第45話 サイクロプス・ギガント
第四十五階層。
巨大な広場。
その中央に鎮座するのは、一つ目の巨人。
レッド・サイクロプス・ギガント。
その周囲には十数体を超えるサイクロプス達が集まっていた。
レオルが槍を構える。
「いたな」
ドルクも戦斧を握り直した。
「予定通りだ」
リオは巨大な赤い巨人を見上げる。
昨日の作戦会議。
セレナの説明。
フィエルのこと。
失われた戦術。
全てを思い出していた。
セレナがリオを見る。
「作戦は覚えてるわね」
リオは頷いた。
「はい」
レオルがニヤリと笑う。
「なら遠慮はいらねぇ」
「派手にやれ」
セレナも頷く。
「予定になかった超級魔法を覚えてくれたのは本当に助かるわ」
「まずは、見せてちょうだい」
リオは静かに前へ出た。
深く息を吸う。
そして。
膨大な魔力が集まり始めた。
周囲の空気が凍り付く。
サイクロプス達がざわめく。
レッド・サイクロプス・ギガントも警戒したように目を細めた。
だが。
もう遅い。
リオは詠唱を開始する。
「――時は止まり、声は失われ、万物は白銀の棺へと収められる」
魔力が奔流となって集まる。
「光なき深淵より響くは、命なき者たちが捧げる終焉の調べ」
周囲の温度が急激に低下する。
地面に霜が走った。
「吹き荒ぶ吹雪よ、世界の体温を奪い、すべての未練を凍てつかせよ」
サイクロプス達が一斉に駆け出す。
しかし間に合わない。
「逃れる術なき絶対の静寂よ、哀れな子らに永遠の眠りを与えん」
リオは剣を掲げた。
「――響き渡れ」
「『氷魔の鎮魂歌』」
世界が白く染まった。
吹雪。
氷。
絶対的な冷気。
広場全体を飲み込んだそれは、サイクロプス達を容赦なく凍り付かせる。
次の瞬間。
無数の氷像が砕け散った。
粉雪となって崩れ落ちる。
残ったのは。
レッド・サイクロプス・ギガントのみ。
その巨体も氷に覆われていた。
だが。
完全には止まらない。
全身から赤い蒸気を吹き上げながら氷を砕いていく。
それでも。
ダメージは通っていた。
身体中に亀裂が走る。
レッド・サイクロプス・ギガントが怒りの咆哮を上げた。
レオルが笑う。
「十分だ!」
「これならやれる!」
セレナが叫んだ。
「行くわよ!」
「作戦通り!」
四人が前へ出た。
◇
戦闘は順調だった。
ドルクが前で受ける。
レオルが槍を叩き込む。
ミアの支援が飛ぶ。
セレナは本来の炎魔法ではなく風刃を操る。
レッド・サイクロプス・ギガントの身体に次々と傷が刻まれていく。
そして。
リオは戦場の外側を見ていた。
感知能力。
広範囲に広げた意識が周囲の魔物を捉える。
「右通路。三体」
ディープ・フリーズ。
通路が凍り付く。
サイクロプス達の足が地面に張り付く。
動けない。
戦場へ近づけない。
「左通路。五体」
再びディープ・フリーズ。
こちらも止まる。
近づけない。
戦場へ入れない。
レッド・サイクロプス・ギガントとの戦闘は完全に隔離されていた。
フィエルの空間固定結界ほどではない。
だが。
今の蒼天の軌跡には十分だった。
順調。
作戦通り。
レッド・サイクロプス・ギガントの片腕が吹き飛ぶ。
レオルが叫ぶ。
「押してるぞ!」
ドルクも前へ出る。
「あと少しだ!」
ミアが笑顔になる。
「いける!」
誰もが勝利を確信した。
その時だった。
レッド・サイクロプス・ギガントが天を仰ぐ。
大きく息を吸う。
セレナが眉をひそめた。
「何?」
次の瞬間。
轟音。
「ゴォォォォォォォォォォォッ!!」
広場全体を揺るがす咆哮。
ウォークライ。
リオの顔色が変わった。
感知能力の先。
遠方。
強烈な反応。
サイクロプスなど比較にならない。
レッド・サイクロプス・ギガントと同格。
いや。
それ以上かもしれない。
巨大な反応がこちらへ向かってくる。
「まずい!」
セレナが振り返る。
「どうしたの!?」
「何か来ます!」
「強い!」
「レッドと同格です!」
全員の顔色が変わる。
そして。
通路の奥から巨大な影が飛び出した。
青い皮膚。
巨大な戦斧。
ブルー・サイクロプス・ギガント。
つがいだった。
レオルが舌打ちする。
「冗談だろ!」
リオは即座に魔法を放つ。
「ディープ・フリーズ!」
通路全体が凍る。
だが。
ブルー・サイクロプス・ギガントは止まらない。
巨大な足が氷を踏み砕く。
バキバキバキッ!!
