第46話 戦いの後
レッド・サイクロプス・ギガントの巨体が、ついに崩れ落ちた。
地面が大きく揺れる。
レオルが叫ぶ。
「よし!」
「レッドは倒したぞ!」
その瞬間。
ドルクはすでにレッドの場所を離れていた。
向かう先は一つ。
ブルー・サイクロプス・ギガント。
巨大な戦斧を振り回しながら暴れる青い巨人。
その前で、リオはまだ必死に戦い続けていた。
身体強化を限界まで高め。
感知能力を広げ。
ブルーの攻撃をかわしながら、増援のサイクロプスをディープ・フリーズで封じ続けている。
ドルクが戦斧を構える。
「リオ、いいぞ」
リオがブルーと戦いながら、その声に安堵する。
「ブルーは任せろ」
リオは即座に返事をする。
「はい!」
次の瞬間。
ドルクの戦斧が唸りを上げた。
轟音。
ブルー・サイクロプス・ギガントの戦斧とドルクの戦斧が激突する。
空気が震えた。
リオは大きく後方へ飛び退く。
だが休む暇はない。
感知能力の先。
右通路。
サイクロプス二体。
「ディープ・フリーズ!」
氷が地面を走る。
サイクロプス達の足元が凍り付き、動きが止まる。
リオは息を切らしながらも、再び周囲を感知する。
雑魚を戦場へ近づけさせない。
それが今の自分の役割だ。
リオが飛び退いた後。
ブルー・サイクロプス・ギガントの前にはドルクが立っていた。
レオルも槍を構えて走り込む。
セレナは風刃を構え直す。
ミアの弱体魔法がブルー・サイクロプス・ギガントを包み込む。
次はブルーだ。
ブルー・サイクロプス・ギガントが咆哮する。
戦斧が振り下ろされる。
ドルクが受ける。
重い。
だが、その攻撃はレッドとさほど変わらないレベルだ。
いける。
レオルが側面から槍を突き込む。
硬い皮膚に刃が食い込む。
だが。
決定打にはならない。
「ちっ」
レオルは舌打ちした。
その時だった。
ふと。
レオルは目の前の巨体を見た。
青い皮膚。
レッド・サイクロプス・ギガントとは違う。
レッドは炎への絶対耐性を持っていた。
なら。
こいつはどうだ。
レオルは槍へ炎を纏わせる。
「試してみるか」
炎を纏った槍がブルー・サイクロプス・ギガントの肩へ突き刺さる。
次の瞬間。
「ゴォォォォォッ!!」
明らかに反応が違った。
炎が傷口へ食い込む。
青い巨人が苦悶の声を上げる。
レオルの目が見開かれた。
「お!」
もう一撃。
炎槍が脇腹を貫く。
確かな手応え。
レオルが叫んだ。
「いける!!」
「炎が効くぞ!!!」
「セレナ!」
「いけ!」
セレナの表情が変わる。
「分かったわ!」
それまで風刃を操っていたセレナの周囲に、炎の魔力が集まり始める。
彼女が最も得意とする属性。
本来の力。
炎。
「ドルク、押さえて!」
「うむ」
ドルクが踏み込む。
ブルー・サイクロプス・ギガントの戦斧を受け止め、体勢を崩させる。
ミアは支援をさらに重ねる。
レオルの炎槍が連続して突き込まれる。
そして。
セレナが詠唱を始めた。
「集え、天を焦がす焔よ」
「揺らめき、渦巻き、紅蓮の奔流となりて我が手に宿れ」
「熱を高め、限界を超え、灼き尽くす力を一点へと収束せよ」
「鋼すら溶かす灼熱の核、荒れ狂う炎の化身となりて標的を貫け」
「逃避を許さぬ絶対の熱量を以て、灼き穿つ軌跡を描け!」
炎が槍の形を取る。
凝縮された炎の刃。
セレナは杖を振りかざす。
「──ファイア・ランス!!」
炎の槍がブルー・サイクロプス・ギガントの胸へ突き刺さった。
轟音。
青い巨体が大きくのけぞる。
「ゴォォォォォォッ!!」
効いている。
明らかに。
ドルクがブルーを挑発し、引き付ける。
レオルの炎槍がブルーの背後から突き刺さる。
セレナの炎魔法もそれに続く。
ミアは全員の支援維持と同時に、ブルーを次々と弱体化させていく。
蒼天の軌跡本来の戦い方。
炎を軸にした圧倒的な攻撃。
ブルー・サイクロプス・ギガントはなおも暴れた。
だが。
レッドと違い、炎が通る。
それだけで戦況は大きく変わった。
