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【毎日更新】亡霊の罠で女になった万年D級探索者、拾われた先で頭角を現す ~灯火の輪のリオ~  作者: アサトン


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第83話 再戦!ウォー・オーク・エンペラー②

そして、現在。


蒼天の軌跡は、アグレス坑道を進んでいた。


目的地は、ウォー・オーク・エンペラーが再出現している五十五階層。


道中の魔物を退けながら進む足取りに、迷いはない。


素材の宝庫である五十一階層から五十五階層の道中ではアレッタが瞳を輝かせていたが、ウォー・オーク・エンペラー戦を優先し、先へ進んだ。


そして、一行は階層主の広間へ辿り着く。


重い扉を抜けた瞬間、濃い魔力が肌にまとわりついた。


広間の奥。


玉座の前に、黒鉄のような鎧をまとった魔物が立ち上がる。


ウォー・オーク・エンペラー。


以前と変わらぬ巨体。


手にした大剣は、振るわれる前から空気を圧迫している。


その背後の壁には、以前と同じ違和感があった。


リオは広間に入った瞬間、意識を集中してその魔力の流れを感じていた。


壁の奥。


隠された宝珠が魔力を集める動き。


「宝珠がありますね」


リオが短く言う。


セレナが視線だけを向けた。


「場所は?」


「前回とほぼ同じです。玉座の裏奥の壁。現在のウォー・オーク・エンペラーの背後、向かって少し左です」


「分かったわ」


セレナはすぐに指示を出す。


「ドルク、お願い。フィエルは予定通り、結界を」


「了解」


ドルクがウォー・オーク・エンペラーを挑発し、引き付ける。


それに合わせてフィエルが聖盾を構えながら前へ出た。


ウォー・オーク・エンペラーが咆哮し、大剣を振り上げた。


その巨体が動き出すより早く、フィエルは聖盾の縁を地面へ突き下ろす。


「聖域の檻――サンクチュアリ・ケイジ」


淡い光が広間の床を走る。


ウォー・オーク・エンペラーを中心に円が描かれ、透明な膜が半球状に立ち上がった。


結界は、確かにウォー・オーク・エンペラーを半球状の空間内に封じ込めている。


だが――。


「駄目です」


リオがすぐに首を振った。


「宝珠からの魔力供給は途切れません」


壁の奥にある宝珠が魔力を集め、その魔力がウォー・オーク・エンペラーの体内へ転送される。


その気配は、結界が張られても途切れていなかった。


「本体を囲ってもダメか」


フィエルが呟く。


セレナは小さく頷いた。


「フィエルは結界を維持。ウォー・オーク・エンペラーを玉座に近づけないで!その間にアレッタ、壁の破壊をお願い!」


「分かりました!」


ウォー・オーク・エンペラーが咆哮する。


大剣が振り上げられ、広間の空気が震えた。


「来るぞ!」


レオルの声と同時に、大剣が振り下ろされる。


ドルクが盾で軌道を逸らし、レオルの槍が鎧の隙間を狙う。


フィエルは結界を維持しつつ、剣でウォー・オーク・エンペラーを牽制する。


「ミア、支援を維持して」


「うん!」


ミアの支援魔法が、レオル、ドルク、フィエルを包む。


「リオはアレッタの援護を」


「はい!」


リオはアレッタのそばへ回る。


アレッタはすでに壁に近づき、亜空間収納から爆弾と固定具を取り出していた。


リオは感知した違和感を辿るように、壁の一部を指し示した。


近づけば近づくほど、壁の奥にある魔力の塊がはっきりと分かる。


硬い壁の向こう側。


鈍く脈打つ宝珠の気配。


「ここです」


リオが指示すると、アレッタは壁に手を当て、表面を軽く叩いた。


一度。


二度。


音の返りを聞き、手触りを確かめる。


「厚さはあります。でも、壊せます」


アレッタが言う。


その声には迷いがなかった。


アレッタは金属箱の爆弾を固定し、スイッチのようなものを押した。


「十秒で爆発します。下がりましょう」


ウォー・オーク・エンペラーが動きを変えた。


壁に近づいたアレッタ達に気づいたのか、大剣を横薙ぎに振るいつつ、玉座に向かおうとする。


しかし、フィエルの結界がその進路を阻む。


「お前の相手は俺たちだ!」


レオルの槍がウォー・オーク・エンペラーの脚を穿つ。


ドルクの盾がウォー・オーク・エンペラーの大剣を押しとどめる。


そして。


「全員、衝撃に備えて!リオは詠唱の準備!」


セレナの声が広間に響いた。


レオル、ドルク、フィエルが同時に距離を調整する。


リオはセレナの横に立ち、詠唱の準備に入る。


その時、十秒が経過した爆弾が甲高い音を鳴らした。


「爆発します!」


アレッタが叫んだ、次の瞬間。


轟音が広間を揺らした。


爆炎が広がる。


だが、その力は周囲へ無秩序に散らない。


赤い属性結晶に込められた炎の魔力が、金属箱の内部で圧縮され、一方向へ叩きつけられる。


