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【毎日更新】亡霊の罠で女になった万年D級探索者、拾われた先で頭角を現す ~灯火の輪のリオ~  作者: アサトン


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第71話 アレッタ

翌日、蒼天の軌跡は迷宮都市ベルグランの探索者ギルドを訪れていた。


クランマスター、アークレインから事前連絡は入っていたものの、ギルドマスターは別件対応中らしく、面会まで少し時間がかかるらしい。


その間、蒼天の軌跡は、ギルドの買取窓口で深層で回収した魔石や不要なドロップアイテムの換金を行っていた。


五十五階層攻略の成果だけあって、その量も質も凄まじい。


受付嬢達も慌ただしく動き回っている。


レオルが笑う。


「いやー、さすがに今回の稼ぎは凄いな」


ミアも苦笑する。


「命懸けだったけどね……」


ドルクは首を縦に振る。


「うむ」


「リオ、悪いけれど換金したお金をギルドの口座に預けてきてくれないかしら?」


「あ。はい。いいですよ」


セレナに頼まれ、リオが買取窓口を離れてギルドの口座窓口に向かった時だった。


「止血急いでください!」


ギルド奥から慌ただしい声が響き、数人の探索者が、大怪我を負った男を担ぎ込んできた。


全身血まみれ。かなり深い傷だ。そこへ。


「こっちです!お願いします!」


一人の少女がギルド職員に連れられ、駆け込んできた。


年齢はリオ達とそれほど変わらない。動きやすそうな簡素な服装。腰には小さなポーチ。


少女――いや、少年のようにも見えるその人物は、迷いなくけが人を素早く確認した。


「傷口確認。毒反応なし。なら、ハイポーションで回復できるはずです!」


「調合します!」


手際よく材料を取り出し、調合する。


そして、淡い光を発し、鮮やかな蒼色の液体が完成した。


「できました!」


少女は完成したハイポーションを探索者へ飲ませる。


すると、みるみる傷口が塞がっていった。


周囲から安堵の声が漏れる。


「良かった……」


担ぎ込まれた探索者の仲間が頭を下げた。


「ありがとうございます!あなたは命の恩人です。お支払いはいくらかかっても必ず支払います」


だが、少女は慌てて首を振る。


「い、いやいや!困った時はお互い様ですから!」


「それにこれ、僕が自分で調合したものですし!どうしてもというなら、材料費だけいただきますよ!」


そう言って照れくさそうに笑う。


リオはつい感心してその様子に見入っていた。あれほどの技術を惜しげもなく使い、調合したハイポーション。普通ならかなり高価なはずだ。


だが少女は、何も言わずに躊躇いもなくそれを使った。


「……」


その姿が、なぜか少しだけ気になった。



しばらく後、蒼天の軌跡はギルドマスター室へ通されていた。


ギルド長ヴァルドール。リオが初めて会うヴァルドールは、壮年の男性だった。


鋭い目。だが探索者達を見る視線には落ち着いた重みがある。


「アークレインから話は聞いている。五十五階層階層主、ウォー・オーク・エンペラー討伐。大したものだ」


レオルが肩をすくめる。


「リオのおかげでなんとかな」


ギルドマスターはニヤリと笑った。


「この前B級昇格試験に合格した、女冒険者か。特例で推薦した甲斐があったな」


そして、表情を引き締める。


「それで?」


セレナは周囲を確認した後、静かに口を開いた。


「ここから先は、できれば内密にお願いしたいのですが」


ギルドマスターも真剣な顔になる。


「ああ。構わんぞ」


セレナは布に包んでいた小瓶を机へ置いた。


虹色の液体が入った小瓶。


部屋の空気がわずかに変わり、それと同時にギルドマスターの目が細められた。


「……これは?」


セレナが小瓶を見ながら小さな声で答える。


「ウォー・オーク・エンペラーの、おそらくはレアドロップです。ヴァルドールさんなら何かわかりますか?」


ギルドマスターは首を振った。


「いや。俺も初めて見た。ただ、普通の霊薬ではないことだけは確かだが、そんなことはお前たちも先刻承知だな」


「なるほど。それで錬金術士か」


そして、少しだけ苦い顔になる。


「いや……実はな。ギルドでも信用していた熟練の錬金術師が引退したばかりなんだ」


「もちろん既に新しい錬金術師を一人雇ってはいる」


「腕は確かなんだが……」


「……まだ正直俺は完全には信用していない」


セレナの視線が鋭くなる。


「信用していない相手へ、これを鑑定させろと?」


「判断はそちらへ任せる」


ギルドマスターは淡々と答えた。


「だが、少なくともベルグランで高位霊薬を鑑定できる可能性があるのは、今そいつくらいだ」


