第35話 フレアストーム
翌朝。
リオは朝食の席で昨夜の出来事を話していた。
亡霊との会話。
五%という数字。
海の水をストローで吸いながら使っているようなものだという例え。
全てをそのまま話す。
話し終わる頃には、全員が黙っていた。
最初に口を開いたのはセレナだった。
「五%……ですか」
信じられない、そんな表情だった。
「はい」
リオは頷く。
「正直、自分でも信じられません。ですが、あいつが嘘をついているようにも思えませんでした」
セレナは腕を組むと、しばらく考え込んでいたが、やがて静かに口を開く。
「もしそれが本当なら、私の考え方が間違っていたのかもしれません」
ミアが驚いた顔になる。
セレナが自分からそう言うのは珍しい。
「どういうこと?」
「私はリオを普通の魔導士として指導していました」
セレナは言う。
「ですが、そもそもの前提が違う可能性があります」
レオルが腕を組む。
「それで?」
セレナは即答した。
「今日の攻略は中止です」
ミアが目を丸くした。
「え?」
「訓練と検証を行います」
セレナの目は真剣だった。
「リオ」
「はい」
「以前話した中級炎属性魔法の話を覚えていますか?」
リオはすぐに思い出した。
野営の時の話だ。
「フレアストームですか?」
「はい」
セレナは頷く。
「まずはそれを習得してください」
◇
訓練場。
セレナはフレアストームについて説明していた。
詠唱。
魔力の流し方。
制御方法。
危険性。
一通り説明が終わる。
「ではやってみてください」
リオは頷いた。
目を閉じ、セレナの説明を思い出す。
魔力を集め、流れを作る。
そして、詠唱。
次の瞬間。
魔法が発動し、轟音が耳をつんざく。
巨大な炎の嵐が訓練場を駆け抜けた。
熱風が吹き荒れる、炎が渦を巻く。
まるで災害だった。
その様子を見て、リオは目を見開いた。
「すごい……」
ミアが呆れた顔になる。
「また一発で覚えた」
レオルも苦笑した。
「相変わらずだな」
セレナは小さくため息をつく。
「それについてはもう驚きません」
リオは少し複雑な気分になった。
◇
「では発動してください」
セレナが言った。
リオは頷く。
フレアストーム。
発動。
轟音と巨大な炎の嵐。
野営の時、セレナ達が話していた理由が分かった。
中級魔法、そんな言葉で片付けられる威力ではない。圧倒的だった。
ミアが笑う。
「ね。ロマン砲でしょ?でも普通1発しか撃てないからロマン砲なんだけどねー」
セレナは頷きながら言った。
「そうですね、本来なら実戦では扱いづらい魔法です」
そして、すぐにリオに尋ねる。
「魔力消費はどうですか?」
リオは自分の内部に意識を向けた後に言った。
「ほとんど感じません」
全員が沈黙する中、セレナが言った。
「もう一発お願いします」
二発目。
再び轟音がなり、炎の嵐が吹き荒れる。
「どうですか?」
「少し、減ったかな……いや、あまり変わったように思いません」
正直に答える。
三発目。
ミアが思わず叫んだ。
「ちょっと待って!」
全員がミアを見る。
「それ普通三発も撃てないからね?」
リオは目を瞬かせた。
「いや。でもあまり魔力を大量消費している感じはありません……」
ミアは力強く言った。
「普通は一発撃ったら魔力切れなんだよ!」
リオは困惑する。言われても実感がない。
四発目。
五発目。
訓練場の空気が変わっていた。
セレナは無言。
レオルも無言。
ドルクも無言。
フレアストーム。
本来なら上級魔導士ですら実戦投入をためらう魔法。
それを、リオは五発連続で撃っている。しかも息一つ乱していない。
セレナが口を開く。
「リオ」
「はい」
「魔力切れの兆候はありますか?」
リオは再び自分の内部に意識を向けた後、正直に答える。
「ありません」
再び、全員が沈黙する中、やがてレオルが頭を掻いた。
「おい」
ドルクも頷く。
「おかしい」
ミアは遠い目をしていた。
「おかしいね」
リオだけが状況を理解していない。
セレナはしばらく考え込んだ後に、結論を出す。
「訓練所では判断材料が不足しています」
レオルが呆れた顔になる。
「十分判断できた気もするが」
「いいえ」
セレナは首を横に振った。
「実戦で確認する必要があります」
そしてリオを見る。
「明日、実地検証を行いましょう」
リオは頷いた。
ミアは少し楽しそうだった。
レオルは嫌な予感がしていた。
ドルクは無言だった。
セレナだけが真剣な表情を崩さない。
だが、その目には確かな期待が宿っていた。
もし亡霊の言葉が本当なら。
もしリオが本当に規格外なら。
蒼天の軌跡の攻略速度は大きく変わる。
そして翌日、その答えが明らかになる。
今日は以前前振りしていたフレアストーム。その訓練回でした。
リオの魔力量の異常さが、少しでも伝わっていたら嬉しいです。
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