第36話 実地検証
二十階層まではいつも通りだ。
戦闘は最小限。
危険な群れは回避して、ひたすら下の階層へ進む。
そして二十一階層。
セレナが足を止めた。
「ここからです。リオ」
リオが感知を広げると、すぐに反応が見つかった。
「前方です。数は六体。周囲に探索者はいません」
セレナが頷く。
「作戦通りお願いします。魔力切れが起きそうであれば言ってください」
リオは自分が緊張しているのを感じた。
昨日覚えたばかりの中級魔法。訓練場では成功したが、実戦は初めてだった。
本当にうまくいくのだろうか? そんな不安を振り払うように息を吐き、魔力を練り上げた。
「大気に満ちる我が魔力、烈火の檻となりて爆ぜよ――」
詠唱と共に、前方の通路を埋めるように魔力が広がると、周囲の空気が熱を帯び、集められた魔力が炎へと変わっていく。
「フレアストーム」
轟音が鳴り響き、次の瞬間、灼熱の嵐が通路を駆け抜けた。
炎が渦を巻きながら魔物の群れを飲み込む。
悲鳴すら聞こえない。
ただ圧倒的な熱量だけが前方を薙ぎ払っていく。
そして、数秒後静寂が訪れた。
リオは感覚を研ぎ澄ませ、周囲を確認する。
「……倒せたようです」
正直、リオ自身が一番驚いていた。昨日覚えたばかりの魔法だ。
訓練場で威力は見ていたとはいえ、これほど簡単に魔物の群れを殲滅できるとは思っていなかった。
ミアが口を開く。
「うわぁ」
レオルが苦笑した。
「一匹もいないな」
セレナは冷静だった。
「問題ありませんね」
「魔石を回収したら次へ進みましょう」
◇
その後も同じだった。
感知。
確認。
フレアストーム。
殲滅。
移動。
感知。
確認。
フレアストーム。
殲滅。
移動。
魔物の群れは次々と消えていく。
時折、炎耐性を持つ魔物が生き残ることもあった。
だが。
「残り二体だ」
レオルが飛び出し、一閃。首が飛ぶ。
ドルクも続き、巨大な斧が振り下ろされる。
戦闘は数秒で終了した。
ミアが笑う。
「楽だねー」
リオは少し困惑していた。
「えっと、これでいいんですか?」
セレナは即答した。
「上出来です」
そして、また次の群れが現れる。
フレアストーム。
フレアストーム。
フレアストーム。
炎の嵐が何度もダンジョンを薙ぎ払った。
◇
しばらくして、レオルが足を止めた。
「おいおいおいおい。どうして俺たちは四十階層への階段前にいるんだ?」
ミアが答える。
「早かったねー」
ドルクが頷く。
「うむ」
レオルが頭を抱えた。
「早いどころじゃない。まだ夕方だぞ」
「一番時間がかかったのは魔石を拾う時間じゃないかなー」
ミアがそう言った後、また全員押し黙り、そこでようやく全員が気付いた。
いつもなら数日かけて進む距離を、1日もかからず突破していた。
ミアが乾いた笑いを漏らす。
「あはは」
セレナは無言だった。
代わりに荷物を確認する。
回復薬はほぼ手付かず。
マナポーションもほぼ手付かず。
消耗していない。
全くと言っていいほど。
そして、大量の魔石。
1日たらずで1層から40層まで、最短距離を走ってきたとはいえ、殲滅した魔物の数は多い。
セレナは深く息を吐いた。
「……なるほど」
レオルが聞く。
「何がだ?」
セレナはゆっくり答えた。
「亡霊の説明は正しかったのでしょうね」
リオを見る。
「リオ」
「はい」
「現在の魔力残量は?」
リオは、自分の内部に意識を向け、少し考える。
「八割以上は残ってると思います」
再びの静寂。
レオルが空を見上げ、ドルクが黙り込む。
ミアは笑うしかなかった。
そんな中、セレナだけが冷静だった。
「リオ」
「すみません、私の判断が間違っていたのかもしれません」
「以前、リオはソロで中層を、そしていずれは深層を探索するつもりだといっていましたね」
セレナは一度言葉を切った。
「私は無理だと思っていました。ですが、今の結果を見る限り――」
少し声のトーンが落ちる。
「それも、不可能ではないのかもしれません」
「リオはソロに戻りたいですか?」
「この能力があれば、ソロでも十分な成果を上げられるでしょう」
「待って待って待って!!」
ミアが慌てて口を挟んだ。
「セレナ、何言いだすのよ!」
リオはセレナとミアを交互に見た。
「え?え?」
セレナは小さく息を吐いた。
「ともかく、今日はここまでにしましょう」
レオルが驚く。
「まだ行けるぞ」
「ええ」
セレナは頷く。
「ですが、一度整理が必要です」
「まずはリオの今後も含めて、方針を整理しましょう」
読んでいただきありがとうございます。
今日はリオのフレアストームが本格的に威力を発揮する回でした。
話の流れでこの展開を予想した人は大正解!
これまで苦労していた迷宮探索序盤が圧倒的に楽になり、蒼天の軌跡メンバーは大喜びです(笑)
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