第64話 重なる魔力
数日後、蒼天の軌跡一行は、アグレス坑道二十五階層、広めの空間に来ていた。
セレナとリオの共鳴魔法の訓練だが、以前アレクシアと実施した超級魔法の訓練と同様、いや、それ以上に危険があるということでの判断だ。
レオル、ドルクも着いてきたのは、今後の攻略のためにも一度見ておいた方がいいだろうという理由。
そして、ミアも同じ理由……という建前だが、実際にはセレナとリオの訓練が気になったからというのが本音かもしれない。
「ここならまぁ大丈夫か……人もこないしな……」
レオルが苦笑する。
「宿の訓練場じゃさすがに危険すぎるからねー」
ミアも肩を竦めた。
ドルクも首を縦に振る。
「……うむ」
セレナは真剣な表情でリオを見る。
「私は姉さんから共鳴魔法の理論は聞いていましたが、実際に行うのは初めてです」
「よろしくお願いしますね、リオ」
「そうなんですね」
「アレクシアさんと姉妹なんだし、経験があるのかと思っていました」
「まぁ……ね。姉さんは試したがっていたんだけど、私が乗り気じゃなかったの」
「そもそも超級魔法以上の威力が必要になることはなかったし、姉さんと一緒にダンジョンに潜る機会もそもそもほとんどなかったしね」
リオも納得して頷いた。
「あーなるほど。そう言われてみると確かにそうですね」
「では、今日は俺の方でセレナさんに合わせますのでよろしくお願いします」
その言葉に、レオルが内心驚きを隠せない。
リオはまるで、『呼吸を合わせます』程度の感覚で言っているように聞こえた。
レオルとしては、超級魔法の呼吸を合わせるのなんて至難の業のように思うのだが。
「リオもかなり自信がついてきたな。聖紋の迷宮でよほど貴重な経験をしてきたとみえる」
ドルクも同じように感じているようだ。
「……うむ」
「え?あ。いえ。すみません。なんか偉そうに聞こえましたか?」
レオルは苦笑していう。
「違う。いいことだっていってる。お前はいつも謙遜しすぎだからな。それくらいがちょうどいい」
リオも笑顔で答える。
「ありがとうございます」
セレナも苦笑しながら、
「じゃあ、やりましょうか」
二人は広い空間に向けて並び立った。
「いくわ!」
セレナが呪文を開始すると同時に、セレナの周囲へ紅蓮の魔力が広がる。
「――時は燃え尽き、影は焼かれ、万象は紅蓮の炉へと沈みゆく」
リオもそれに合わせて呪文を開始。周囲には、冷気を帯びた青白い魔力が広がる。
「――時は止まり、声は失われ、万物は白銀の棺へと収められる」
空気が震える。
「光なき深淵より噴き上がるは、命なき者たちが奏でる滅火の調べ」
「光なき深淵より響くは、命なき者たちが捧げる終焉の調べ」
周囲の魔力が二人の間で収束を開始する。
「荒れ狂う劫火よ、世界の形を奪い、すべての執念を灰燼へと帰せよ」
「吹き荒ぶ吹雪よ、世界の体温を奪い、すべての未練を凍てつかせよ」
収束した力が、空間そのものを震わせる。
「逃れる術すべなき絶対の灼熱よ、迷える子らに終焉の裁きを与えん」
「逃れる術すべなき絶対の静寂よ、哀れな子らに永遠の眠りを与えん」
瞬間、氷と炎が干渉し合い、空間そのものが悲鳴を上げ始めた。
セレナがインフェルナル・レクイエムを発動し、同時に、リオがニブルヘイム・レクイエムを発動する。
「――轟き渡れ、『炎魔の鎮魂歌インフェルナル・レクイエム』!!」
「――響き渡れ、『氷魔の鎮魂歌ニブルヘイム・レクイエム』!!」
次の瞬間、二人の超級魔法が重なった。
轟音とともに、爆発的な魔力奔流が前方を飲み込む。
空間そのものが揺れ、遠方の岩壁が砕け散る。
衝撃波が周囲を吹き抜けた。
レオルが絶句。
「おいおい……」
ドルクですら目を見開いている。
そして、魔法が収まった後、セレナも驚きを隠せなかった。
「……すごい。こんなことになるのね」
リオも少し首を傾げる。威力がおかしい。
アレクシアとの共鳴魔法と比べて数割増しの威力が出ているように見える。
「……あれ?」
「なんか……」
リオは困惑したように周囲を見る。
「アレクシアさんとの共鳴魔法より、威力が高い気がします」
セレナが思わずリオを見る。
リオは本気で不思議そうにしながら言った。
「えっと……」
「息が合ってる人との間で発動すると、威力も高まるとかあるんでしょうか……?」
セレナの顔が一気に赤くなる。
「っ……!」
ミアがじとーっと二人を見る。
「リオとセレナ、ホントに息ぴったりだねー……」
「威力もアレクシアさんとの時より高いみたいだし……」
そして、少しだけ頬を膨らませる。
「リオとセレナ、実は何かしたの?」
「え!?」
セレナが驚き、リオも思わず問い返す。
「な、何かってなんですか?!ベルグランに帰ってからはお土産渡したくらいですよ!」
レオルが吹き出した。
「はははは……!」
「お前、本当に言葉は慎重につかったほうがいいぞ……」
ドルクも静かに頷く。
「……うむ」
「え?え?ドルクさんまで!? 俺、何か変なこと言いましたか??」
リオは、いつものように本気で困惑していた。
その背後で、顔を赤くして恥ずかしそうにしているセレナ。
それをミアはじっと見ていた。




