第41話 上級魔法
アレクシアは訓練場の中央へ歩いていく。
「なーに。上級魔法といっても、中級魔法とそこまで大きく変わるわけじゃない」
リオは真剣な表情で耳を傾けた。
「ただ、当然ながら中級魔法よりさらに詠唱が長くなる」
「中級魔法より遥かに長い詠唱を唱える間、深く集中し、淀みなく、素早く、安定して魔力を圧縮し、放出する必要がある」
アレクシアは少し考えるように空を見上げた。
「そうだな……」
「澄んだ小川の流れを保ったまま、それをさらに激しく強く流すようなイメージ、といえばいいか」
リオは静かに頷く。
アレクシアは指を二本立てた。
「セレナからの注文は二つ」
「一つはウォーターカッターの上位版だな。上級単体水魔法」
「それと、上級範囲氷魔法だ」
「ハイドロ・ブレードは想像がつくだろ」
「ウォーターカッターよりもさらに強力な水の刃で単体の敵を切り刻む魔法だ」
「ディープ・フリーズは範囲内の敵の足元を凍らせ、動きを封じる」
「深層四十一階層以降の攻略には役立つはずだ」
アレクシアはニヤリと笑った。
「一度見せてやる」
「よく見ておけ」
「ちょっとだけ待ってください」
リオは考える。
初級魔法はなんとなく感覚で使えたけれど、上級魔法はそれじゃいけない気がする。
そうだ!
リオは感知魔法を全力で展開し、アレクシアの一挙手一投足、肉体の動きに加え、魔力の流れを含むすべての動きを見逃すまいと集中する。
「はい。お願いします。見せてください」
「いくぞ!」
アレクシアの周囲に膨大な魔力が集まり始める。
「集え、静寂なる一滴」
詠唱が始まった。
リオは感知能力をさらに研ぎ澄ませる。
「渦を巻き、速度を上げ、限界を超えて研ぎ澄まされよ」
魔力が圧縮されていく。
ただ集めるだけではない。
細く、鋭く、密度を増しながら、一点へと収束していく。
「鋼をも断ち切る高圧の刃、荒れ狂う激流の化身となりて、標的の命を刈り取れ」
リオは息を呑んだ。
詠唱のリズム。
魔力の流れ。
圧縮時の魔力の揺らぎ。
発声と魔力制御の連動。
その全てが、リオの特異な感知能力を通じて流れ込んでくる。
「逃避を許さぬ絶対の速度を以て、一閃の下に切り刻め!」
そして放出。
「ハイドロ・ブレード!!」
やがて魔法が終わる。
アレクシアは振り返った。
「どうだ?」
「何か感じるものはあったか?」
リオは素直に頷いた。
「ええ」
「すごいですね」
「初級魔法とは全然違います」
アレクシアは首を傾げた。
「初級?」
「ああ、そういやお前、中級魔法はフレアストームしか使えなかったんだったか」
「だったら少し説明を飛ばしすぎたか?」
だがリオは首を振った。
「いえ」
「たぶん大丈夫だと思います」
アレクシアが眉を上げる。
「ほう?」
リオは訓練場の中央へ歩いていった。
「ちょっとやってみます」
先ほど感知したアレクシアの魔法を思い出す。
魔力の流れ。
圧縮。
放出。
感知能力で受け取ったすべての動きをなぞるように再現していく。
周囲の空気がわずかに震えた。
魔法が発動しかける。
だが――
霧散した。
「あれ?」
リオは首を傾げる。
「おかしいな」
「できそうなイメージはあったんだけど」
アレクシアは目を丸くした。
「おいおいおい」
「もう発動しかけてるじゃねーか」
リオは驚いて振り返る。
「そうなんですか?」
「そうなんですかじゃねえ!」
アレクシアは呆れたように頭を抱えた。
「普通はそこまで行くだけで何日もかかるんだよ」
そして興味深そうにリオを見る。
「どうやった?」
リオは素直に答えた。
「感知能力を全開にして」
「アレクシアさんの魔法をなぞるように真似してみました」
一瞬の沈黙。
そして。
アレクシアは腹を抱えて笑い出した。
「はははははは!」
「なるほどな!」
「アタシの魔法をコピーしたってわけか!」
「そりゃインチキだ!」
