第40話 姉妹
B級昇格試験を終えたリオは、合格の報告をするため灯火の輪のクランハウスへ戻ってきた。
試験会場からの帰り道、自然と足取りは軽くなる。
B級探索者。
少し前までの自分なら考えられなかった称号だ。
蒼天の軌跡と出会い、深層攻略に参加し、そして今日、昇格試験にも合格した。
もちろん、まだ実感は薄い。
だが、正直嬉しい。
クランハウスの扉を開くと、談話室には数人のクランメンバーが集まっていた。
そして、その奥に見慣れた姿を見つける。
「セレナさん?」
王都へ向かったはずのセレナがそこにいた。
セレナは本から視線を上げると、当然のように言った。
「おかえり」
一拍置いて。
「合格おめでとう」
リオは思わず目を瞬かせた。
「あ、ありがとうございます」
反射的に礼を言うが、すぐに疑問が浮かんだ。
「でも、もう王都から戻ってたんですね」
「ええ」
「それより」
リオは首を傾げる。
「誰から合格を聞いたんですか?」
セレナは不思議そうな顔をした。
「聞いてないわよ」
「え?」
リオが固まる。
セレナは平然と続けた。
「落ちるわけないもの」
リオは目を見開いた。
「え?」
「落ちる可能性が少しでもあると思ったら」
セレナは微笑んで言う。
「王都になんて行ってないわ」
リオは言葉を失った。
胸の奥が少しだけ熱くなる。
そうか、セレナさんは最初から自分が合格すると信じてくれていたのか。
「ほんとにありがとうございます……」
思わず頬が緩む。
なんだか妙に嬉しかった。
その時、セレナさんの横から遠慮のない声が飛んできた。
「おー。こいつかー」
リオがそちらを向くと、見知らぬ女性が興味深そうにこちらを眺めていた。
「なんかやたら可愛いけど」
女性は腕を組む。
「本当にこいつが特例でいきなりB級合格したやつなのか?」
リオは驚いてセレナに尋ねた。
「セレナさん、お知り合いですか?」
すると、セレナではなく、女性から返事が返ってきた。
「あー?」
「知り合いも何も……」
女性は親指でセレナを指した。
「アタシはアレクシア」
「セレナの姉だよ」
一瞬。
リオの思考が止まった。
「え?お姉さん?」
「セレナさん、お姉さんがいたんですか?」
思わずセレナを見ると、セレナは小さく微笑みながら頷いた。
「ええ。会うのは久しぶりだけどね。実の姉よ」
リオは再び女性を見ると、もう一度セレナを見る。
似ていない。
いや、顔立ちはどことなく似ている。
だが雰囲気がまるで違う。
セレナは落ち着いていて理知的だ。
一方で目の前の女性は、どこか豪快というか雑というか。
少し意外だった。
そんなリオの考えを見透かしたようにアレクシアが笑う。
「お前、今、全然似てないって思っただろ」
リオはぎくりとした。
「い、いえ!」
「思ったな」
アレクシアは大笑いした。
「ははは!まあ、よく言われる」
「セレナとアタシじゃ性格が違うからな」
セレナが小さくため息をつく。
「姉さん、少し落ち着いて」
アレクシアは即答した。
「昔からこうだから、今さらだろ?」
セレナは何も言い返さなかった。
どうやら事実らしい。
アレクシアは腕を組んだままニヤリと笑った。
「感謝しろよ?セレナがどうしてもって言うから、お前のためにわざわざ王都から来てやったんだ」
リオは首を傾げた。
「俺のため?」
そして隣のセレナを見る。
「どういうことですか? セレナさん」
アレクシアが呆れたように額を押さえた。
「おいおい、なんでもかんでもセレナに聞くんじゃねーよ」
「今アタシと話してるんだろうが」
リオが慌てる。
「す、すみません」
「ったく」
アレクシアは肩をすくめた。
「セレナはお前の保護者か?」
セレナが小さく苦笑した。
「まぁまぁ、姉さん。少しだけ待って」
そしてリオへ視線を向ける。
「リオ、この人はさっきも言った通り、私の姉のアレクシア」
「王都のAランクパーティ《銀翼の剣》所属の魔導士よ」
リオは思わず目を見開いた。
王都のAランクパーティ、それだけでも十分驚きだ。
だがセレナの説明は終わらなかった。
「付け加えると、氷属性の超級魔法使いでもあるわ」
リオは固まった。
「ちょう……きゅう?」
セレナは頷く。
「ええ、王都では『白銀の歌姫』なんて呼ばれているわ」
リオは思わずアレクシアを見た。
アレクシアは面倒そうに手を振る。
「あー、その呼び名はやめろ。恥ずかしいんだよ」
全然恥ずかしそうには見えなかった。
セレナは気にせず話を続ける。
「そして本題だけど」
「リオ、あなたにはこれから一週間、姉さんに水属性と氷属性の魔法を教わってもらいます」
リオは瞬きをした。
一秒。
二秒。
三秒。
「……はい?」
セレナは淡々と続ける。
「一週間で最低でも、上級単体魔法を一つ、上級範囲魔法を一つ」
「習得してもらうわ」
リオはしばらく動きを止めた後、勢いよく立ち上がる。
「いやいやいやいや!さすがに無理じゃないですか?」
「一週間で上級は」
アレクシアが吹き出した。
「ははっ!安心しろ!アタシも最初はそう思った」
アレクシアはニヤリと笑う。
「でもセレナのいうことがすべて本当なら、できるんじゃねーか?」
「まぁできないと許さねーけどな」
「私がこっちにいられるのは1週間が限界だ。私も忙しい」
「その期間に覚えられないようなら、覚悟しておけよ……きっついおしおきをな」
その言葉に、リオは内心震え上がった。
この人、覚えられなかったら本当にやる気だ……
セレナが微笑みながら口をはさむ。
「リオ、大丈夫よ」
「これまであなたは私たちをさんざん驚かせてきた」
「今回も私たちを驚かせてちょうだい」
「……はい。やってみます。でも」
アレクシアをみていう。
「もしできなくてもおしおきはお手柔らかにお願いします」
「はははは!そいつは聞けねーな!」
「時間がない、さっさと準備しろ!」
「訓練場へいくぞ!!」
読んでいただきありがとうございます!
今日はアレクシア初登場の回でした。
豪快なお姉さんですが、リオにとってはとても大事な新たな師匠兼仲間となります。
次回からはまた少し修行編。楽しんでいただけたら嬉しいです。
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