第32話 深層三十五層
深層三十五層。
蒼天の軌跡は探索を続けていた。
深層三十一層を越えてから数日、探索は順調に進んでいる。
リオは先頭を歩いていた。
感知訓練を始めてから数日が経つ。
数。
方向。
距離。
以前よりも意識して捉えられるようになっていた。
その時、リオの感知に何かがひっかかった。
「反応があります」
リオが言うと、レオルがこちらを見た。
「数は?」
リオは集中し、数を判別した。
「二体です、距離は四十メトルくらいです」
セレナが小さく頷く。
「良いですね。進みましょう」
蒼天の軌跡の面々が慎重に前進すると、やがて魔物の姿が見えてきた。
リオはその姿を見て思わず息を呑んだ。
そこにいたのは二体の魔物。全身を漆黒の鎧で覆われた巨体で、まるで歴戦の騎士のような威圧感を放っている。
だが、リオが違和感を覚えたのはそこではない。
魔物には首がない。
そこにあるはずの頭部が存在しない。
「デュラハンか」
レオルが呟き、続けてドルクも頷く。
「うむ」
それを受けてリオにセレナが説明する。
「深層に生息するアンデッドです」
リオは改めて魔物を見た。
首のない騎士。
それだけでも十分異様だった。
だが、さらに違和感がある。
片方は巨大な剣を握っている。
そしてもう片方は――
杖を持っていた。
「杖……?」
ミアの表情が変わる。
「あっ」
セレナも即座に声を上げた。
「メイジデュラハンです!」
次の瞬間、杖の先に赤い光が集まった。
火球。
それが一直線に飛来する。
ドルクが前へ出た。
火球が盾にぶつかり弾けるような音を立てる。
リオは目を見開いた。
魔法だ。魔物が魔法を使った。
「行くぞ!」
レオルが飛び出すと同時に、大剣を持ったデュラハンがそれを振り下ろす。
だが、横から割り込んだドルクが大剣を正面から受け止めた。
激しい金属音が響く。
その隙にレオルが側面へ回り込むのを横目に見ながら、ミアが光魔法を放つ。
「アンデッドなら任せて!」
光の奔流がメイジデュラハンを飲み込む。
再生を許さぬ聖なる光に、次の呪文を紡ぐ間もなく、その姿は塵となって消えた。
その間、後衛にいるセレナの炎弾は大剣を持ったデュラハンへ突き刺さった。
大ダメージを受けて、デュラハンはその場でよろめく。
そこに、レオルが一気に距離を詰め、炎を纏った槍を一閃した。
次の瞬間。
炎を纏った槍に胴体を貫かれ、デュラハンの身体は崩れ落ち、動かなくなった。
戦闘は短時間で終わった。
蒼天の軌跡にとって危険な相手ではあっても、脅威ではない。
戦闘後。
リオは倒れた魔物を見つめていた。
「魔物が魔法を使うんですね……」
セレナが頷く。
「前にも話しましたが」
「三十五層以降は魔法を使う魔物が増えてきます」
「これから先は、さらに警戒が必要になります」
リオは目を見開いた。
本当に、魔法を使う魔物がいる。
三十五層を超えたという実感が、今はっきりと湧いた。
「ですが」
セレナが続ける。
「リオの感知は確実に役立っています。今回も敵の数を正確に把握できました」
リオは少し照れくさくなる。
まだ学ぶことは多い。
だが。
以前よりも蒼天の軌跡の役に立てている気がした。
その後も何度か戦闘を繰り返した。
大きな危険はないが、その後も深層の緊張感は途切れなかった。
やがて。
レオルが足を止める。
「今日はここまでだな」
リオが周囲を見回すと、そこは小さな空洞だった。
周囲の視界も比較的開けている。
「ここですか?」
セレナが頷く。
「ええ。セーフティゾーンではありませんが、近い場所です」
「ここに魔物が現れることはほとんどありません」
「今日はここで休みます」
ドルクは慣れた様子で荷物を下ろした。
ミアも大きく伸びをする。
「やっとご飯だー」
レオルが苦笑した。
「まだ準備が終わってないだろ」
「えー」
その会話を聞きながら、リオは思った。
全員の動きに迷いがなく、慣れている。きっとこんなことをこれまでも何度も繰り返してきたのだろう。
「リオ」
ドルクが声を掛ける。
「手伝え」
「あ、はい」
慌てて荷物へ向かおうとしたところで、ミアが笑った。
「新人は働くのです」
リオも小さく笑う。
「じゃあ頑張らないとですね」
「うんうん」
ミアは満足そうに頷いた。
緊張ばかりだった深層探索。
だが。
こういう時間も悪くないかもしれない。
本日は作者の予約ミスにより (;'∀')
2話公開となっております。
19:40 に次の「第33話」が公開されますので、ぜひお楽しみください!
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