「普通は感知能力で他人の魔力の流れをそんな細かいところまで感知できるやつはいねーよ!」
リオは目を瞬いた。
「え?」
「アレクシアさんでもですか?」
アレクシアは即答した。
「少なくともアタシにはできねー」
「他人の魔法を見て参考にすることはある」
「だが魔力の流れから詠唱、圧縮、放出まで丸ごと再現なんて聞いたこともねえ」
そしてニヤリと笑う。
「だからインチキだって言ってんだよ」
しばらく笑った後、アレクシアは満足そうに頷いた。
「まあいい」
「これなら一週間どころか、一日でできるかもしれねえな」
アレクシアは再び訓練場の中央へ向き直った。
「一度と言ったが気が変わった」
「もう一度見せてやる」
「今度はもっと細かいところまで見てみろ」
◇
その日の夕方。
蒼天の軌跡のメンバーと、セレナの姉、アレクシアは『赤狼亭』へ来ていた。
リオのB級探索者合格祝い兼、アレクシアの歓迎会だ。
料理が次々と運ばれてくる。
肉。
魚。
スープ。
そして酒。
ミアが笑顔でジョッキを掲げた。
「それじゃあ!」
「リオちゃんのB級合格と」
「アレクシアさんの歓迎の意味を込めて!」
「乾杯!」
「乾杯!」
賑やかな声が店内へ響いた。
◇
しばらくして。
酒が進み始めた頃。
レオルがリオに尋ねた。
「そういや試験の内容はどうだったんだ?」
「リオなら簡単だったんだろう?」
リオはジョッキを傾けながら答える。
「えっと……」
「感知能力、魔法、剣と試されて」
「合格といわれた感じです」
それを聞いたレオルは。
「つまり」
「簡単だったってことだな」
リオは照れ笑いをしながら
「セレナさんのこれまでの教え方が良かっただけですよ」
「ところで」
「セレナさんは王都にアレクシアさんを迎えにいってたんですね」
「そうよ」
セレナが答える。
「セレナさんにお姉さんがいたなんて、全然知りませんでした」
「まぁ……ね。色々あって言ってなかったわ」
その言葉を聞いたリオが尋ねる。
「色々?」
「ちょっとね。喧嘩別れしてから会ってなかったのよ」
アレクシアがジョッキを持ったまま話を遮った。
「セレナ!そんなことはどうでもいいだろう」
そして。
「それより」
「事前に聞いていた以上の化け物だな。こいつは」
ミアがアレクシアに尋ねる。。
「どういうこと?」
アレクシアはさらに酒を飲む。
そして深いため息を吐いた。
「こいつ」
親指でリオを指す。
「今日一日で目標を達成しやがった」
沈黙。
数秒。
セレナが聞き返した。
「……達成した?」
「いま、達成したって言った??」
「そうだ」
「ハイドロ・ブレードとディープ・フリーズ」
「1日で使えるようになった」
再び沈黙。
ミアが笑顔のまま固まる。
ドルクも珍しく眉を動かした。
何より、セレナが驚いていた。
「まさか。上級魔法もたった1日で覚えたっていうの?」
アレクシアがそれを聞いてセレナに尋ねる。
「なんだよ。お前」
「知ってたんじゃないのか?」
「知ってたって、何を??」
セレナは即座に聞き直した。
「こいつの、感知を使ったコピー能力」
「知らないわ。何?コピー能力??って」
セレナは思わず、リオに尋ねていた。
「あー。えーっと」
リオは言いにくそうに始めた。
「上級魔法はさすがに初級みたいに感覚では覚えられそうになかったので」
「感知能力を全開にして、アレクシアさんのマナの動きから何から全部を感知して」
「それをなぞるように試してみたら」
「できちゃいました」
「おかしい……ですかね?」
アレクシアは頭を抱えた。
「おかしいに決まってるだろ!」
「感知能力で人のマナの動きを全部感知するってところがそもそもでたらめすぎる」
「そんなことできるやつは聞いたことがねぇ」
レオルが苦笑する。
「まあ、リオだしな」
「リオちゃんだもんねぇ」
「うむ」
ミアやドルクも後に続く。
