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【毎日更新】亡霊の罠で女になった万年D級探索者、拾われた先で頭角を現す ~灯火の輪のリオ~  作者: アサトン


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第44話 失われた戦術

翌日。


アレクシアは朝早く王都へ帰っていった。


「王都で待ってるからな」


その伝言を残して。


見送りを終えた蒼天の軌跡のメンバーは、宿の一室へ集まる。


テーブルの上には迷宮の地図。


蒼天の軌跡のメンバーがこれまでにマッピングし、作成した貴重なものだ。


セレナが全員を見渡した。


「さて」


「四十五階層攻略について話しましょう」


リオも真剣な表情になる。


いよいよだ。


セレナは地図の一点を指差した。


「まず」


「四十五階層の階層主はレッド・サイクロプス・ギガント」


「最大の特徴は炎への絶対耐性」


リオが驚く。


「絶対耐性?」


レオルが肩をすくめた。


「ああ」


「オレの炎纏いもほとんど効かねぇ」


「セレナの炎魔法もな」


セレナも頷く。


「だから昔から相性が悪かった」


「でも」


「攻略できなかったわけじゃない」


そこでセレナは少し言葉を止めた。


「前はフィエルがいたから」


リオはその名前に反応する。


以前、もう一人メンバーがいたと聞いたことはある。


だが詳しい話は知らない。


なんとなく尋ねるのも気が引けていた。


「フィエルさんですか?」


ドルクが頷く。


「うむ」


セレナは静かに説明を始めた。


「フィエルは光魔法も使える騎士、聖騎士だった」


「二つ名は断絶の刃」


「剣士としても、光魔法使いとしても一流だったけど、最も強力だったのは彼の固有スキル」


「二つ名の理由ともなっているわ」


「固有スキル?」


「聖域のサンクチュアリ・ケイジ


「彼の持っていた聖なる盾を媒介にして空間を固定する結界よ」


「彼を中心に、一定の半球範囲を完全に隔離できる」


「魔物は外から入ることも」


「中から出ることもできない」


レオルが少し補足する。


「逆に、我々はいつでも外へ出ることができる」


「安全に撤退するのにも使える、強力なスキルだ」


リオは息を呑んだ。


すごい。


戦術そのものを変える能力だ。


レオルが続ける。


「だからオレ達はボスだけ見てりゃよかった」


「増援なんざ気にする必要もなかったからな」


セレナが頷く。


「四十五階層も同じだった」


「レッド・サイクロプス・ギガントを結界の中へ閉じ込める」


「ドルクとフィエルがレッド・サイクロプス・ギガントを抑えている間に」


「まず、雑魚を倒す」


「そして残ったレッド・サイクロプス・ギガントを我々5人全員で倒す」


「それが今までのやり方」


リオは理解した。


強力な結界のおかげで。


増援が問題にならなかったのだ。


そして。


セレナの表情が曇る。


「でも」


「五十五階層をきっかけに」


「これまでの戦い方はできなくなった」


部屋の空気が変わる。


ミアが俯いた。


レオルも黙る。


ドルクも腕を組んだまま何も言わない。


セレナが静かに話を続ける。


「五十五階層の階層主はウォー・オーク・エンペラー」


「私達はあの時、勝てると思っていた」


「実際、戦いは有利だと思っていたわ」


フィエルの聖域の檻。


ドルクとフィエルによる前衛。


レオルの槍による攻撃。


セレナの魔法。


そしてミアの支援。


完全に機能していた。


そう思っていた。


だが、ウォー・オーク・エンペラーの体力はこれまでの階層主と比べても段違いだった。


削っても削っても終わりが来ない。


そして、致命的なその瞬間が訪れた。


「ミアも限界だった」


ミアが小さく肩を震わせる。


「俺たちがもっと注意すべきだった」


「ミアは、全員に複数の強化魔法を」


「そして、ウォー・オーク・エンペラーには弱体魔法を」


「何種類もの強化魔法と弱体魔法を維持しながら、切れる前に更新し続けていたんだ」


レオルが苦しそうにつぶやく。


「ミア、本当にすまなかった」


ミアが小さな声で呟く。