セレナがもう一度魔力を練り上げる。
「これで終わりよ」
再び炎の槍が形成される。
レオルが叫ぶ。
「いけ!セレナ!」
ドルクが戦斧でブルーの体勢を崩す。
その隙を逃さず。
セレナの巨大な炎槍が巨人の胸を貫いた。
ブルー・サイクロプス・ギガントの動きが止まる。
そして。
ゆっくりと膝をついた。
そして。
ドルクの戦斧が振り下ろされる。
青い巨体が崩れ落ちた。
そして。
ディープ・フリーズで足止めしていたサイクロプス達も散り散りに逃げ去っていく。
静寂。
しばらく誰も動かなかった。
勝った。
本当に勝ったのだ。
四十五階層を突破した。
レオルが大きく息を吐く。
「終わった……な」
ミアも力が抜けたようにその場に座り込む。
「勝てた……」
ドルクは戦斧を下ろし、静かに頷いた。
「うむ」
リオもようやく感知を緩めた。
身体が重い。
足が震える。
身体強化、感知能力、ディープ・フリーズ。
そのすべてを限界近くまで使い続けた反動だった。
そして、左肩の傷が、じくじくと熱を持ってうずいているのに今更ながらに気づく。
見ると、血で袖が張り付いていた。
だが、勝てた。
リオはほっと息を吐く。
疲れて座り込んでいたミアがリオの様子を見て、飛んでくる。
「リオ!」
「どこをやられたの!見せて!」
そう言って、リオの左肩に回復魔法をかけるミア。
「ほんと、無茶しないでね」
ミアの回復魔法で痛みが引いたその時。
セレナが近づいてきた。
表情は固い。
リオは首を傾げる。
「セレナさん?」
次の瞬間。
「リオ!!」
「あなた、大丈夫なの?!」
リオは慌てて首を振る。
「だ、大丈夫です」
「ちょっと肩をやられたけど、ミアの回復魔法で治りました」
「大丈夫です!」
セレナはほっと息をついてリオに詰め寄る。
「何を考えてるの!」
「あんな無茶をして!」
「一人でブルー・サイクロプス・ギガントの相手をしながら」
「サイクロプスの足止めも継続するなんて」
リオは慌てて答える。
「無我夢中でした!」
「とにかく」
「あいつをドルクさんに近づけちゃいけないと思って」
「必死だったんです!」
セレナの目がさらに鋭くなる。
「だからよ!!」
「自信があってやったのならともかく!」
「無茶だと分かっていてやったのなら、あなたは馬鹿よ!」
「大馬鹿よ!!」
リオはしゅんと肩を落とした。
「すみません……」
セレナは本気で怒っていた。
怒っていた。
だが。
その声は、次第に震え始める。
「やめてよ……」
リオが顔を上げる。
「セレナさん?」
「そんな無茶をしないで……」
セレナは唇を噛む。
そして。
小さく続けた。
「あなたまで失ったら」
「私は立ち直れないかもしれない」
沈黙。
リオは目を丸くした。
レオルはそっと視線を逸らす。
ミアも何となく空を見上げた。
ドルクは何も言わない。
セレナ自身も、言ってから気付いたように、少しだけ顔を赤くした。
リオは困ったように頭を掻く。
「その……」
「心配かけてすみません」
セレナはぷいっと顔を背けた。
「反省しなさい」
「はい」
リオは素直に頷いた。
それを見て。
セレナもようやく、小さく息を吐く。
その後。
満面の笑みを見せた。
「リオ、ありがとう」
「あなたのおかげで勝てたわ!」
そして。
蒼天の軌跡は。
フィエルを失って以来、初めて四十五階層を突破したのだった。
サイクロプス・ギガント戦、いかがだったでしょうか?
リオが遂に本領(の一部を)発揮。リオの活躍で強敵を倒すことができました!もし楽しんでいただけたなら、ぜひ下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】の評価で応援してもらえると、今後の執筆の大きな励みになります!」
※次回は、四十五階層突破の“打ち上げ回”です。
みんながようやく笑える時間になりますので、肩の力を抜いて読んでいただけたら嬉しいです。




