第37話 今後の方針
その夜、赤狼亭。
夕食を終えた蒼天の軌跡の面々は、いつもの席に集まっていた。
だが、いつもとは空気が違う。誰もが今日の出来事を整理しきれていなかった。
最初に口を開いたのはレオルだった。
「で?」
腕を組む。
「何を議論するんだ?」
セレナはしばらく黙っていたが、しばらくして口を開く。
「すみません」
その言葉に全員が目を向ける。
「私も正直混乱しています」
そういって、苦笑する。そんなセレナを見るのは珍しかった。
「ダンジョンでリオに言った通りです」
「私がリオを少し能力の高い普通の探索者だと思って指導していたのが、おそらく間違いだったのでしょう」
そして、セレナは真っ直ぐリオを見た。
「リオ、本当にすみませんでした」
リオは慌てて首を振る。
「やめてください!セレナさんには感謝こそすれ、謝られるようなことは何もありません」
セレナは視線を落とした。
「ですが……」
そこまで言って、ふっと息を吐く。
「いえ、少し冷静になりましょう」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「四十階層まであんな攻略ができるなら、今までの常識が変わります。私も困惑しているのでしょう」
そして改めて口を開く。
「一つだけ確認させてください」
「リオ」
「はい」
「あなたはソロに戻りたいですか?」
「待って待って待って!!」
ミアが勢いよく立ち上がった。
「さっきから何を言ってるの?!どうしてリオをソロにするのよ!」
セレナは落ち着いたまま答える。
「確認しているだけです。私もソロに戻れと言っているわけではありません」
ミアは不満そうな顔をした。
だがセレナは続ける。
「むしろ私は――」
そこで一度言葉を区切った。
「ぜひリオには今まで通り――いえ、今まで以上に蒼天の軌跡の仲間として戦ってほしいと思っています」
レオルが眉を上げる中、セレナは続けた。
「リオがいれば、私達四人での最高到達階層である四十五階層はもちろん、かつての最高到達階層である五十五階層を超えることも不可能ではありません。何しろ毎回四十一階層から攻略を開始するようなものなのですから」
レオルが苦笑した。
「それはそうだな。一日で四十階層まで到達するなんて前代未聞だ」
ドルクも頷く。
「うむ」
ミアはまだ納得していなかった。
「そう思ってるならソロに戻りたいかなんて聞かないでよね……」
そしてリオを見る。
「リオ」
「これからも一緒に戦ってくれるよね?」
突然話を振られたリオは目を瞬かせた。
「え?」
「え?」
ミアとセレナを交互に見る。
セレナは静かに言った。
「リオ、ちゃんと考えて、自分の気持ちで答えてください。どんな結論でも、私達は受け入れます」
「私は受け入れないからね!」
ミアが即座に反論する。
「リオがソロに戻るなんて言っても絶対引き留める!」
リオは思わず苦笑した。
「待ってください」
「セレナさん、ミアさん」
全員の視線が集まる。
リオはゆっくり口を開いた。
「俺が今の状況でソロに戻るなんて、そんな恩知らずに見えますか?」
ミアがきょとんとする。
セレナも目を見開いた。
「セレナさん、さっきも言いましたけど、俺、本当に感謝しているんです」
リオは静かに続ける。
「これまで深層攻略を後回しにしてまで、俺に色々教えてくれました。ようやく感知能力で少しだけ貢献できるようになったのかなと思おうとしていましたが、全然これまでの恩を返せそうにないなとも思っていました」
少し照れくさそうに笑う。
「ですが、今回のことで、俺が本当に蒼天の軌跡に貢献できるんだと、やっと恩が返せるんだと、今、うれしくてしょうがないんです」
しばらく誰も何も言わなかった。
やがて、セレナが微笑む。
「ありがとうございます」
ミアは満面の笑みだった。
「さすがリオ!」
レオルも笑う。
「そう言ってくれると、俺達も助かるぜ」
ドルクも微笑む。
「うむ」
◇
少しの間、和やかな空気が流れた。
だが、セレナはすぐに表情を引き締める。
「では、改めて今後の話をしましょう」
全員が頷く。
「話したいことは二つあります」
「一つ目はリオのことです」
リオが首を傾げた。
「俺ですか?」
「はい」
セレナは頷く。
「これまではリオに色々教えることばかり考えていて、リオ自身のことを後回しにしていました」
「ですが、そろそろちゃんとしなければなりません」
ミアも頷く。
「確かに」
セレナは続けた。
「クランの情報としても、ギルドの情報としても、リオは未だにDランクのソロ探索者のままです」
リオは、それを聞いて戸惑ったが、言われてみればその通りだった。
「クラン側の手続きは私が進めます。ですが、一度ギルドへ行きましょう」
「今のリオなら、我々の推薦があればB級昇格試験にも十分合格できるでしょう」
レオルが笑った。
「むしろ落ちたら試験の方がおかしいな」
ミアも笑う。
「それはそう」
リオだけが困った顔をしていた。
◇
「二つ目は今後の深層攻略についてです」
空気が少し引き締まる。
「今日の方法で常に四十階層まで一日で到達できるなら、我々は四十一階層からの攻略に専念できます」
レオルの表情が真面目になる。
ドルクも腕を組んだ。
「ですが」
「四十一階層からは強力な炎耐性を持つ魔物が増えます。四十階層までと同じ方法は使えません。ですから今後は、四十一階層以降の攻略に焦点を置いて考える必要があります」
そして、セレナはゆっくりと言った。
「最初の難関は四十五階層です」
その場の空気が変わる。
四十五階層。
現状の蒼天の軌跡が、何度も挑み、そして足を止められている壁だった。
レオルが静かに笑った。
「ようやく攻略会議らしい話になってきたな」
ミアも頷く。
「今度こそ突破したいね」
ドルクが短く答える。
「うむ」
セレナは全員を見渡した。
「まずは四十五階層、話はそこからです」
誰も異論はなかった。
今日、常識は変わった。
そして蒼天の軌跡は、再び上を目指そうとしていた。
読んでいただきありがとうございます!
「蒼天の軌跡」は、新たな壁である四十五階層攻略に向けて進んでいきます。リオの成長と、仲間たちの絆に注目していただければ幸いです。
続きが気になる方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】評価での応援をよろしくお願いします。励みになります!m(_ _)m




