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【毎日更新】亡霊の罠で女になった万年D級探索者、拾われた先で頭角を現す ~灯火の輪のリオ~  作者: アサトン


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第3話 俺だ、リオだ 

結局、日が沈むまで隠し部屋は見つからなかった。壁を叩き続けたせいで手は赤くなり、肩で息をする頃には、リオも理解し始めていた。消えたのだ、あの部屋は。まるで最初から存在しなかったみたいに。


「……なんなんだよ」


掠れた声が漏れるが、返事はない。湿った通路と、水音だけ。


リオは壁にもたれながら、自分の腕を見る。細く、白い。左腕には銀色の腕輪。外そうとしてもびくともしない。爪を立てても、押しても引いても、何も変わらない。


「くそっ……!」


苛立ちのまま壁を蹴る。だが返ってきたのは鈍い痛みだけだった。


頭が冷えていくと同時に、別の問題が浮かび上がる。……これからどうする。宿へ戻る? この姿で? 説明は? 信じてもらえるのか?


リオは深く息を吐いた。だが他に行く場所もない。結局、リオは重い足取りのまま地上へ戻った。


夜の迷宮都市は、酒場の灯りと探索者達の笑い声で賑わっていた。いつもと同じ光景。だが今日は、その全部が遠かった。通りを歩くたび、視線を感じる。当然だった――見知らぬ若い女が一人、似合わない男物の服を着て歩いているのだから。


リオは俯いたまま、宿へ急いだ。見慣れた宿屋、《渡り鳥亭》。リオが扉を開けると、カラン、と鈴が鳴った。カウンターの女将、マルグレタが顔を上げる。


「いらっしゃいませ。お泊まりですか?」


マルグレタはリオの男物の服にちらりと目をやりながら尋ねた。


「……え」


リオはその質問に動きを止めてしまった。どう言えばいい。どう説明すればいい。


リオの沈黙にマルグレタが困った顔をした。


「えっと……大丈夫かい? 部屋なら空いてるけど――」


「違う」


反射的に否定した自分の高い声に、また胸の奥がざわつく。


「俺だ、リオだ」


マルグレタが完全に固まる。


「……は?」


当然の反応に、リオは頭を抱えたくなる。そこへ、奥の食堂側から聞き慣れた声がした。


「なんだ騒がしいな――」


クラウスだった。ジョッキを片手に歩いてきた彼を見て、リオは思わず声を上げた。


「クラウス」


呼ばれたクラウスが、足を止めて振り返る。


「……俺だ。リオだ」


数秒の沈黙。クラウスの表情が消えた。


「……は?」


「だからリオだって言ってるだろ……!」


「いや待て待て待て、意味がわからん」


クラウスはリオの顔をまじまじと見つめた。


「信じられないのはわかるが、本当なんだ」


「……証拠は?」


リオは息を吐き、言葉を紡ぐ。


「第四層で、俺をかばって毒食らった時、“貸しだからな”ってお前、言ったろ?」


クラウスの顔が強張る。


「……」


「お前、あの後三日間ずっと腕痺れてただろ」


さらに沈黙。クラウスはその言葉を聞き、今度はリオを頭から足まで見回した。長い髪に、細い身体と整った顔立ち。そして、困ったような目。


「……マジでリオなのか?」


「だからそう言ってるだろ……」


さらに沈黙。クラウスは腕を組み、何度もリオの顔を見た。そして。


「……お前、無茶苦茶可愛くなったな」


「そこかよ!!」


宿に声が響いた。何人かの客が吹き出し、リオは顔を真っ赤にした。


「いや、でもマジで、その辺歩いてたら絶対目立つぞ」


「やめろ!!」


「なんで怒るんだよ!」


クラウスは心底不思議そうだった。そこがまた腹立たしい。


だが次の瞬間、クラウスは少し真面目な顔になった。


「……まぁ、生きてて良かった」


その妙に真っ直ぐな言葉にリオは一瞬言葉を失い、小さく視線を逸らした。


「……死ぬかと思う目にあったけどな」


「そうか」


クラウスは苦笑し、マルグレタへ向き直った。


「こいつをリオの部屋に入れてやってくれ、俺が保証する」


「いや、保証って言われてもねぇ……」


マルグレタは困惑したままだったが、最終的にはため息をついた。


「……変なこと起こさないでよ?」


「仮に起きたとしても起こしたくてやってるわけじゃない……」


リオは疲れ切った声で言い、そのまま自分の部屋へ戻る。


見慣れた狭い部屋には、男物の服や使い込んだ装備、机とベッド。全部いつものままだ。なのに、自分だけが違っていた。


リオは鏡を見る。そこには、知らない女がいた。整った顔立ち、長い銀色の髪、赤みの入った瞳の女が自分を見ている。


「……誰だよ」


呟いても、返事はない。


それからの二日間、リオはほとんど部屋から出なかった。食事も最低限で、鏡には布を被せた。考えようとすると頭が痛くなる。戻る方法、あの男の素性、外れない腕輪、自分を変えた古代遺物。何もわからない。ただ一つだけ確かなのは、今自分が女性になっていること。ただ、それだけだった。


そして二日目の夜、暗い部屋の中で突然、左腕の腕輪が淡く光り始めた。


「……っ!?」


リオが飛び起きると同時に、腕輪から銀色の光が空中へ広がる。そして、見覚えのある半透明の男が、楽しそうな顔で現れた。


『やっほー!』


リオのこめかみに青筋が浮かんだ。


挿絵(By みてみん)


※挿絵はAIで製作したイメージ画です。


2026/6/3 読み直していて違和感ある部分を修正しました。


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