第65話 深層中部
アグレス坑道深層。
蒼天の軌跡は順調に攻略を進めていた。
四十階層までは、リオのフレアストームが群がる魔物を次々と焼き払い、驚くほどの速度で突破。
そこから先も、一行は安定した連携を見せながら進んでいく。
そして、四十五階層。
かつて蒼天の軌跡を苦しめた階層主。
レッド・サイクロプス・ギガント。
再出現していたその巨体が蒼天の軌跡を待ち構えていた。
だが、以前とは違う。
ブルー・サイクロプス・ギガントの増援出現も、既に全員が知っている。
蒼天の軌跡は、この日のためにそれぞれ鍛錬を積み重ねてきた。
「まずは試し撃ちをしましょうか」
セレナが小さく笑う。
「はい!」
リオも頷いた。
次の瞬間、紅蓮と白銀の魔力が同時に広がる。
「――轟き渡れ、『炎魔の鎮魂歌インフェルナル・レクイエム』!!」
「――響き渡れ、『氷魔の鎮魂歌ニブルヘイム・レクイエム』!!」
共鳴魔法。
重なり合った超級魔法が取り巻きのサイクロプスたちを一瞬で飲み込み、消し飛ばす。
そして、氷の奔流がその身を凍てつかせ、炎への完全耐性を持つレッド・サイクロプス・ギガントの巨体すら大ダメージを受け、吹き飛んだ。
「グオォォォォッ!?」
巨人が怒号を上げる。
レオルが笑った。
「前回より楽できそうだな!」
「レオルさん、油断はダメですよ!」
ミアが叫ぶ。
そして、戦いは前回の再現のように進んでいった。ただし、遥かに余裕をもって。
増援。
そして、ウォー・クライとともにブルー・サイクロプス・ギガント出現。
だが、以前とは違う。蒼天の軌跡に驚きはない。
「リオ!しばらく抑えてくれ」
「はい!」
リオは即座に前へ出る。
カイゼルから学んだ剣技。
以前より遥かに洗練された動きで、ブルー・サイクロプス・ギガントの猛攻を受け流していく。
巨大な棍棒が振り下ろされる。
だが、リオは紙一重で躱す。
剣撃を叩き込み、その合間にディープ・フリーズで増援の足止めも忘れない。
「グオオォォッ!!」
ブルーが怒り狂う。
だが、リオは冷静だった。
「皆さんは!レッドに集中してください!」
「ええ!」
「おう!」
「うむ!」
「リオ、気を付けて!」
レオル、セレナ、ドルク、ミア。
残る全員がレッド・サイクロプス・ギガントへ集中攻撃を叩き込む。
やがて、レッドの巨体が崩れ落ちた。
「グォォ……」
巨人は轟音と共に倒れる。
そして、数分後。
ブルー・サイクロプス・ギガントもまた、地響きを立てて倒れていた。
レオルが大きく息を吐く。
「……よし!」
ミアも微笑む。
「前回よりかなり余裕あったねー!」
リオも少し汗を拭いながら頷いた。
「はい。皆さんかなり強くなってますね。さすがです」
「お前もな」
「なんだあの剣技!超一流剣士の風格のようなものを感じたぞ!!」
レオルが笑う。
リオが慌てて答える。
「あ。そういえば言ってませんでした……」
「銀翼の剣の純剣士、カイゼルさんの剣技を学ばせてもらったんです」
セレナは笑う。
「学ばせてもらったって……」
「普通はひと月足らずでそうそう身に着けられるものじゃないでしょ」
皆も笑う。
「まぁ、リオだからな」
「リオだもんねぇ」
「うむ」
そして。
蒼天の軌跡は順調に進んでいった。
そして。五十階層も順調に突破し、五十一階層への階段を下りる。
次の瞬間、リオは息を呑んだ。
そこに広がっていたのは、巨大な森林だった。
空には太陽のような光。
暖かな輻射熱。
吹き抜ける爽やかな風。
木々の柔らかな匂い。
とても地下五十一階層とは思えない。
まるで異世界のような景色だった。
「どうだ、リオ。すごいだろう」
レオルが笑う。
「まぁ、俺たちも初めて来た時は驚いたからな。それに、ここまで来れるパーティは、ある意味いくらでも稼げる。錬金術師達が常に素材採集依頼を出してるしな」
「まぁ、大きな素材は持ち帰るだけでも一苦労だが……」
リオは眼下へ広がる大森林を見つめていた。
しばらく言葉が出なかった。
やがて、小さく呟く。
「……ええ。すごいです。すごいとしか言いようがありません」
「この景色を見られただけで、探索者になった甲斐があります。連れてきていただいてありがとうございます」
ミアが少し嬉しそうに笑った。
「おー。リオ、感動してるね」
「でも、ここに再び私たちを連れてきてくれたのは、リオなんだよ」
「もっと自信持って」
ドルクも珍しく口を開く。
「そうだぞ、リオ。礼を言うなら俺たちの方だ」
セレナも微笑んだ。
「そうね。さて、感動してばかりもいられないわ」
「ここは深層中部の入り口、五十一階層。大森林の奥に五十二階層への入り口があるわ。魔物たちは比較的弱く、自然の脅威も大したことはありません」
「弱いといっても、もちろん深層にしては……だけどね」
「さて、いきましょうか」
セレナが先へ進み始める。
「ちなみに、景色を楽しむ余裕があるのは、私たちの知る限り五十一階層だけよ」
「事前に話した通り、五十二階層は砂漠地帯。五十三階層は溶岩地帯。五十四階層は氷雪地帯になるわ」
「次の階層へ進む前に、装備を整えながら進んでいきましょう」
セレナの言う通り。
景色を楽しむ余裕があったのは五十一階層だけだった。
その五十一階層でさえ、上空から急襲してくる飛行型魔物や森林へ擬態するカメレオンのような魔物等、厄介な魔物が現れる。
そういった魔物たちを倒しながら、一行は大森林を進んでいく。
そして、五十二階層。
灼熱の砂漠。
ここでは、リオの感知能力がその力を遺憾なく発揮した。
通常苦労する、砂の下から現れるサンドウォームやサンドアント、そういった敵を難なく感知し、余裕を持って対処しつつ進んでいく。
五十三階層は溶岩地帯。
熱気が肌を焼く中、一行は耐熱装備へ切り替え、慎重に溶岩地帯を進む。
溶岩の中から現れるマグマ・ゴーレム、フレア・スコーピオン、インフェルノ・ワイバーン等の魔物を対処しつつ進む。
リオが周辺を感知しながら時には上級氷魔法やハイドロブレードを駆使、時には剣技で対処しつつ、大物はいつも通りドルクが受け持ち、それをミアの水魔法、セレナの風魔法も交え、対処していく。
五十四階層は吹雪の氷雪地帯。
今度は逆に寒さが身体を刺した。
ここではセレナ・リオの炎魔法を有効に活用しながら氷魔法を使う魔物たちを処理していく。
そして、五十四階層の階段を下りた瞬間。
景色は再び、無機質なダンジョンへ戻っていた。
森林も。
砂漠も。
溶岩も。
吹雪も存在しない。
石造りの通路。
まるで、異界の夢から醒めたようだった。
セレナが静かに口を開く。
「さて……いよいよ五十五階層、ウォー・オーク・エンペラーの根城よ」
「最奥に、ウォー・オーク・エンペラーが待ち構える守護者の間があるわ」
セレナの表情が引き締まる。
「そこまで、慎重に進みましょう」




