第62話 報告と土産
「ホワイト・ダイア・ガーディアンは、単に硬くて耐久力が高かっただけじゃなかったんです」
リオの言葉に、セレナ達の表情が引き締まる。
「階層全体に配置された大理石が、階層主へ魔力供給していたんです」
「最初にその供給源を破壊しない限り、どれだけ攻撃しても再生され続ける仕組みでした」
レオルが眉をひそめる。
「そんな仕組みが実在するのかよ……」
「普通に戦ってたら気づけねぇぞ、それ」
ドルクも頷く。
「……うむ」
リオは続けた。
「それで、思ったんです」
「アグレス坑道五十五階層にも、同じような仕組みがあるんじゃないかって」
セレナが目を細める。
「そうね。確かに」
「……ウォー・オーク・エンペラー」
「うん」
ミアも真剣な顔で頷いた。
「馬車の中でその話になったんだけど」
「確かに、かなり似てる気がするんだよね」
「いくら削っても削り切れなかったってところとか」
レオルが顔をしかめる。
「おいおい……」
「それじゃあ以前の戦いで俺たちは」
「絶対倒せない敵に、ひたすら攻撃を加えてただけだったってことかよ」
「もちろん確証はないわ」
セレナが冷静に続ける。
「でも」
「聖紋の迷宮五十階層に、そんな仕組みが存在したのなら」
「アグレス坑道五十五階層でも、似たような仕組みがあってもおかしくない」
「そうでしょ?」
「それは……確かに」
レオルも真剣な顔になる。
ドルクも首を縦にふった。
「……うむ」
セレナはゆっくりリオを見る。
「幸い、今の私達にはリオがいるわ」
「聖紋の迷宮五十階層の弱点を見破ったように」
「ウォー・オーク・エンペラーの弱点も見つけ出してちょうだい」
「頼むわね、リオ」
突然期待の視線を向けられ、リオは慌てる。
「は、はい!」
「頑張ります!」
その返事を聞き。
セレナは微笑んだ。
部屋の空気も、どこか明るくなる。
五十五階層攻略。
それはまだ危険な挑戦だ。
だが。
今の蒼天の軌跡なら。
突破できるかもしれない。
そんな希望が、皆の中に生まれ始めていた。
◇
そして。
空気が落ち着いたところで。
「あ、そうです!」
リオが思い出したように荷物へ手を伸ばす。
「皆さんにお土産を買ってきたんです」
「お?」
レオルが目を細める。
まずリオは、小さな箱をレオルへ差し出した。
「レオルさんにはこれを」
「王都の革職人が作った手袋です」
レオルが箱を開き、驚いたように目を見開く。
「……ほぅ」
「かなり良い革だな」
「槍使い向けに調整されてる」
「つけてみて良いか?」
リオは頷いた。
「もちろんです!」
「手に馴染む。良い品だな。ありがとう。使わせてもらう」
レオルは口元に笑みを浮かべてそう言った。
続いて。
「ドルクさんにはこちらです」
リオが差し出したのは、小さな金属容器。
「王都鍛冶師の、斧柄手入れ用の魔法樹脂らしいです」
ドルクはゆっくりと蓋を開ける。
そして。
ほんの僅かに目を細めた。
「……うむ」
しばらく無言で眺めた後。
「……いい品だ」
短く、そう言った。
だが。
その声には、はっきりと喜びが滲んでいた。
「よかった……」
リオもほっとしたように笑う。
そして最後に。
リオは少し緊張した様子で、小さな箱をセレナへ差し出した。
「セレナさんには、これを」
「え……?」
セレナが箱を開く。
中には。
赤い炎のような輝きを放つ、美しいペンダントが入っていた。
中央の赤い結晶。
それを囲む、繊細な金の装飾。
まるで炎そのものを閉じ込めたような美しさだった。
「……綺麗」
セレナが思わず呟く。
リオは照れながら話し始めた。
「レオルさんとドルクさんのは、正直かなり悩んだんです」
「でも、セレナさんのだけはすぐ決まりました」
「え……?」
セレナが顔を上げる。
「ミアと王都観光してる時に、このペンダントを見つけて」
「見た瞬間、セレナさんを思い出したんです」
「お土産にするなら、これがいいって」
セレナの頬が赤くなる。
だが。
リオは気づかないまま続けた。
「中央の結晶も透明感のある美しい赤色で、セレナさんの炎魔法を思い出したんですけど」
「周りの装飾も、それを引き立たせていて凄く綺麗じゃないですか」
「なんというか……」
「ペンダント自体がまるでセレナさんみたいだなって」
沈黙。
一瞬。
部屋の空気が止まった。
「…………え?」
セレナの顔が一気に赤くなる。
ミアがじとーっとリオを見る。
「あー……」
「リオー?」
「私とのデ……観光中に、そんなこと考えてたんだー?」
「ひっどーい」
「え?」
「え? ひどい?」
リオが本気で困惑する。
「な、何か悪いこと言いました?」
レオルが肩を震わせながら笑っていた。
「これだよ……」
「リオ、お前はもう少し女性の気持ちを勉強した方がいい」
「わざとやってるなら別だがな」
「え!? いや、まさか!?どういうことです??」
「本当に思ったことを言っただけで……!」
「え、あれ?」
「なんでそんな空気になってるんですか?」
ドルクが笑みを浮かべて頷く。
「……うむ」
「なんでドルクさんまで!?」
さらに笑いが起きた。
リオだけが、本気で困惑していた。
「えぇ……?」
そんな空気の中。
セレナは照れくさそうに、それでも嬉しそうに笑った。
「……ありがとう、リオ」
「大切にするわ」
その笑顔を見て、リオも安心したように笑った。




