第57話 終焉の共鳴
そして再び、五十階層、ホワイト・ダイア・ガーディアン前。
アレクシアとリオが並び立つ。
白い闘技場の中央には。
ホワイト・ダイア・ガーディアンが巨大な威圧感を放ちながらこちらを睨みつけていた。
だが。
二人は威圧感を跳ね返すように詠唱を準備する。
膨大な魔力が空間を満たしていく。
白銀。
深紅。
氷と炎。
二つの超級魔法は、まるで最初から対となる存在だったかのように、静かに共鳴を始めていた。
アレクシアが口を開く。
「――時は止まり、声は失われ、万物は白銀の棺へと収められる」
その瞬間。
リオもまた詠唱を重ねる。
「――時は燃え尽き、影は焼かれ、万象は紅蓮の炉へと沈みゆく」
空気が震える。
氷と炎。
相反する魔力がぶつかり合う。
そして。
互いを増幅するように、魔力が激しく脈動していく。
「光なき深淵より響くは、命なき者たちが捧げる終焉の調べ」
「光なき深淵より噴き上がるは、命なき者たちが奏でる滅火の調べ」
二人の声が重なる。
白銀の冷気。
深紅の灼熱。
その境界が曖昧になっていく。
闘技場全体が軋み始めた。
白い大理石へ細かな亀裂が走る。
「吹き荒ぶ吹雪よ、世界の体温を奪い、すべての未練を凍てつかせよ」
「荒れ狂う劫火よ、世界の形を奪い、すべての執念を灰燼へと帰せよ」
魔力が収束する。
「逃れる術すべなき絶対の静寂よ、哀れな子らに永遠の眠りを与えん」
「逃れる術すべなき絶対の灼熱よ、迷える子らに終焉の裁きを与えん。」
氷が凍てつかせる。
炎が焼き尽くす。
真逆の終焉。
だが。
その本質は同じ。
“世界を終わらせる力”。
魔力が暴走する。
氷と炎が干渉し合い。
空間そのものが悲鳴を上げ始めた。
ミレティアが思わず叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!?」
「何これぇぇぇぇ!?」
ロガーナですら目を見開く。
「おいおいおい……!」
「なんだこの魔力は……!?」
さらに。
二人の詠唱が重なる。
「――響き渡れ」
「――轟き渡れ」
そして。
「『氷魔の鎮魂歌ニブルヘイム・レクイエム』!!」
「『炎魔の鎮魂歌インフェルナル・レクイエム』!!」
次の瞬間。
白銀と深紅が激突した。
轟音。
爆発。
氷と炎が混ざり合い、暴走する。
その中心から放たれた魔力振動が、闘技場へ刻まれた巨大術式へ襲い掛かった。
――バキィッ!!
白い大理石へ巨大な亀裂が走る。
ホワイト・ダイア・ガーディアンが苦悶の咆哮を上げた。:::
「よし。いける!」
「リオ、次いくぞ!!」
再度の詠唱。
轟音。
爆発。
亀裂がさらに広がり、床下の魔力回路が露出する。
ガーディアンの咆哮が震えを帯びた。
「リオ、最後だ!!」
3度目の詠唱。
3度にわたる共鳴詠唱がダンジョン内に響き渡り。
闘技場の大理石は、もはや原型を留めていなかった。
魔力切れで倒れそうになりながらアレクシアはリオに問う。
その身体は限界を超えて震えていたが、その瞳だけは、まだ戦う意志を失っていなかった。
「リオ、どうだ!?」
リオは即座に答える。
「いけます!大理石からの魔力供給は完全に止まってます。」
アレクシアは皆に叫ぶ。
「皆、聞いたか!!」
「ついにアイツを倒すときだ!!」
「行ってくれ!!」
ロガーナが獰猛に笑った。
「ようやくか!!」
次の瞬間。
地面を砕く勢いで踏み込む。
ハルバードが唸りを上げた。
「オラァァァァ!!」
轟音。
ホワイト・ダイア・ガーディアンの巨体が吹き飛ばされる。
「グォォォォォォ!!」
ホワイト・ダイア・ガーディアンが怒り狂ったように咆哮する。
