↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日更新】亡霊の罠で女になった万年D級探索者、拾われた先で頭角を現す ~灯火の輪のリオ~  作者: アサトン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/150

第6話 蒼天の軌跡

中層の通路に、一瞬静寂が落ちた。セレナの後ろにいたミアが、ぱっと顔を明るくする。


「あっ! この前の子!」


その隣で、大盾を背負った大柄な男――ドルクが目を丸くした。


「知り合いか?」


「ほら、セーフティエリアで倒れてた子!」


「あー……」


納得したような声。リオは反射的に視線を逸らした。なんとなく気まずい。逃げるように去ったことを思い出す。


「……この前は」


リオは小さく頭を下げた。


「助けてもらったのに、ちゃんと礼もしないで去ってすみませんでした」


《蒼天の軌跡》の面々が、少し意外そうな顔をする。ミアが慌てて手を振った。


「えっ!? そんなの全然気にしてないよ!?」


「無事だったなら、それで十分です」


セレナも静かに言った。


「……それより」


セレナの青い瞳が、倒れたオークナイトの切断面へ向き、やがてリオへ戻る。


「中層を一人で?」


リオは少し言葉に詰まった。


「……まあ」


後ろで槍を肩に担いでいたレオルが、感心したように口笛を吹く。


「“まあ”で済むレベルじゃないだろ」


「普通に強いぞ、この子」


リオは眉をひそめた。その“この子”にもまだ慣れない。


ミアがリオへ近づいてくる。距離が近い。リオは少しだけ後ろへ下がった。


「名前、聞いてなかったよね! なんていうの?」


一瞬、リオは固まった。名前。偽名を使うべきか――そう考えたのは、一瞬だけだった。だが、咄嗟に別の名前など出てこない。


「……リオ」


「リオちゃん!」


即座だった。リオのこめかみが引きつる。


「ちゃん付けやめろ」


「えー、なんで? 可愛いのに」


「……」


リオは黙った。その言葉への反応に困る。ミアは全く悪気がない。だから余計困る。


リオは小さく息を吐いた。


「……リオ。一応、灯火の輪(ともしびのわ)の一員だ。末席だけどな」


その瞬間。


「えっ!?」


ミアが目を丸くした。


「リオちゃん、《灯火の輪》なの!?」


「……一応」


「えっ、いつ入ったの!? 新人?」


「いや……」


リオは少し視線を逸らした。


「かなり前からいる」


《蒼天の軌跡》側が少しざわつく。


「そうなのか? 見たことないぞ」


リオは苦笑した。


「D級だし。蒼天の軌跡からは認知されてないと思ってたけど……」


するとレオルが、あっと声を上げた。


「……いや、リオという名前は聞いたことあるぞ。浅層専門のソロ探索者じゃなかったか?」


リオは内心ぎくりとしたが、レオルは首を傾げただけだった。


「……まあ、同じ名前なんて普通にいるか」


「そうだね」


話が流れ、リオは小さく息を吐いた。セレナだけは、黙ったままリオを見ていた。その視線に少し落ち着かないものを感じる。まるで観察されているみたいだった。


「しかし、本当に中層ソロか」


ドルクが感心したように言う。


「見た感じ、まだ若いだろ?」


「……まあ」


「しかも消耗してない」


セレナが静かに言った。リオは少しだけ視線を逸らした。自分でも異常だと思っている。以前なら、中層などここまで余裕では来れなかった。だが今は違う。身体は軽く、感覚は鋭く、敵の動きまで見える。その事実を認めたくないのに、戦うたび理解してしまう。


ミアが心配そうな顔になる。


「でもさ、中層ソロって危なくない? リオちゃん強いけど、それでも一人は危険だよ?」


「……目的があるから」


リオは小さく答えた。


「探し物?」


ミアが首を傾げる。リオは少し迷ってから頷いた。


「……そんなところ」


隠し部屋のことを説明する気にはなれなかった。説明しても信じられないだろう。自分だってまだ信じ切れていない。


その時、レオルが笑った。


「じゃあ」


「?」


「一時的にパーティ組んでみるか?」


リオは固まった。


「……は?」


「いや、実際強いし。中層ソロやれるなら十分戦力だろ」


「そうそう!」


ミアが勢いよく頷く。


「リオちゃん、動きすごかったし!」


「ちゃん付けやめろ」


「そこ気に入ってるんだ?」


「気に入ってない!」


《蒼天の軌跡》の何人かが吹き出した。リオは顔をしかめるが、不思議と嫌な感じはしなかった。以前の自分なら、A級パーティとこんな風に話すことすらなかった。彼らは遠くから見上げる、眩しい側の人達だった。それが今、自分を普通に会話へ混ぜ、対等に話してくれている。


リオは少しだけ困った顔をした。


「……俺なんかが」


言いかけて、止まる。今の自分は強い。それはもう否定できない。悔しいくらいに。


セレナが静かに口を開いた。


「少なくとも、足手まといには見えません」


その言葉は、淡々としていたが、お世辞ではなかった。リオは少し黙り込む。胸の奥がざわつく。嬉しい。認められている。そう感じてしまった。その気持ちを、どう受け止めればいいのか分からなかった。


「……今回だけなら」


気づけば、そう答えていた。その途端、ミアがぱっと笑顔になる。


「やった!」


「よろしくな、リオちゃん」


「だからちゃん付けやめろ……」


再び笑いが起きる。その輪の中で、リオは小さく息を吐いた。中層の冷たい空気。魔物の気配。そして、自分を囲む人の声。


以前なら、想像もしなかった光景だった。


挿絵(By みてみん)


※挿絵はAIで製作したイメージ画です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。