氷の拘束が吹き飛んだ。
「効かない!?」
セレナが息を呑む。
ブルー・サイクロプス・ギガントは一直線に走る。
狙いはドルク。
今レッドを押さえ込んでいる盾役だった。
ドルクが振り返る。
間に合わない。
このままではドルクがやられる。
そう皆が思った瞬間。
リオが飛び出した。
魔力を全開にした身体強化。
地面が砕け、足元から岩が飛び散る。
一瞬でブルー・サイクロプス・ギガントの前へ。
「お前の相手は俺だ!!」
リオの剣が閃く。
浅い。
だが、その効果は十分だった。
巨大な単眼のすぐ横を切り裂かれたブルー・サイクロプス・ギガントは怒りを露わにした。
そして。
ブルー・サイクロプス・ギガントの標的が変わった。
リオへ。
戦斧が振り下ろされる。
回避。
地面が爆発する。
速い。
重い。
強い。
今まで戦ったどの敵よりも危険だった。
だが。
ドルクの方へ行かせるわけにはいかない。
その時。
感知能力の先に新たな反応。
右通路。
サイクロプス三体。
リオは舌打ちした。
だが、止める。
「集え、時を止めし蒼氷の静寂よ」
「流れを凍て付かせ、鼓動さえも縛る氷結の鎖となりて我が手に宿れ」
「熱を奪い、意志を閉ざし、その身を透き通る氷像へと変えよ」
「逃れる術なし、砕けぬ牢獄、絶対零度の縛めを刻め」
「──今この時に凍て付け」
「ディープ・フリーズ!」
ブルー・サイクロプス・ギガントの戦斧を剣ではじきながら、増援のサイクロプスの足を止める。
通路封鎖。
サイクロプス達は戦場へ近づけない。
直後。
鮮血が飛び散る。
詠唱に気を取られたリオの左肩をブルー・サイクロプス・ギガントの戦斧が切り裂いた。
「…………!」
激しい左肩の痛みに声が漏れそうになるのを必死で押し殺す。
その間にも増援のサイクロプスが現れたことを感知能力がリオに告げる。
左通路に四体。
右手だけでサイクロプスの斧を剣ではじき、躱しながら高速に詠唱する。
「──今この時に凍て付け」
「ディープ・フリーズ!」
並行詠唱。
習ってもいない高等技術を拙いながらもその飛びぬけた感覚で実現させ、新たに現れたサイクロプスたちを凍結させる。
凍結。
回避。
感知。
凍結。
さらに回避。
左肩の痛みに加え、頭までズキズキと痛んでくる。
さすがのリオも、全力の身体強化での戦闘と連続した上級魔法の行使に肩で息をする。
だが、そんなことは関係ないとばかりに、右手だけでブルー・サイクロプスの戦斧をはじき続ける。
再びのサイクロプスの出現。
戦いの中で、リオの並行詠唱はその精度を高め続け、剣戟で戦斧をはじきながらの詠唱がどんどん様になっていく。
「──今この時に凍て付け、ディープ・フリーズ!」
普通ならどれか一つでも大仕事だ。
だがリオは全部やっていた。
それは、リオの身体能力に加え、蒼天の軌跡に教わった魔力制御も全力で使いこなしての奇跡的な離れ業だった。
たった一人で。
セレナが風刃を放ちながら後方を見る。
そして息を呑んだ。
「すごい……」
ブルーを引き付けている。
それだけではない。
雑魚封鎖も続けている。
本来なら別々の役割。
それを一人で。
レオルが叫ぶ。
「セレナ!集中しろ!!」
「リオが頑張ってくれているうちにこいつを倒すぞ!」
セレナは前を向いた。
今は目の前だ。
そうだ。リオが時間を稼いでくれている。
ならば。
こちらも応えなければならない。
「総攻撃!」
蒼天の軌跡の火力が一斉にレッド・サイクロプス・ギガントへ叩き込まれた。
巨人が大きくよろめく。
そして――。
その巨体が遂に。
崩れ落ちた。
サイクロプス・ギガント戦、いかがだったでしょうか?
これまでどちらかというと修行中心だったリオが遂に本領を発揮し始めました。リオの戦いぶりに少しでも熱くなっていただけたら、ぜひ下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】の評価で応援してもらえると、今後の迷宮攻略の大きな励みになります!」