その全身から白い魔力が噴き上がった。
だが、中央へ戻る動きはすでにない。
大理石からの魔力供給は完全に途切れていた。
そして。
リオの感知能力がそれをはっきり捉えていた。
「いけます!」
「魔力供給はありません!!」
カイゼルが静かに前へ出る。
「いくぞ」
銀閃。
一瞬で距離を詰める。
斬撃。
白銀の装甲へ深い裂傷が残った。
回復はしない。
ホワイト・ダイア・ガーディアンが苦悶の咆哮を上げる。
リュザードが死角へ潜り込む。
二本の曲刀が閃いた。
「待たせたな」
斬撃。
さらに風刃。
傷口を抉るように風魔法が炸裂する。
ロガーナが正面から叩き込む。
「今さら暴れてんじゃねぇ!!」
ハルバードによる重撃。
巨体が大きく揺らいだ。
後方。
ミレティア、ミアの支援魔法が全員へ降り注ぐ。
「みんな、あと少しよぉ~!!」
「みんな、頑張って!」
暖かな光が身体能力を押し上げる。
そして。
リオ。
作戦どおりファイア・ランスでガーディアンを削る。
その時、アレクシアがリオに小さく笑って言った。
「リオ」
「魔法より剣が使いたいんだろう?」
「行ってこい」
リオは驚きながらも微笑んで答えた。
「はい!」
「ありがとうございます。アレクシアさん!」
リオが飛び出した。
身体強化。
魔力制御。
そして。
カイゼルの剣技。
踏み込み。
斬撃。
魔力を一点へ叩き込む。
――バンッ!!
白銀の装甲へ深い亀裂が走った。
「グァァァァ!!」
ホワイト・ダイア・ガーディアンが腕を振り下ろす。
そして。
リオは止まらない。
何度も何度もカイゼルの技を使いこなし、ガーディアンにダメージを与える。
一撃。
また一撃。
リオが繰り返す度、その威力は目に見えて増していく。
まるで、カイゼルに一刻でも早く追いつかんとしているかのように。
そして、カイゼルが横へ並ぶ。
二人の斬撃が交差した。
銀閃。
爆音。
ホワイト・ダイア・ガーディアンの右腕が吹き飛ぶ。
ロガーナが吠えた。
「決めろォ!!」
その瞬間。
リオの感知能力が捉える。
白い魔力。
ガーディアン内部。
胸部中央。
そこだけ異常な密度で魔力が収束している。
(あそこだ……!!)
リオが叫ぶ。
「カイゼルさん!!」
「胸部中央です!!」
カイゼルが即座に理解する。
一瞬。
二人の視線が交差した。
そして。
同時に踏み込む。
リオが斬る。
カイゼルが斬る。
二つの斬撃が一点へ重なった。
魔力が爆ぜる。
――ズドォォォォンッ!!
白銀の胸部装甲が砕け散った。
内部に存在していた巨大な魔力核が露出する。
ホワイト・ダイア・ガーディアンが絶叫した。
「終わりだ」
カイゼルが静かに呟く。
次の瞬間。
銀線のような一閃。
魔力核が両断された。
沈黙。
そして。
巨大な白銀の守護者が崩れ落ちる。
轟音。
長い戦いが終わった。
静まり返った五十階層。
その中で。
ロガーナが豪快に笑う。
「ハッ!」
「やっと倒れやがったか!!」
ミレティアがその場へ座り込む。
「つ、疲れたぁ~……」
リュザードも静かに息を吐いた。
カイゼルは剣を収める。
そして。
リオを見る。
「悪くなかった」
短い言葉。
だが。
それだけで十分だった。
リオは思わず笑みを浮かべる。
その時。
後方で。
魔力切れ寸前のアレクシアが楽しそうに笑って言った。
「だから言っただろ?」
「こいつは化け物だってな」
銀翼の剣の面々は苦笑する。
「確かにな」
「違いない」
「そうだな」
「ほんとね~」
ミアもそれを聞いて微笑む。
「だからいったでしょ。」
「リオはすごいんだから!!」
そして、皆の顔には確かな達成感が浮かんでいた。




