第66話 ウォー・オーク・エンペラー①
五十五階層、蒼天の軌跡は慎重に通路を進んでいた。
深層中部を抜けた直後だからだろうか。石造りの通路は、以前来た時よりもさらに重苦しく感じる。
やがて、巨大な扉が見えてきた。
分厚い黒鉄の門。
その奥からは、凄まじい魔力の気配が漏れ出している。セレナが立ち止まり、門に手をかけて感慨深げに言う。
「……久しぶりね。やっと来れたわ」
空気が張り詰める。
レオルが静かに槍を握り直す。
ドルクも無言で斧を構えた。
ミアは静かに杖を構えていた。
そして、リオもまた、剣を強く握り、真剣な表情で扉を見つめていた。
以前、蒼天の軌跡は、この先で敗北し、結果としてフィエルを失うことになった。
だからこそ、今回は負けられない。
セレナが全員を見回す。
「作戦を再確認します」
「雑魚はリオの超級魔法で一掃します。以前は私の超級魔法で一掃しましたが、ここで私の魔力を消耗したくはない。初手はリオに頼らせてもらいます」
リオも頷いた。
「はい。インフェルナル・レクイエムで雑魚を一掃ですね」
セレナは続ける。
「その後は以前と同じ」
「ドルクが前衛で抑え、レオルはウォー・オーク・エンペラーの後ろから槍で、私は後衛から魔法で攻撃」
「ミアは支援魔法と弱体魔法をお願いするわ」
「うん、任せて」
ミアも真剣な顔で頷いた。
「そして、リオ。リオは全力でウォー・オーク・エンペラーを感知するのに集中。聖紋の迷宮のホワイト・ダイア・ガーディアンのような仕掛けがないかを探って」
「はい!」
全員が武器を構える。
そして、セレナが静かに告げた。
「……皆、行くわよ」
ドルクが巨大な扉へ手をかける。
重い音と共に、守護者の間が開いた。
次の瞬間、守護者の間に無数の咆哮が響き渡る。
「グオオオオオッ!!」
そこには、大量のウォー・オーク。
そして、最奥。
巨大な玉座の前に、ウォー・オーク・エンペラーが立っていた。
巨大な肉体。
全身を覆う漆黒の鎧。
そして、空間そのものを圧迫するような凄まじい威圧感。
「来るぞ!!」
レオルが声を上げると同時に、ウォー・オーク達が一斉に突撃してきた。
だが、リオの高速詠唱はすでに終わりを告げていた。
リオは一歩前へ出る。
「――轟き渡れ、『炎魔の鎮魂歌インフェルナル・レクイエム』!!」
紅蓮の業火が守護者の間を飲み込んだ。
――耳を劈くような音とともに爆炎が吹き荒れ、押し寄せていたウォー・オーク達を蹂躙する。
炎に呑まれ。
消し飛び。
絶叫を上げながら燃え落ちていく。
「相変わらずすごい……」
ミアが思わず呟いた。
だが、最奥。
ウォー・オーク・エンペラーだけは違った。周囲のウォー・オーク達が盾になるように前へ出たためか、その巨体には、ほとんど損傷らしい損傷が見えない。
セレナが即座に叫ぶ。
「雑魚は一掃できたわ!ウォー・オーク・エンペラーに集中!!」
「おう!!」
レオルが駆け、ドルクも前へ出た。
「……行くぞ」
巨大な斧がウォー・オーク・エンペラーの大剣とぶつかり合い、轟音と共に凄まじい衝撃波があたりに広がった。
「グオオオオオッ!!」
レオルは背後から槍で突撃し、セレナは炎槍を初めとした攻撃魔法、ミアは減速魔法を初めとした弱体魔法をウォー・オーク・エンペラーに叩き込む。
だが、効かない。
レオルが舌打ちした。
「相変わらず馬鹿みてぇに硬ぇな……!」
セレナも表情を険しくする。
「以前と同じ……!攻撃は通ってるはずなのに、ダメージがみられない……!」
ミアも続く。
「弱体魔法も、通ることは通るけれど効果が薄いわ……」
「言われてみれば、まるで瞬時にダメージを回復してるようでもあるな」
レオルも再び呟く。
そんな中、ドルクはウォー・オーク・エンペラーの真正面からその激しい攻撃を受け止め続けるが、その攻撃は重い。
盾を殴りつける轟音と共に、ドルクの腕の骨が軋むような音がする。
「ミア、回復を!腕をやられた」
「了解!」
ミアのハイ・ヒールが瞬時にドルクの腕を修復し、再びドルクは攻撃を受け止める。
だが、戦っている皆の胸には、『このままではまずい――』という共通の想いが広がっていた。
一方、皆がウォーオーク・エンペラーを抑えている中、リオは全力でウォー・オーク・エンペラーの弱点を探っていた。
そして、ウォー・オーク・エンペラーの体内まで感知を広げた時。
巨大な魔力の渦が、ウォー・オーク・エンペラーの内部で渦巻くと、それが全身に広がり、活性化させているのが見えた。
「これは……!」
リオが叫ぶ。
「ダイア・ガーディアンの時とは違います!」
「大きな魔力の渦が発生してるのは同じですが、ウォー・オーク・エンペラーの体内で発生し、自分で魔力供給しているように見えます!!」
セレナが目を見開いた。
「まさか……!自力で回復できるとでもいうの!?」
「わかりません!」
リオも焦ったように答える。
「ですが、ダイア・ガーディアンのように地面から直接魔力供給を受けてるようには見えません!」
セレナが鋭く叫ぶ。
「待って、リオ!結論を出すのは早いわ!!」
「いくらなんでも、戦いながらそれだけの魔力供給を自力で行うなんて常識的にありえない!」
そんな中、ウォー・オーク・エンペラーの猛攻でドルクが押し込まれるが、レオルが即座に背後から槍を叩き込むと一瞬攻撃が弱まり、その間にドルクがまた体勢を立て直す。
セレナは炎魔法を叩き込む合間にリオに向かって大声を上げる。
「ウォー・オーク・エンペラー以外に違和感のある場所はない!?」
「周囲を探って!!何か違和感を探して!!」
「お願い、リオ!!」
リオは息を呑んだ。
そうだ、セレナさんの言う通りだ。一足飛びに結論を出しちゃいけない。
そう考えると、ウォー・オーク・エンペラーを中心にさらに感知範囲を広げる。
違和感はないか。
必ず見つけてやる――!




