第68話 ウォー・オーク・エンペラー③
「ここからは総力戦よ!!」
「今度こそ――倒す!!」
セレナの声が守護者の間へ響き渡る。
宝珠が壊され、魔力供給がなくなったとはいえ、ウォー・オーク・エンペラー自体が弱体化したわけではない。
「グオオオオオオオッ!!!」
ウォー・オーク・エンペラーは大声を上げ、ドルクを、レオルを屠らんと大剣を振り回す。
狂乱の闘志。
防御を捨てたウォー・オーク・エンペラーの周囲に大剣の嵐が吹き荒れる。
だが、それを防ぐのは蒼天の軌跡の頼れるタンク。
不動の盾と呼ばれるドルクだ。
大盾を前面に構えると、ウォー・オーク・エンペラーの大剣をとらえ、剣の嵐を見事に止めて見せた。
同時にドルクの全身が小さく輝き、ウォー・オーク・エンペラーの視線をくぎ付けにする。
タウントスキル。
敵の攻撃を自分に引き付ける、ドルク《不動の盾》の強力なスキルだ。
「グオオオオオオオッ!!!」
再び咆哮をあげたウォー・オーク・エンペラーの攻撃は怒りに任せて大剣をドルクにたたきつける。
だが、ドルクからすれば怒りに任せた単調な攻撃は思うつぼだ。
シールド・デフレクション。
盾を使ったスキルで、ウォー・オーク・エンペラーの攻撃を見事に受け流す。
「いいぞ。ドルク!」
レオルの姿がぶれる。
攻撃がドルクに集中したと同時に、レオルは瞬時にウォー・オーク・エンペラーの背後に周り、背中から炎槍を突き込んだ。
先ほどまで感じていた異様な圧迫感は既にない。
攻撃を受けても全く平然としていたウォー・オーク・エンペラーの様子も変わっていた。
ウォー・オーク・エンペラーの巨体が大きくのけぞり、炎槍を突き込まれた箇所は明らかな傷を負っている。
レオルが笑う。
「よし!効いてる!ようやくまともにダメージが入るぜ!!」
レオルの叫びを聞いて、ミアも声を上げる。
「弱体魔法、試すよ!」
レオルの叫びに合わせて、ミアも弱体魔法を詠唱する。
「──減速魔法!!」
ミアの魔法の光がウォー・オーク・エンペラーを包み込み、ウォー・オーク・エンペラーの動きが目に見えて遅くなる。
これまではわずかしか効果のなかった弱体魔法もその本来の効果を発揮していた。
追撃するのはセレナ。
「逃避を許さぬ絶対の熱量を以て、灼き穿つ軌跡を描け!──ファイア・ランス!!」
セレナの炎魔法、ファイア・ランスがウォー・オーク・エンペラーの頭部に突き刺さる。
「グオオォォォッ!!」
三度のウォー・オーク・エンペラーの雄叫び。
だが、今回の叫びはこれまでとは違っていた。
セレナの炎魔法に大ダメージを受けたウォー・オーク・エンペラーの切り札。
無効化領域。
ドルクのタウントスキル、ミアの魔法を無効化し、ドルクを振りきったウォー・オーク・エンペラーは怒りをあらわにし、たった今大ダメージを与えたセレナに向けて一直線に突き進む。
「!!」
予想外の動きに声も出せないセレナ。
ドルクがウォー・オーク・エンペラーを追撃し、再度タウントスキルを叩き込もうとするが、間に合わない。
――セレナの前に飛び出したのは、リオ。
「ブレーク・エッジ!」
その瞬間、ウォー・オーク・エンペラーの右腕が大剣ごと宙を舞う。
リオは素早い動きから跳躍し、ウォー・オーク・エンペラーがセレナに叩き込もうと振り上げた大剣ごと、右腕を切り飛ばしたのだ。
「リオ!」
セレナが叫ぶ中、右腕を失ったウォー・オーク・エンペラーの前に再び踊り出たドルクの全身が小さく輝く。
再びのタウントスキルを受けたウォー・オーク・エンペラーは左腕でドルクを攻撃するが、それまでの迫力は既にない。
苦し紛れか、ウォー・オーク・エンペラーは地面に左腕を叩き込み、岩石の嵐を飛ばす。
しかし、その攻撃をドルクは盾で防ぎ、リオ、レオルはそのスピードで岩石の礫を華麗に躱す。
蒼天の軌跡は止まらない。
それからは、なし崩しの猛攻だった。
右腕を失ったウォー・オーク・エンペラーに、もはや反撃の余地はない。
ドルクの盾が大剣を弾くたびに巨体がよろめき、その隙をレオルの炎槍とセレナのファイア・ランスが容赦なく抉る。焦げた傷口が増えるごとに、動きは目に見えて鈍っていった。
ミアの弱体魔法が、その鈍さにさらに追い打ちをかける。
リオもまた剣を振るい続け、確かな手応えを重ねていた。
だが。
リオの視線は、いつしかセレナへ向いていた
セレナの呼吸は明らかに荒い。
額には汗が浮かんでいる。
二度の共鳴魔法。
さらに、ここまで高位魔法を使い続けている。
それでも。
セレナは強力な上級炎魔法を唱え続ける。少しでも早くウォー・オーク・エンペラーを倒すために。
「セレナさん!!」
リオが思わず声を上げる。
セレナは振り返らない。
「大丈夫!!」
「心配しないで!!」
「ここで倒し切る!!」
その目には。
強い決意が宿っていた。
リオも頷く。
「……はい!!」
なら。
自分も全力で応えるだけだ。
リオはさらに剣のスピードを上げる。
そして。
一刻も早くウォー・オーク・エンペラーを倒すため、剣と剣の技の合間にファイア・ランスを唱える。
そして遂に。
ウォー・オーク・エンペラーが一瞬よろめいた。
「今よ!!」
セレナが叫ぶ。
レオルが跳んだ。
「うおおおおおおっ!!」
炎を纏った渾身の一撃。
ドルクの戦斧も同時に振り下ろされる。
リオも剣を合わせる。
轟音。
さらに。
セレナとミアの魔法が叩き込まれる。
「グ……オォ……!!」
巨体が膝をつく。
レオルが叫ぶ。
「終わりだぁぁぁぁぁっ!!」
最後の一撃。
レオルの炎を纏った槍が。
ウォー・オーク・エンペラーの胸部を貫いた。
沈黙。
そして。
巨大な身体がゆっくりと崩れ落ちる。
轟音。
床が揺れた。
しばし。
守護者の間に静寂が訪れる。
誰もすぐには言葉を発せなかった。
やがて。
レオルが息を吐く。
「……勝った、のか」
ドルクも静かに頷く。
「……うむ」
ミアが嬉しそうに笑った。
「やったぁ……!」
リオも大きく息を吐く。
その時。
「……終わった、わね」
セレナが呟いた。
次の瞬間。
その身体がふらつく。
「っ――」
倒れかけたセレナを、リオが咄嗟に支えた。
「セレナさん!」
「大丈夫ですか?!」
セレナは苦笑する。
「……大丈夫よ。さすがに魔力切れね」
レオル、ドルクも心配そうに見守っていた。
ミアはセレナを支えるリオを見て一瞬複雑そうな顔をした後、笑みを浮かべて皆に声をかけた。
「遂にやったね!私たち!」
レオル、ドルクも答える。
「ああ」
「やったな」
そして、その直後。
全員が満面の笑みを浮かべていた。