壁が砕けた。


石片が飛び散り、煙が広がる。


「宝珠!見えました!」


煙の向こう。


砕けた壁の奥に、鈍く光る宝珠があった。


ウォー・オーク・エンペラーの体内に魔力を供給し続ける宝珠。


厄介なギミックの核。


「リオ!いくわよ。共鳴魔法」


セレナが叫ぶ。


「はい!」


紅い魔力と蒼い魔力が重なっていく。


共鳴魔法。


セレナの炎と、リオの魔力。


二つの力が一つの流れとなり、宝珠へ向けられる。


「――轟き渡れ、『炎魔の鎮魂歌インフェルナル・レクイエム』!!」


「――響き渡れ、『氷魔の鎮魂歌ニブルヘイム・レクイエム』!!」


炎と蒼い光が重なり、一本の奔流となって放たれた。


その一撃は、砕けた壁の奥、宝珠に向けて真っ直ぐに突き刺さる。


一瞬、鈍い光が膨れ上がる。


そして、砕けた。


甲高い音が広間に響く。


同時に、ウォー・オーク・エンペラーの体内で渦を巻いていた魔力が薄れていく。


「魔力供給、止まりました!」


リオが叫ぶ。


「本体に集中!」


セレナの指示が飛ぶ。


宝珠を失ったウォー・オーク・エンペラーは、なおも大剣を振り上げた。


だが、その動きは明らかに鈍っている。


先ほどまでの圧が薄れている。


前回は、共鳴魔法の連発で押し切った。


時間もかかり、前衛・後衛共にかなりの消耗を強いられた。


だが今回は違う。


アレッタが爆弾で壁を壊し、直後にセレナとリオが宝珠を砕いた。


前衛も後衛もまだ万全の状態だ。


「いくぞ、レオル」


ドルクが短く言う。


「おう!」


ドルクが盾で大剣を受け流し、レオルが懐へ踏み込む。


フィエルが反対側から腕を斬りつけ、動きをさらに縛った。


「ミア!」


「分かってる!」


ミアの支援魔法が、前衛の動きをさらに軽くする。


リオも前へ出た。


宝珠はもうない。


増援やギミックに意識を割く必要もない。


目の前の敵を倒すだけでいい。


ウォー・オーク・エンペラーが咆哮する。


それでも、先ほどまでの威圧感はない。


レオルの槍が胴を穿つ。


ドルクの一撃が膝を崩す。


フィエルの剣が腕を裂く。


セレナの炎弾が鎧の隙間へ流れ込む。


リオはその隙を逃さず、蒼い魔力を剣へ流した。


「ブレーク・エッジ!」


踏み込む。


蒼い斬撃が、ウォー・オーク・エンペラーの胴を斬り裂いた。


巨体が傾く。


そこへ、レオルがさらに踏み込んだ。


「これで終わりだ!」


炎槍の一撃が、ウォー・オーク・エンペラーの胸を貫いた。


巨体が大きく揺れる。


そして、ゆっくりと倒れ込んだ。


地面を震わせる音が、広間に響く。


誰もすぐには動かなかった。


前回の苦戦を知っているからこそ、戦闘の流れが違ったことを全員が理解していた。


「……かなり楽だったな」


レオルが呟く。


「作戦がすべてうまくいったからな」


ドルクが頷きながら言った。


フィエルも頷く。


「アレッタの爆弾がなければ、こうはいかなかった」


その言葉に、アレッタは微笑んだ。


「お役に立ててよかったです」


セレナも頷き、アレッタに告げた。


「壁を壊す手段があるだけで、戦闘の組み立て方が変わる。あなたが加わった意味は大きいわ。それに、共鳴魔法の連発は負担が大きすぎる」


アレッタは一瞬だけ言葉に詰まった後、嬉しそうに頷く。


「はい」


その声は、少しだけ弾んでいた。


「もっと役に立てるように、頑張ります。あと、帰りには使えそうな素材もたくさん回収して帰りましょう」


「はは。錬金術師はほんと深層素材に目がないな」


レオルが笑う。


「ただし、宿の部屋で爆弾を並べるのはやめてくれ」


「安全には気を配っていますよ?」


「それでもだ」


ミアがくすりと笑う。


リオも小さく息を吐いた。


やがて、ウォー・オーク・エンペラーの巨体が淡い光に包まれた。


魔物の身体が迷宮へ還っていく。


残されたのは、大きな魔石。


黒鉄の大きな塊。


液体の入った小瓶。


アレッタが小瓶を拾い上げる。


簡易鑑定の魔道具をかざすと、小さな光が揺れた。


「エリクサーですね。体力・気力・魔力を完全に回復できる霊薬です」


「黒鉄の方は、ウォー・オーク・エンペラーの鎧の素材みたいですね。収納して、宿で調べます」


「エリクサーか。十分凄いな」


レオルが言うと、フィエルも笑顔で続けた。


「いざというときに使えるな」


そして、セレナは静かに続ける。


「次はいよいよ、五十六階層よ」


その言葉に、全員が身を引き締める。


五十五階層までは、すでに踏み込んだ領域。


けれど、その先は違う。


まだ誰も踏み込んでいない、未踏破領域。


深層五十六階層。


新生・蒼天の軌跡は、ついにその入口に立とうとしていた。


挿絵(By みてみん)

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