「違う!」


「私が悪いの!私が全部……」


「汗が……」


「目に入って……」


「ほんの一瞬だけだったの……」


セレナは静かに続ける。


「支援が切れた」


「その瞬間」


「弱体魔法のなくなったウォー・オーク・エンペラーの強力な攻撃がフィエルの右足を切断した」


リオは言葉を失った。


ドルクが低い声で言う。


「足を失ってもフィエルは結界を維持してくれた」


「我々が逃げる時間を稼ぐために」


しばらく沈黙が続く。


やがてリオが尋ねた。


「その後……フィエルさんは?」


セレナは少し寂しそうに笑った。


「フィエルが頑張ってくれている間に転移結晶を用意した私たちと一緒に脱出は出来たわ」


「でも、その後......」


セレナは続けた。


顔に一瞬悲しそうな顔をうかべて。


「私達は引き止めたわ」


「義足でも戦える」


「フィエルなら前みたいにはいかなくても、一緒に戦えるって」


「それに深層奥地へ行けば」


「欠損すら治すと言われる秘宝」


「創世の雫が手に入るかもしれない」


レオルが横から言う。


「まぁ、伝説のようなものだがな」


「実物の存在もはっきりしない」


セレナは静かに続ける。


「だから諦める必要なんてないと思ってた」


だが。


フィエルは首を横に振った。


『潮時だ』


『今回の敗北は誰も悪くない』


『俺自身のせいだ』


『戦っていて弱気になった』


『ウォー・オーク・エンペラーを怖いと思ってしまった』


『いくら攻撃しても全く変わらないあいつを前にして怖くなったんだ』


『こんなことは初めてだ』


『引退する』


部屋が静まり返る。


ミアは唇を噛んだ。


セレナも少しだけ目を伏せる。


「そう言って」


「フィエルは蒼天の軌跡を去った」


リオは何も言えなかった。


レオルが腕を組む。


「だからオレ達は今も深層奥を目指してる」


ドルクも頷いた。


「うむ」


セレナが静かに続ける。


「深層の謎を解くため」


「そして」


「フィエルの足を治す創世の雫を手に入れるために」


しばらく誰も口を開かなかった。


やがてセレナが地図へ視線を戻す。


「話を戻すわ」


「現実として」


「私達はフィエルを失った」


「戦力を一人失っただけじゃない」


「戦術そのものを失ったの」


地図の一点を指差す。


「レッド・サイクロプス・ギガントは以前なら問題なかった」


「でも今は違う」


「増援を防ぐ手段がない」


「ミアの土魔法で増援を防いだり」


「レオルが遊撃として雑魚を始末したり」


「いろんな作戦を試したけど」


「四十五階層は増援が多すぎるの」


レオルも言う。


「だから何度も撤退している」


リオは静かに聞いていた。


するとセレナが真っ直ぐこちらを見る。


「だからディープ・フリーズを覚えてもらったの」


「え?」


「あなたに覚えてもらった理由よ」


「聖域の檻ほど完璧じゃない」


「でもディープ・フリーズがあれば」


「多数の敵が近づいてきても」


「一斉に足止めできる」


「それだけで十分価値がある」


レオルも頷く。


「要するにだ」


「レッドはオレ達が倒す」


「増援はお前が止める」


ドルクが短く言う。


「鍵はお前だ」


ミアも顔を上げる。


「お願い」


「私たちはあいつを倒して、もっと先へ進まなきゃいけない」


「リオの力を貸して」


リオはしばらく黙っていた。


そして静かに頷く。


「わかりました」


「俺の力が役に立つなら」


「それ以上に嬉しいことはありません」


その目に迷いはなかった。


読んでいただきありがとうございます。

今回は蒼天の軌跡の過去に触れる少し重い回でした。

なんとなく元々の蒼天の軌跡のパーティバランスが悪いと思っていただいていた方は大正解。

フィエルの存在や、彼を失ったことで変わってしまった戦い方──

その重さを感じていただけたなら嬉しいです。

ここからリオが“鍵”としてどう関わっていくのか、見守っていただけたら励みになります。

よければページ下の評価やブクマで応援していただけると嬉しいです。

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