第73話 盗賊
数日後、蒼天の軌跡は、アレッタの案内でリューベル村へ向かっていた。
目的はもちろん、ハイエリクサーより遥かに高位の霊薬の小瓶を、元王宮錬金術師エルディオンに鑑定してもらうためだ。
街道を馬車で進みながら、アレッタは楽しそうに話していた。
「リューベル村は小さい村ですけど、住民もみな親切でとてもいいところなんですよ!!お師様の工房も少し離れた森の中にあります!」
ミアが苦笑する。
「なんかアレッタって、ずっと元気でいいねー」
「えへへ」
アレッタは照れくさそうに笑った。
その時、前方から怒号のような声が聞こえてきた。
「……?」
街道の少し先。何か揉めているように見える。荷馬車らしきものが止まっており、そのまわりを囲むようにガラの悪い感じの男たちが集まっていた。
「あれは……!」
アレッタの表情が変わる。
「商人さん達の荷馬車です!盗賊に襲われているようです」
レオルが眉をひそめた。
「知り合いか?」
「はい!」
アレッタは即答した。
「あの商人さん達は、大した儲けもないのに、定期的にリューベル村へ物資を運んでくれてるんです。街の人達の笑顔が一番の報酬だ、って」
少しだけ懐かしそうな顔になる。
「僕も小さいころは、あの人達が来る日を楽しみにしてました」
そして、アレッタは盗賊達を見つめる。既に襲われているのは確実だ。
「だから――助けます!」
そう言うと、アレッタは素早く馬車から飛び降りた。
「ちょ、アレッタ!?」
ミアが慌ててアレッタを呼び止めようとするが、アレッタは振り返り、笑った。
「皆さんは見ていてください!僕のことも知ってほしいので!」
「盗賊達も、そこまで強そうじゃありませんし、たぶん僕一人で十分対処できます!」
そして、少しだけ困ったように笑う。
「まぁ、ピンチになったら助けてもらえると嬉しいですけど!」
そう言い残してアレッタは一気に駆け出した。
「なんだぁ?」
盗賊の一人が気づくが、その瞬間。
短い射出音。
小型ボウガンから放たれた矢が盗賊の肩へ突き刺さった。
「ぎゃっ!?」
さらに、アレッタは小さな身体で素早く駆け回る。
盗賊達が反応するより早く位置を変え、次々と矢を撃ち込んでいく。
「ちっ!動きが速ぇ!」
「囲め!!」
盗賊達が叫ぶが、少し離れた位置で固まっていた盗賊達へ向けてアレッタが小さな筒を投げつけた。
ドガーン、という大音量と共に筒が爆発し、衝撃で複数の盗賊がまとめて吹き飛ばされる。
「ぐあぁっ!?」
レオルが思わず感心したように呟いた。
「おい……あの子すげーぞ。攻撃は道具頼みみてぇだが、動きが早く、的確だ」
ドルクも静かに頷く。
「熟練の探索者並だな。もう三人無力化したぞ」
ミアが目を丸くする。
「錬金術師って、あんなに戦えるんだっけ……?」
セレナは苦笑した。
「少なくとも普通の錬金術師じゃないわね。手助けの必要もなさそうね」
その時だった。
「動くなぁぁぁ!!」
盗賊の怒鳴り声。
いつの間にか、一人の盗賊が商人の一人を捕まえ、ナイフを首元へ突き付けていた。
「武器を捨てろ!じゃねぇと、こいつを殺すぞ!!」
アレッタの動きが止まる。
「っ……!」
盗賊が下卑た笑みを浮かべる。
「へへっ!いい動きだったが、所詮ガキだなぁ!」
それを見たレオルが舌打ちした。
「ちっ。人質か。せこい真似しやがって」
セレナが小さく息を吐く。
「ちょっとまずいわね」
そして、隣にいたリオを見る。
「リオ。あれを使っちゃって。あなたが特訓してた闇魔法」
リオは一瞬考え込むが、嬉しそうな顔で頷いた。
「はい!!」
リオの手から闇属性の魔力があたり一面に広がり、何かを感じた盗賊達が顔を上げた。
「な、なんだ……?」
リオは静かに右手を掲げた。
「自己流超級闇魔法――《無名の帳ブラインド・ベイル》」
次の瞬間、盗賊達の首から上を覆うように、漆黒の闇が現れた。
「なっ!?」
「なんだこりゃぁ!?」
盗賊達が一斉に混乱する。
「み、見えねぇ!!」
「何も聞こえねぇ!?魔力も感じねぇ!!なんだこれ!!」
「どこだ!?どこにいる!?」
盗賊たちが何もできなくなったその瞬間、リオの姿が消えた。
「――え?」
人質を取っていた盗賊の背後へ、一瞬で移動し、峰打ち。盗賊が白目を剥いて崩れ落ちる。それと同時に、レオル達も動いた。
後は一方的。数十秒後には盗賊達は全員地面へ転がされていた。
「片付いたな。リオ、もういいぞ」
レオルの言葉に、闇魔法が解除される。
そんな中、アレッタは呆然とリオを見つめていた。
「な、何ですかさっきの魔法……!?あんな魔法見たことありません……!」
蒼天の軌跡の面々は微妙な顔で視線を逸らす。
「あー……」
レオルが頭を掻く。
「なんつーか。あの法はリオの独自魔法……と思ってくれ」
「独自魔法……?」
アレッタが呆然と呟くと同時に、セレナが疲れたように息を吐いた。
「正確には、古代魔法を本人が勝手に独自解釈して、別物に魔改造したものね。本人は極めて真面目に習得したつもりらしいけど」
「えぇ……?」
アレッタは完全に固まっていた。
◇
盗賊達を縛り上げた後、リオはアレッタへ近づいて語りかける。
「あの小型ボウガン、すごかったですね。小さいのに威力が高いですし、連射速度も速かった」
「あと、あの爆弾みたいな道具も、一瞬で複数を無力化してましたよね?あれってどこで手に入れたんですか?」
アレッタはきょとんとした後、少し照れくさそうに笑った。
「ああ、全部僕の手製なんです」
「え?」
「一人旅だと何かと物騒なので」
アレッタの言葉に感心しながら、リオはさらに質問を重ねる。
「そういえば、ボウガンと爆弾ってどこにしまってたんですか?さっきは持ってなかったですよね?」
アレッタはこの問いに少し慌てて答えた。
「あ、いえ。持ってましたよ。外套の中にしまってただけです。いつでも取り出して戦えるようにはしています」
セレナは二人を見比べ、小さくため息を吐いた。
「……なんか、この子も普通じゃないわね」