アレクシアが机を叩いた。
「お前ら、なんでそんなに軽いんだ!」
「こいつ感知能力で魔法を丸ごとコピーしてるんだぞ!」
「しかも五属性魔法を使える」
「つまりこいつは人の魔法を見るだけで、火・水・風・土・闇の魔法ならすべて覚えられるってことだ」
呆然としていたセレナが声を上げる。
「姉さん、まって」
「つまり」
「リオは、私や姉さんの超級魔法も覚えようと思えば覚えられるってこと?」
「まぁ、おそらくな」
「私の超級魔法を教える気はないが」
ミアが横から突っ込む。
「えー?なんでー?」
「リオがセレナとアレクシアさんの超級魔法を両方覚えれば無敵じゃない?」
アレクシアがジョッキをたたきつけて答える。
「ふざけるな!」
「アタシがあの魔法を覚えるのにどれだけ苦労したと思う!」
「無条件でコピーされてたまるか!」
リオもそれはもっともだな・・・と漠然と考えていた時に
「姉さん。私からもお願いするわ」
「リオに姉さんの超級魔法を教えて」
「私でよければなんでも言うことを聞くから」
「今回来てくれた時に約束した交換条件をもっと増やしてくれてもいいわ」
それを聞いたリオはセレナに尋ねる。
「交換条件?」
「交換条件ってどういうことです?」
横からアレクシアが答える。
「いくら時間がちょっとあいてるからって私がはい行きますと1週間も助けにくるわけないだろ」
「当然交換条件付きだ」
リオは驚いて尋ねる。
「それって、俺のためにセレナさんが何かを大変なことをするってことですか?」
「大変ってわけじゃない」
「私が王都から1週間こちらに来たように」
「セレナにも1か月我々のパーティに参加してもらう約束だ」
ミアがまた横から。
「えー?なんか交換条件の期間がおかしくない?」
「アレクシアさんは1週間しかいられないんでしょ?」
「なんでセレナは1か月なの?」
アレクシアは答える。
「セレナの目的は1週間で達成できても」
「私の目的は最低1か月ないと達成できそうにないからな」
「だが、それも気が変わった」
「セレナはいらない。リオを貸せ」
「約束通り1か月でいい」
「超級魔法も残りの期間で教えてやる」
セレナが焦った様子で答える。
「それは困るわ」
「リオを育てている理由は姉さんにも話したでしょう?」
「育てた結果、姉さんのところにいくなんて」
「私たちの目的が達成できなくなるじゃない」
アレクシアが言い返す。
「なら、超級魔法を教えるのは無しだ」
「セレナにも約束通り1か月王都に来て手伝ってもらう」
「それで約束通りのはずだな」
セレナが痛いところをつかれたように答える。
「でも姉さん」
2人の会話を聞いていたリオがそこで横から割り込んだ。
「セレナさん、アレクシアさん」
「俺で良ければアレクシアさんを手伝いますよ」
「いえ、ぜひ手伝わせてください」
「ただし」
「まずは蒼天の軌跡の現在の目標。45階層の突破が優先」
「それが終わったら」
「王都でアレクシアさんを手伝う」
「それでどうでしょう?」
アレクシアがにやりと笑って言う。
「アタシはそれでいいぜ。いや。それがいい。」
「その順番なら、リオはアタシの超級魔法も、セレナの超級魔法も」
「セレナから聞いていた、ミアの強力な支援魔法も全部覚えてから王都に来れるよな」
「それが一番アタシの目標達成に役立ちそうだ」
読んでいただきありがとうございます!
上級魔法もあっという間に使いこなす(というかコピーしてしまう)リオの姿、いかがでしたか。
アレクシアやセレナたちもびっくり。そろそろ無双が始まる予感……
これからのリオの無双ぶりに期待!という方は、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】評価やブックマークでの応援をお願いします!今後の更新のパワーになります!m(_ _)m




