第7話 共闘
《蒼天の軌跡》との即席パーティは、そのまま中層探索を続けることになった。正直、リオはまだ少し落ち着かなかった。A級パーティ。それも、《蒼天の軌跡》。《灯火の輪》の中でも別格の存在。以前の自分は、遠くから見るだけだった。同じ通路を歩いているだけでも、妙な違和感がある。
「そんな緊張しなくていいって」
前を歩いていたレオルが笑った。
「顔硬いぞ、リオちゃん」
「ちゃん付けやめろ」
「それ、気に入ったのか?」
「気に入ってない!!」
レオルが肩を揺らして笑う。その隣で、ミアもくすくす笑っていた。リオはため息をつくが、不思議と居心地は悪くなかった。少なくとも、嫌ではない。それが少し困る。
先頭ではレオルが周囲を警戒しながら進み、ドルクがいつでも前へ出られる位置で後衛を守っていた。その動きが妙に目を引いた。無駄がなく、隊列が綺麗だ。必要以上の言葉を交わさなくても、互いの動きが噛み合っている。
経験を積み重ねた連携――“強いパーティ”というものを、リオは初めて間近で見ていた。
しばらく進んだところで、レオルが足を止める。
「来るぞ」
横穴から、グレートウルフが四体飛び出した。だが。
「ドルク」
レオルが短く名前を呼ぶと同時に、ドルクが前へ出る。グレートウルフの一体が飛びかかる。それに合わせ、巨大な盾が軽く振られた。それだけでグレートウルフが壁へ叩きつけられ、動かなくなる。
同時にレオルが動き、槍が閃く。二体目が床へ崩れ落ちた。速い。そう思った瞬間には、セレナの魔法が三体目を捉えていた。炎槍が突き刺さり、グレートウルフが床へ倒れる。最後の一体は、ミアの放った水弾を顔面に受けて吹き飛び、そのまま息絶えた。
沈黙。ほんの数秒で戦闘は終わっていた。
リオは思わず目を見開く。
「……これがA級」
思わず漏れた声に、ミアが少し得意そうに笑う。
「すごいでしょー?」
「ああ……」
リオは素直に頷いた。強い。だが、それ以上に綺麗だった。誰も無理をしていない。誰も焦っていない。最初から結果が決まっていたみたいに、自然に終わった。以前の自分がどれだけ憧れても届かなかった理由が、少し分かった気がした。
その時だった。通路奥にもう一つ、小さな気配。さっきの群れから少し遅れて来た個体が、壁沿いを回り込むように接近してくる。
リオは反射的にそちらを見る。同時に、レオルが口元を緩めた。
「リオ、あれいけるか?」
その言葉にリオは少しだけ固まるが、すぐ頷いた。
「……分かった」
グレートウルフが飛び出す。速い。以前のリオなら、かなり嫌な相手だった。だが今は違う。
リオは静かに息を吐く。グレートウルフは左右に動きながら死角へ回り込もうとするが、リオの目はその動きをすべて捉えていた。グレートウルフが飛びかかるが、リオは半歩ずれ、最小限の動きでそれを躱す。それと同時に剣を一閃。首筋を切り裂かれたグレートウルフは、床へ崩れ落ち、沈黙した。
それを横目で見ながら、リオはゆっくり剣を下ろした。
「……こんな感じですけど」
振り返ると、《蒼天の軌跡》の面々が、黙ってリオを見つめていた。
◇
最初に口を開いたのはレオルだった。
「いや、“こんな感じ”じゃないだろ」
「速すぎない……?」
ミアも目を丸くしている。ドルクは腕を組みながら低く唸った。
「しかも動きに無駄がない。実戦慣れしてる」
リオは少し視線を逸らした。戦い方そのものは変わっていない。元々、自分はこうやって戦っていた。慎重に、最短で、無理をせずに。ただ、今の身体だと、それが異常な速度と精度でできてしまう。それだけだ。
「……別に、普通だと思いますけど」
「普通じゃないわ」
即答したのはセレナだった。リオは少し肩を跳ねさせる。セレナは静かにリオを見ている。
「戦い方自体は堅実です。でも、反応速度と身体制御が異常に高い」
「……」
「中層ソロに慣れている、というレベルではありません」
リオは返事に困った。自分でも分かっている。おかしい。強すぎる。以前の自分ではない。
だが。
「……俺だって、まだよく分かってないんだよ」
思わず本音が漏れた。一瞬、空気が静かになる。
ミアが少しだけ首を傾げた。
「リオちゃん?」
「……いや」
リオは慌てて視線を逸らした。今のは失言だった気がする。
だがセレナは、それ以上追及しなかった。代わりに、小さく口元を緩める。
「とにかく。少なくとも、あなたが強いことだけは分かりました」
リオはセレナを見つめたまま何も言わなかったが、セレナの言葉は、妙に胸に残った。認められている。以前なら、絶対に届かなかった言葉。嬉しい。でも。
「……俺の力じゃない」
小さく呟いた声は、誰にも聞こえなかった。
※挿絵はAIで製作したイメージ画です。




