閑話:クラウスの悩み③
ベルグランの中央通り。
その日、リオは少しだけ憂鬱だった。
(やっと終わった……)
数十分前。
美容師達は満足そうな顔をしていた。
「今日も素敵に仕上がりましたよ!」
「いかがですか?髪もツヤツヤになりましたね!」
「お客様、本当にお肌も綺麗で羨ましいです!」
リオは内心の疲れを隠し、愛想笑いを返す。
蒼天の軌跡のメンバーに言われ、仕方なく美容室にやって来た。
だが。
これを月に1回……
(やっぱり落ち着かないんだよなぁ……)
そもそも。
男だった頃は髪を適当に切りそろえていた程度だ。
ここに来ると、自分が女であることをいやというほど思い知らされる。
普段は考えないようにしているのに……
そんなことを考えながら歩いていると――
向こうから一人の青年が歩いてきた。
クラウスだった。
リオはすぐに気付く。
「あ」
同時に。
クラウスもこちらを見た。
そして――
固まった。
「…………」
数秒。
完全に動きが止まる。
リオは首を傾げた。
「クラウス?」
その声でクラウスはようやく我に返ったようだ。
「り、リオ……?」
「はい」
「どうしたんだ?」
どうしたも何もなかった。
クラウスの頭の中は大混乱だった。
以前会った時も綺麗だと思った。
だが今日は違う。
髪は艶やかに整えられ。
服装も普段より少しだけ洒落ている。
何より。
化粧で整えられたその表情は、まさに自分の理想の女の子だった。
(いや待て)
(落ち着け)
(相手はリオだ)
(リオなんだ)
クラウスは必死に自分へ言い聞かせる。
だが。
目の前のリオを見ているだけで心臓がバクバクする。
やばい。
「……クラウス?どうした?」
「具合でも悪いのか?」
不思議そうに覗き込んでくる。
近い。
まずい。
心臓がさらに跳ねた。
「な、なんでもない!大丈夫だ!」
クラウスは慌てて視線を逸らした。
リオはますます首を傾げる。
「そうか?」
「そうだ!」
クラウスは誤魔化すように咳払いする。
「その……」
「今日はどこか行ってたのか?」
「ああ」
リオは納得したように頷いた。
「美容室にな」
「美容室?お前、ついに女に目覚めたのか??」
「違う!!」
「蒼天の軌跡のメンバーとして身だしなみも大事だから、月に一回は行くようにって言われたんだよ」
クラウスは一瞬黙った。
そして思った。
(誰だよ、そんな指示したの……)
(やばいだろ……これは……可愛すぎる……)
心の中だけで呟く。
もちろん。
目の前のリオには聞こえない。
「大変なんだな」
「まあな。断りたかったんだが全員に言われちゃうとな……」
リオは困ったように笑った。
その笑顔を見てクラウスはとどめを刺されたように感じた。
(やべー……無茶苦茶可愛い)
その笑顔はクラウスにとっては凶器だった。
心をえぐり、残っていた言い訳をまとめて吹き飛ばす。
まさに、とどめの一撃だった。
クラウスは思った。
(駄目だ)
(もう駄目だ)
(認めるしかない)
(俺は、リオに恋してる)
その事実に。
自分が一番動揺していた。




