第54話 シルバー・リザード・センチネル
四十階層最奥、階層主の目前で。
「――時は止まり、声は失われ、万物は白銀の棺へと収められる」
リオの詠唱が響く。
「光なき深淵より響くは、命なき者たちが捧げる終焉の調べ」
「吹き荒ぶ吹雪よ、世界の体温を奪い、すべての未練を凍てつかせよ」
巨大な空洞に冷気が満ち始めた。
「逃れる術すべなき絶対の静寂よ、哀れな子らに永遠の眠りを与えん」
周囲の温度が一気に低下する。
床が白く凍り付き。
空気そのものが軋み始めた。
四十階層の階層主、シルバー・リザード・センチネルが警戒するように低く唸る。
その周囲を囲む取り巻き達も同時に動き出した。
だが。
もう遅い。
膨大な魔力が収束する。
リオの周囲へ幾重もの魔法陣が浮かび上がった。
そして。
「――響き渡れ、『氷魔の鎮魂歌ニブルヘイム・レクイエム』」
次の瞬間。
世界が白銀に染まった。
轟音。
凍てつく嵐。
絶対零度の吹雪が階層主の間を蹂躙する。
スレート・リザード達が一瞬で凍り付き。
そのまま砕け散った。
高速で駆けていたクイック・リザードも逃げる暇すらない。
氷像となって崩壊していく。
さらに数体いたシルバー・スケイル・リザードも吹き飛ばされる。
だが。
二体だけ。
金属光沢の鱗を纏った個体が辛うじて耐えた。
瀕死。
それでもまだ動いている。
そして。
吹雪の中心。
シルバー・リザード・センチネルはなお健在だった。
全身の銀鱗が白く凍り付きながらも。
巨大な身体は倒れていない。
「あらあらあら~」
「ホントにアレクシアちゃんの超級魔法ね~」
「リオちゃん、すごいわ~」
ミレティアがいつもの調子で、だけど驚きを隠せずに呟く。
アレクシアが楽しそうに笑う。
「いつも通り、階層主は多少のダメージを負っただけで健在か」
「だが十分だ」
その瞬間。
ロガーナが飛び出した。
「お前は邪魔だ!」
瀕死のシルバー・スケイル・リザードへハルバードを叩き込む。
一撃で銀鱗ごと両断。
その直後、黒い影が駆け抜けた。
カイゼルが抜刀し、銀線のような一閃を放つ。
「同感だ」
もう一体のシルバー・スケイル・リザードの首が宙を舞った。
速い。
「グォォォォォ!!」
シルバー・リザード・センチネルが咆哮する。
巨大な尻尾がロガーナへ叩き付けられた。
轟音。
だが。
ロガーナは正面から受け止める。
「効かねぇよ!」
同時。
赤い魔力がロガーナの身体を包み込んだ。
タウントスキル。
敵意誘導。
シルバー・リザード・センチネルの視線が完全にロガーナへ固定される。
「いくぞ!」
アレクシアの声。
前衛が同時に動いた。
カイゼル。
リュザード。
そしてリオ。
リュザードが側面へ回り込む。
2本の曲刀が銀鱗の隙間へ突き刺さった。
続けてカイゼル。
無駄がない。
速い。
鋭い。
だが。
それ以上に。
剣を振る瞬間に何か不思議な感じがある。
リオは、作戦通り、銀翼の剣を邪魔しない位置に動く。
「今回は俺は邪魔さえしなければいい」
「攻撃を加えながら」
「カイゼルさんの剣技を間近で見せてもらう!!」
心の中でそう叫びながら、カイゼルの剣技を一番良く見える位置に陣取る。
後衛で魔力を練り上げながら、アレクシアはリオの動きを見ていた。
「あいつ、今度はカイゼルにご執心か」
「気の多い奴だ」
「まぁ、好きにするといい」
アレクシアは小さく笑いながら氷槍をシルバー・リザード・センチネルに叩き込む。
その時。
後方から暖かな光が降り注いだ。
ミレティアの支援魔法。
同時に。
ミアの強化魔法が身体へ重なる。
「リオ! 強化かけたよ!」
「はい!」
さらに。
ミアの弱体魔法がシルバー・リザード・センチネルへ突き刺さる。
銀色の巨体の動きが僅かに鈍った。
その隙を逃さず、
リュザード、カイゼル、リオ達前衛の攻撃がシルバー・リザード・センチネルを襲う。
「ギャァァァァ!!」
シルバー・リザード・センチネルが苦悶の咆哮を上げた。
だが。
まだ倒れない。
硬い。
さすがは四十階層の階層主。
普通のパーティなら取り巻き処理だけでも苦戦するだろう。
だが。
銀翼の剣の連携は止まらない。
ロガーナが正面で攻撃を受け止め。
リュザードが死角から削る。
アレクシアの魔法が追撃し。
ミレティアとミアが後方から支える。
そして。
カイゼル。
その剣は。
別格だった。
(カイゼルさんの剣を少しでも理解するんだ……!)
リオは攻撃を継続しながら、感知能力を極限まで高める。
身体強化、魔力操作、剣技、その全てを捉える。
そして。
その絶技の一端を理解した。
(そうか……!)
(剣に魔力をまとわせ……!)
(剣を当てる瞬間……!)
(その魔力を一点へ叩き込んでいるのか!!)
その瞬間。
カイゼルが踏み込む。
銀閃。
魔力が爆ぜる。
シルバー・リザード・センチネルの首筋へ深い裂傷が走った。
「今だ!!」
ロガーナが吠える。
リュザードが飛ぶ。
アレクシアの氷槍が貫き。
リオも剣を叩き込む。
最後はやはりカイゼル。
一閃が。
シルバー・リザード・センチネルの首を断ち切った。
巨大な銀の巨体が崩れ落ちる。
轟音。
静寂。
そして。
リオは倒れた階層主を見つめながら。
自分の剣を強く握り締めていた。
(今見たことを……)
(忘れるな……!)
(カイゼルさんの剣技を自分のものにするんだ……!)
【お知らせ】明日も閑話ありの日。 朝06:10(閑話)と夜19:10(メインパート)の「1日2回更新」をお届けします!ミア編、セレナ編ときたらやっぱりレオル・ドルクも書かないとということで、明日も閑話があります。ぜひ朝の通勤・通学時間と、夜のゴールデンタイムにお楽しみください!
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