蒼天の軌跡の面々は顔を見合わせる。


レオルが小さく舌打ちした。


「……どうする?」


短い沈黙の後、セレナはため息をついた。


「ついてない時はとことんついてないわね。しようがないわ。一度だけ、見せてみましょう」



しばらく後、ギルド所属錬金術師スローヴァは、小瓶を見た瞬間、目の色を変えた。


「こ、これは……!」


スローヴァは興奮した様子で小瓶へ顔を近づける。


「おそらくハイエリクサーです!」


レオルが眉をひそめる。


「おそらく?」


「詳細な鑑定が必要です!」


スローヴァは興奮したまま続けた。


「自分の工房なら、もっと正確に調べられます!」


そして、当然のように小瓶を持ったまま立ちさろうとする。


その瞬間。


「おい」


レオルの槍が男の喉元へ突き付けられた。


空気が凍る。


「どこへ持ってく気だ」


男の顔が引きつる。


「だ、だから、工房で調べようと……」


セレナもその手に魔法を展開していた。


「すぐこちらへ返しなさい」


男は慌てて後ずさる。


「ま、待ってください!せっかく人が親切に鑑定してあげようとしているのにそれはないでしょう?」


「ふざけるな」


「人が命がけで手に入れたアイテムをいきなり持ち去るやつを信用できると思うのか?」


レオルが吐き捨てた。


「チッ」


スローヴァは悔しそうに舌打ちすると、小瓶を机へ置いた。


「……なら、勝手にしてください。あー。いやだいやだ。乱暴な探索者はこれだから」


そのまま乱暴に部屋を出ていく。


重苦しい沈黙。その時だった。


「……あの」


控えめな声が響く。


振り返ると、そこには探索者を助けていた少女が立っていた。


少女は少し困ったように頭を掻く。


「いまのやり取り、たまたま見てしまったんですが……もしよければ、僕にそのアイテムを見せてもらえませんか?」


レオルの目が鋭くなる。


「断る」


だが少女は慌てて両手を振った。


「さっきの人みたいに怪しいことはしません!それに、その小瓶へ直接触れたりもしませんから!」


そして、腰のポーチから小さな魔導具を取り出した。


「簡易鑑定だけなら、この魔道具でできると思います」


セレナは警戒したまま少女を見つめる。


当然だ。先ほどの直後なのだから。


だが。


「……」


リオは少女を見ていた。


先ほど、見知らぬ探索者を助けていた姿を思い出す。


少なくとも、スローヴァよりは信用できる気がした。


「……簡易鑑定だけ、お願いしてみませんか?」


リオが口を開き、レオルが振り返る。


「リオ?」


「さっき、この人が惜しげもなくハイポーションを使って怪我人を助けてるところを見ました」


「しかも、助けたお礼も要求していませんでした。悪い人には見えません」


少女は慌てて頭を下げた。


「ありがとうございます!情けは人のためならずですね」


「こんな貴重な機会を逃したら、お師様に怒られるところでした」


少女は満面の笑みを浮かべ、リオにお礼を言った。


「先に自己紹介させてもらいますね。僕はアレッタといいます。僕自身はまだ無名の錬金術士ですが、お師様は恐らく王国一の錬金術士です」


「お師様から免許皆伝を受けて、ベルグランで錬金術士として活動するためにギルドを訪れていました」


「お師様の工房でも見たことがなく、それでいてありえないほどの魔力を発する小瓶。こちらからお金を払ってでも見せていただきたいと思っています」


レオルとセレナは顔を見合わせる。


セレナが小さく息を吐いた。


「……簡易鑑定だけよ」


「はい!」


アレッタは嬉しそうに頷いた。


そして、小さな魔導器具を小瓶へ向ける。


淡い光。


アレッタの表情が、徐々に真剣なものへ変わっていく。


やがて、アレッタは息を呑んだ。


「……すごい」


レオルが低く問う。


「わかるのか?」


アレッタはゆっくり頷く。


「はい……これは、とんでもないアイテムです」


セレナが身を乗り出す。


「ハイエリクサーなのかしら?」


アレッタは首を横へ振った。


「いえ。違います。ハイエリクサーなら、何度かお師様の家で触ったことがあります」


セレナ達全員の表情が変わる。


「……なら、これは?」


アレッタは小瓶を見つめたまま、呟いた。


「正直、わかりません。ですが、おそらくハイエリクサーよりもはるかに上位の回復系アイテム――」


「ひょっとすると伝説の創世の雫か」


「もしくは、それに近い霊薬かもしれません」


誰もが言葉を失った。


そして、アレッタは恐る恐る顔を上げる。


「もし、失礼でなければ……」


「これをどこで入手したか教えていただけませんか?」

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