第70話 クランマスター
「明日、ギルドへ向かってください。私からも話は通しておきます」
蒼天の軌跡の面々は頷いた。
そして、一礼すると、部屋を後にしようとする。
だが。
「……セレナ」
アークレインがセレナを呼び止めた。
セレナが振り返る。
「はい?」
「少しだけ残っていただけますか?」
アークレインの言葉に、セレナはわずかに目を瞬かせた。
「……わかりました」
レオルがニヤリと笑う。
「なにかあるのか?」
「いえ、セレナさんに確認したいことがありますので」
アークレインは即答した。
ミアがくすりと笑う。
「じゃあ先に戻ってるね」
ドルクも頷いた。
「うむ」
やがて、セレナ以外のメンバーが退室し、部屋が鎮まると、アークレインは扉から目を離し口を開いた。
「……リオさんについて、聞かせてもらえますか?」
「色々報告は受けていますが、セレナの口から、直接聞きたいと思っていました」
セレナの表情がわずかに変わる中、アークレインは落ち着いた声で続けた。
「灯火の輪所属だった男性探索者が、迷宮内で女性へ変化した」
「そして記憶や人格はそのまま、蒼天の軌跡と偶然出会い、パーティに参加し、並々ならぬ活躍をしている」
「王都での活躍についても聞き及んでいます……正直私でも内容を全部を信じるのは難しいくらいの活躍です」
セレナは黙って聞いている。
「ですが、あなた達全員、特にセレナが強く信頼しているのは感じました」
「なので、ただの確認ですが、どうですか?」
アークレインの視線は穏やかで、問い詰めるようなものではない。
純粋な確認。
クランマスターとしての責任から来る質問だった。
セレナは静かに息を吐く。
そして、迷いなく答えた。
「……そうですね。はい。強く信頼しています。正直、ここまで短期間で誰かを信頼したのは初めてかもしれません」
アークレインがわずかに眉を上げる。
セレナは続けた。
「戦闘能力だけではありません。判断力も高く、あの子は危険な場面で自分より仲間を優先できる」
「今回も、何度も私たちを救いました。もしリオがいなければ、ウォー・オーク・エンペラーには勝てなかったと思っています」
その言葉に偽りはなかった。
アークレインはしばらくセレナを見つめる。
やがて、声を上げて笑った。
「はは……わかりました。わかりました」
「短い期間で、ずいぶんあの子を信頼するようになったことは理解できました」
セレナが少しだけ視線を逸らす中、アークレインはさらに続けた。
「なら、クランマスターとして、リオさんをA級探索者候補として推薦しましょう」
セレナが目を見開く。
「A級…もうですか?」
「ええ」
アークレインは頷いた。
「この前、特例でB級へ昇格したばかりですから、ギルド側は難色を示すかもしれません」
「ですが、セレナさんの話が本当なら、リオさんは、今後灯火の輪の宝になる可能性があります」
アークレインは再び笑った。
「それに、全員A級の蒼天の軌跡の中で、一番活躍したリオさんだけがB級というのも、少し不自然でしょう?」
セレナは笑う。
「……そうかもしれませんね」
アークレインは小さく頷いた。
「ご存じの通り、A級への昇格には試験はありません」
「クランマスターである私の推薦があれば、後はギルド側の確認だけです」
「今回の実績に加え、今後リオさんの活躍報告が一つでも積み上がれば、正式にA級認定されるでしょう」
そう言って、アークレインはセレナに微笑みを向けたのだった。




