の溶岩地帯で採れた火属性素材。そして五十四階層の氷雪地帯で採れた水属性素材」
「これらを鏃に加工して撃ち出します。火なら爆ぜる。水なら穿つ。風なら斬る。土なら打ち砕く。単純ですが、属性魔法に近い強力な攻撃になります」
ミアが目を丸くする。
「そんなことができるの?」
「はい。魔法が使えない僕でも、魔法に近い効果が発揮できますね。詠唱も不要だし、連射も可能です。ただし、本物の魔法ほど複雑な制御はできません。属性結晶も消費します」
「それでも、深層での戦い方はかなり広がるわね」
セレナは設計図を見ながら頷いた。
「試作品ができたら見せて」
「はい!」
アレッタは嬉しそうに返事をした。
続いて、アレッタはレッド・サイクロプス・ギガントの角へ視線を移した。
「この素材からは剣が作れると思います」
「剣?」
リオが驚く。
「はい。硬くて、魔力の通りも悪くありません。火属性への耐性も強いので、うまく加工できれば、熱や炎に強く、傷みにくい剣になると思います」
アレッタは続いて、黒鉄の塊に触れた。
「それから、ウォー・オーク・エンペラーの黒鉄は防具向きです。斬撃に強く、打撃もある程度吸収できます。魔法耐性もありますね。ちょっと重いのが難点ですけど、リオさんなら問題ないでしょう」
「それに、リオさんの戦い方なら、全身を覆うより胸当てや篭手のように急所を守る防具がいいと思います」
「え?俺の装備ですか?今の装備で十分だと思うんですが」
リオは少し戸惑った。今使っている剣や防具に、不満はない。蒼天の軌跡の倉庫にあった装備の中でも、良いものを使わせてもらっている。
だが、セレナは静かにリオに言う。
「リオ、アレッタの言う通りよ。あなたはもう蒼天の軌跡の主力。その意識をもってちょうだい。あなた専用に調整した装備を持つ価値は十分にあるわ」
「……はい」
リオは小さく頷いた。
アレッタは少し申し訳なさそうに続ける。
「ただ、問題があります。僕は錬金術師です。素材の性質を調べたり、どういう形に加工すべきかの提案をすることはできます」
「でも、剣や防具の形にするのは鍛冶師の仕事です」
アレッタは黒鉄を見つめた。
「しかも、これは普通の素材ではありません。加工するなら、相当腕のいい鍛冶師が必要です」
部屋に、短い沈黙が落ちた。
その時、ドルクが口を開いた。
「……心当たりがある」
全員の視線がドルクへ向く。
レオルが意外そうに眉を上げた。
「珍しいな。ドルクの知り合いか?」
「ああ」
「腕は?」
セレナが尋ねる。
ドルクは迷わず答えた。
「信頼できる」
その一言で十分だった。
「なら、会いに行きましょう」
セレナはすぐに判断した。
「リオ、あなたも一緒に行って」
「俺もですか?」
「あなたの武器と防具を作る話よ。本人が行かなくてどうするの」
「……それは、そうですね」
リオは困ったように笑った。
レッド・サイクロプス・ギガントの角。
ウォー・オーク・エンペラーの黒鉄。
深層の階層主素材から、自分のための装備を作る。
まだ実感は薄い。
けれど、五十六階層から先へ進むための準備が、少しずつ形になっていることは分かった。
「行くぞ」
ドルクが静かに言う。
「はい」
リオは頷き、ドルクとともに部屋を出た。
向かう先はベルグランのギルド近くにある小さな鍛冶工房。
深層素材を、リオの新しい力となる武具へと変えるために。




