第33話 野営
野営の準備が進んでいた。
ドルクが手際よく荷物を広げ、レオルは周囲を見回してから戻ってきた。
「問題なさそうだな」
セレナが頷く。
「ええ、このままここを使いましょう」
ドルクが薪を組み上げ、鍋を取り出すとその上に置く。
レオルはその前へしゃがみ込むと、手のひらに小さな火球が生まれる。
それを薪へ放り込むと、火が燃え上がった。
ミアがそれを見ながら呟く。
「いいなー」
レオルが顔を上げる。
「何がだ」
「火属性」
レオルは苦笑した。
「そうか?」
「そうだよー」
ミアは頬杖をついた。
「私、基本四属性——火水風土の中では火だけないんだよね」
「ちょっと羨ましい」
リオは少し意外だった。
ミアは四属性持ちだ。
今は五属性使える自分が言うのもなんだが、ミアは十分すごいと思う。
セレナも同じことを思ったらしい。
「四属性使えるミアの方が凄いと思いますよ。特に、水がなければ人は生きていけませんから。ミアの水魔法の方が私はうらやましいです」
「うーん。まあそうかもしれないけどさー」
ミアは肩を竦める。
「レオルも使える」
「セレナも使える」
「リオも使える」
「私だけ使えない」
ドルクが口を開く。
「自分もだ」
ミアは即答した。
「ドルクは魔導士じゃないでしょ」
「そうか。そうだな」
ドルクは納得したように頷いた。
リオはそれを聞いて吹き出した。
ミアも笑う。
深層とは思えない穏やかな空気だった。
やがて鍋から湯気が立ち始め、スープの香りが広がると、リオのお腹が小さく音をたてた。
その音を、ミアは聞き逃さなかった。
「あっ。今リオのお腹が鳴った!!」
「聞こえたよね?」
ミアが周囲を見る。
レオルが笑った。
「聞こえたな」
「聞こえました」
セレナも頷く。
リオは顔を赤くした。
「スルーしてください」
ミアは楽しそうだった。
「育ち盛りだねー」
「そんなことはありません」
「そうかなー」
ようやく食事が始まる。
干し肉、硬いパン、そして温かなスープ。
リオはスープを一口飲むと、思ったよりも美味しかった。
自然と頬が緩む。
「美味しいです」
「でしょ〜?」
ミアが得意そうに言った。
「まぁ、私が作ったわけじゃないけど」
ミアは笑う。
夕食は穏やかに進んでいった。
その時、リオは昼間の戦闘を思い出した。
「今日のメイジデュラハンですが」
セレナが顔を上げる。
「はい」
「魔法を使う魔物って厄介ですね」
セレナは頷いた。
「ええ」
「魔法は距離を無視できますから、後衛が狙われることも多いですね」
リオは納得した。
確かに危険だ。
レオルも口を開く。
「だから魔法使いは優先して倒す。放置すると面倒だからな」
「なるほど」
リオは頷く。
「魔導士は狙われる運命なのです」
ミアが笑いながら、続けた。
「まぁだから躱すのも逃げるのも上手くないとね」
「狙われるのは魔導士に限らないがな」
レオルが呆れたように言う。
リオは少し笑った。
魔法。
この世界へ来てから何度も見てきた。
だが、まだ知らないことの方が多い。
「中級以上の魔法にはどんな魔法があるんですか?」
その質問に。
セレナが手を顎に当てて考えた。
「そうですね。もちろん、色々ありますが中級炎属性魔法には面白い魔法があります」
ミアが反応する。
「あー、あれのことかな」
レオルも苦笑する。
「面白い中級炎魔法といえばあれか」
リオは首を傾げた。
「有名なんですか?」
「有名ですね」
セレナは頷いた。
「フレアストームという魔法があります」
リオは聞いたことがなかった。
「強いんですか?」
「強いです」
セレナは即答した。
「中級魔法で、範囲魔法。広範囲を攻撃できます」
「しかも、詠唱時間が短く、威力も高い」
リオは驚いた。
強力な炎属性範囲魔法。
「それなら人気なんじゃ……」
ミアが笑う。
「ところが全然人気はないんだよね」
「どうしてですか?」
セレナが説明を続ける。
「消費マナが、極端に大きいのです」
リオは首を傾げた。
「そんなにですか?」
「ええ」
セレナは頷く。
「習得自体は比較的簡単ですが、普通の中級魔導士では使用すること自体が困難です」
「上級魔導士でも実戦では敬遠します」
レオルが笑う。
「一発撃ったら終わりだからな」
「終わり?」
「マナ切れだ」
「ロマン砲だね」
ミアが楽しそうに言う。
「ロマン砲?」
「強いけど誰も使わない魔法」
「そういうことです」
セレナが補足する。
「覚えても実戦で使えないことから、最初から覚えない人の方が多い」
リオもその理由に納得する。
習得が比較的簡単でも、実戦で使えないなら他の魔法を覚える努力をしたほうがよい。
変な魔法もあるものだ。
食事はその後しばらく続いた後、見張りの順番を決めた後に解散となった。
明日に備えて休まなければならない。
リオは寝袋へ身体を横たえた。
深層。
本来なら落ち着いて眠れる場所ではない。
だが、不思議と安心感があった。
レオル。
ミア。
ドルク。
セレナ。
頼れる仲間がいる。
目を閉じる。
こうして誰かと過ごす時間も、悪くないのかもしれない。
本日2話目、「第33話」です。
予約ミスに先ほど気づいたのですが、予約を全部修正するのは大変だったので(笑)
読んでいただきありがとうございます。
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