第50話 アーマード・ミノタウロス
やがて。
一行は三十階層最奥へ到達した。
巨大な石造りの扉。
その前でアレクシアが立ち止まる。
「三十階層の階層主だ」
「リオ」
「今回は見ていろ」
「銀翼の剣の戦い方を見せてやる」
「はい」
リオは素直に頷いた。
重厚な扉がゆっくりと開く。
その先に広がっていたのは巨大な円形広間だった。
中央には巨大な牛頭の魔物。
全身を黒鉄の鎧で覆った巨体。
アーマード・ミノタウロス。
その周囲には二体のミノタウロス・ガード。
さらに十数体のミノタウロス・ソルジャーがアーマード・ミノタウロスを囲うようにして身構えている。
「かなりの数ですね」
リオが思わず呟く。
だが。
アレクシアは不敵に笑った。
「問題ない」
「まずは掃除だ」
杖が掲げられる。
その瞬間、広間の空気が変わった。
莫大な魔力。
リオは思わず息を呑む。
超級魔法。
アレクシアが呪文を唱え始める。
そして。
「――ニブルヘイム・レクイエム」
次の瞬間、白銀の冷気が広間を駆け抜けた。
ミノタウロス達の動きが止まる。
腕も。
足も。
咆哮すらも。
全身が氷に覆われている。
まるで最初から氷像だったかのように。
そして。
砕けた。
氷の彫像となったミノタウロス・ソルジャー達が、粉雪のように崩れ落ちていく。
ミノタウロス・ガードもまた全身を凍らされ、大きな損傷を受けていた。
アレクシアの超級魔法。
氷耐性がない魔物はほぼ一撃だ。
「行くぞ!」
ロガーナが飛び出した。
巨大なハルバードが唸る。
瀕死のミノタウロス・ガード二体を一撃で粉砕。
そのままアーマード・ミノタウロスへ突撃する。
轟音。
黒鉄の斧とハルバードが激突した。
「こっちだ!」
ロガーナが叫ぶ。
アーマード・ミノタウロスの視線が完全にロガーナへ向いた。
その隙を逃さず、リュザードが横へ回り込む。
曲刀が閃く。
さらに風の刃。
鎧の隙間を正確に切り裂いた。
アーマード・ミノタウロスが苦痛の咆哮を上げる。
アレクシアも追撃する。
「ハイドロ・ブレード」
強力な水刃が生み出され、アーマード・ミノタウロスを切り裂く。
一枚。
また一枚。
黒鉄の装甲が削られていく。
その間、ロガーナはアーマード・ミノタウロスの猛撃を、はじき、受け止め、いなし続けた。
ときには挑発すら交えながら。
その怒涛の攻撃を一手に引き受けている。
巨大な斧が唸り。
重い蹴りが地を揺らし。
体当たりが壁のように迫る。
ロガーナはそのすべてを正面から受け止める。
だが、鎧越しでも衝撃は蓄積していく。
斧の刃が肩口をかすめ、火花とともに血が散った。
「ヒール・ライト~♪」
その瞬間、ミレティアの柔らかな声とともに光が降り注いだ。
温かな癒しがロガーナの身体を包み、裂けた傷がみるみる塞がっていく。
「ありがとよ!」
ロガーナは笑い。
再びアーマード・ミノタウロスへ踏み込んだ。
リオは目を見開く。
凄い。
個々の強さも見てきたが、何よりも銀翼の剣のメンバーそれぞれが言われなくとも自分の役割を果たしている。
誰一人無駄な動きをしていない。
だから強い。
それが一目でわかった。
やがて。
アーマード・ミノタウロスの動きが鈍る。
アレクシアが叫んだ。
「カイゼル!」
「決めろ!」
黒髪の剣士が前へ出る。
アーマード・ミノタウロスが咆哮する。
黒鉄の斧を振り上げた。
だが。
その腕は振り下ろされなかった。
ロガーナが巨大なハルバードで軌道を逸らし、そのまま肩口へ食い込ませて押し止めていた。
「カイゼル、やれ!」
床石が砕ける。
それでもロガーナは退かない。
アーマード・ミノタウロスの動きが、ほんの一瞬だけ止まった。
その隙を、カイゼルは見逃さなかった。
蒼い魔力が剣へ集まる。
刃が淡く輝いた。
「……ブレーク・エッジ」
低く、短く。
それだけを告げて踏み込んだ。
迷いのない一撃が、アーマード・ミノタウロスの胸部中央へ深々と食い込んだ。
轟音。
黒鉄の鎧が内側から弾け飛ぶ。
アーマード・ミノタウロスの巨体が揺れる。
そして。
崩れ落ちた。
静寂。
ロガーナがハルバードを肩へ担ぐ。
「終わったな」
リュザードも剣を収めた。
「肩慣らしにもならねぇな」
ミレティアが苦笑する。
「あらあら~」
「ロガーナちゃん、少し怪我してたじゃない~」
「すぐ治っただろ!」
ロガーナが笑う。
アレクシアはそんな仲間達を見回し、満足そうに頷いた。
「どうだ、リオ」
「これが銀翼の剣だ」
リオは答えなかった。
視線はただ一人。
カイゼルへ向いている。
脳裏には先ほどの一撃が焼き付いていた。
(すごい……)
(あの剣技……)
(どうすればあんな剣が使えるんだ……)
気が付けば、リオの胸の高鳴りは、戦闘の興奮ではなくなっていた。
もっと知りたい。
もっと見たい。
そして。
あの剣を身につけたい。
その想いは、先ほどまでよりも遥かに強くなっていた。
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