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【毎日更新】亡霊の罠で女になった万年D級探索者、拾われた先で頭角を現す ~灯火の輪のリオ~  作者: アサトン


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第77話 フィエル②


その夜。


リオは、自室のベッドへ腰掛けながら、ぼんやりと天井を見上げていた。


頭から離れないのは、昼間のフィエルの表情だった。


笑っていた。


昔の仲間と再会できたことを、嬉しそうに。


ウォー・オーク・エンペラー討伐の話を聞いた時も、心から祝福しているように見えた。


だが。


リオには、その笑顔がどこか無理をしているようにしか見えなかった。


「俺はもう酒場の親父だ」


「義足でも何の不自由もない」


本当にそう思っている人間が、あんな顔をするだろうか。


リオは小さく息を吐いた。


考えるのをやめようとしても、どうしても気になってしまう。


何度も考えた末。


結局、リオは一人で部屋を出ていた。



その後。


リオは足早に街を抜け、《蒼狼亭》に向かった。


店についてみると、既に灯りは落ちていた。


また、入口には閉店の札も掛かっている。


「……もう店じまいなのか?まだ早い時間だけど」


リオは小さく呟いた。


さすがに帰るべきか――そう思った、その時だった。


「……っ」


リオの感知能力が魔力の流れに反応した。


店の裏手。


しかも、かなり鋭く大きい。


リオは気配を殺しながら、静かに裏手へ回り込む。


すると。


夜の闇の中。


一人の男が身体強化を駆使して剣を振っていた。


義足を感じさせない鋭い踏み込み。


無駄のない斬撃。


汗を流しながら、黙々と剣を振り続けている。


フィエルだった。


リオは思わず息を呑む。


昼間。


「もう酒場の親父だ」と言っていた男。


その動きは、とても剣を捨てた人間のものには見えなかった。


その時。


フィエルが、不意に口を開く。


「見せものじゃないぞ」


リオは苦笑しながら物陰から姿を見せる。


「……すみません」


フィエルは呆れたように息を吐く。


「こんな時間に何しに来た」


「説得なら無駄だぞ」


そう言いながらも、フィエルは剣を下ろさなかった。


リオはしばらく黙っていた。


だが。


やがて、真っ直ぐフィエルを見る。


「……どうしても、気になったんです」


「昼間のフィエルさん、無理して笑ってるように見えたから」


フィエルの眉がわずかに動く。


だが、何も答えない。


夜風だけが静かに吹き抜けていた。



フィエルは剣を肩へ担ぎながら、呆れたように笑った。


「それがどうした」


「俺が無理して笑おうがどうしようが、お前には関係ないだろう」


リオは少し迷った後、決意したように口を開く。


「関係なくありません!」


「……俺、蒼天の軌跡に入ってまだ日が浅いです」


「だから、フィエルさんのことは確かによくわかりません」


「でも」


リオは真っ直ぐフィエルを見る。


「セレナさんやレオルさん、皆のことはわかるようになったと思ってます」


「皆がフィエルさんのことを、今でもすごく大事に思ってるのは分かります」


フィエルは何も答えない。


夜風の中、剣を握る手だけがわずかに強くなる。


「セレナさんも、レオルさんも」


「今日、すごく苦しそうでした」


「だから俺……どうしても、このままで終わってほしくなくて」


フィエルは小さく息を吐く。


「優しいな、お前は」


「だが」


「お前は知らないだけだ」


「俺は死ぬのが怖くなって一人逃げ出したんだ」


「あいつらが引き留めるのを振り払ってな」


リオは静かに首を振った。


「それは嘘です」


「もし本当に逃げだしただけなら」


「今でもそんな風に剣を振ってない」


フィエルの表情がわずかに止まる。


「フィエルさん、本当は今でも皆と探索をしたいんじゃないですか?」


「脚がそんなになって」


「迷惑をかけたくないと考えちゃっただけなんじゃないんですか?」


しばらく沈黙が続いた。


やがてフィエルは、自嘲するように笑う。


「……何をわかったようなことを」


フィエルは義足へ視線を落とした。


「今の俺は、もう昔みたいには戦えねぇ」


「足手まといになるだけだ」


だがリオは、すぐに言葉を返した。


「そんなこと、誰も思ってません」


「たとえ義足のままでもフィエルさんは戦えると皆思ってる」


「それに、もし霊薬が効いて、脚をとりもどせたら」


「フィエルさんはすぐに全盛期の力を取り戻す」


「皆そう信じている筈です」


フィエルは黙ったままだった。


リオは続ける。


「セレナさんたちは霊薬が見つかる前にも言ってました」


「深層へ潜る目的は、深層の秘密を探る為」


「そして、フィエルさんの脚を直す為の創生の雫を手に入れる為…と」


フィエルの目が揺れる。


「……馬鹿な奴らだ」


「お前も、命がけで戦って手にいれた伝説の霊薬を俺なんかに使っていいと思ってるのか?」


「それを売るだけでも一生遊んで暮らせるだろうに」


リオは少しだけ笑った。


「皆、そういう人達なんです」


「それに」


「俺にも目的があります」


「話すと長くなりますが、俺はどうしても深層下部へ行かなきゃならない」


「ウォー・オーク・エンペラーは何とか倒せましたが、まだ深層中部の階層主」


「今後深層下部に向かうには、もっと力が必要になる」


「それには、フィエルさんの力が必要なんです」


「ここに一人で来たのは、俺のわがままです」


リオは深々と頭を下げた。


「だから、どうしてもフィエルさんには霊薬を飲んでほしい」


「万全の状態で蒼天の軌跡に戻ってきてください」


「お願いします」


フィエルは笑った。


「万全の状態で……か」


「つまりお前は義足の俺はいらないってことだな」


リオは慌てて否定する。


「い。いえ。そういう意味ではないです。どんな状態でも帰ってきてくれれば……」


フィエルはなおも笑って言う。


「いいぞ。そうだな」


「こんな役立たずの状態じゃなく──万全の状態なら、俺もお前の役に立てるってわけだな」


「なら、霊薬を飲んでやる」


「この脚が治ったら復帰を考える」


「治らなければお前たちは諦めて帰る」


「これでいいな。お前が責任をもってセレナ達にこの条件を納得させろ」


「明日から毎日邪魔されちゃかなわんからな」


リオはなおも慌てて言い訳しようとする。


「い、いえ、ホントにそういう意味じゃなく………」


フィエルは今度は心から笑っていった。


「お前は本当に面白いな。察しろ」


――その瞳には、一瞬だけ、かつて見た懐かしい景色が浮かんでいるようだった。


「ありがとう。リオ」


読んで頂き、ありがとうございます!<(_ _)> 心からのお願いです。

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