第28話 属性魔法訓練②
「今の……初級魔法?」
最初に口を開いたのはミアだった。
呆然とした顔で吹き飛んだ標的を見る。
「え?」
リオは首を傾げた。
「え?じゃないよ!」
ミアが叫ぶ。
「私の初級魔法あんな威力ないからね!?」
レオルも頷く。
「俺もそう思う」
ドルクは腕を組んだ。
「普通ではないな」
リオは困ったようにセレナを見る。
「そんなにおかしいんですか?」
セレナは吹き飛んだ標的を見つめていたが、やがて口を開く。
「もう一度お願いします」
リオは頷いた。
再び魔力を集める。
炎をイメージする。
掌の前へ赤い光が現れた。
そして放つ。
轟音とともに再び標的が吹き飛ぶ。
沈黙。
セレナは小さく息を吐いた。
「なるほど」
「予想以上ですね」
ミアが身を乗り出す。
「どうなの?」
「威力だけで言えば十分です」
セレナは淡々と答えた。
「少なくとも一般的な初級魔法ではありません」
リオが目を瞬かせる。
「そうなんですか?」
「そうなんですかじゃないよ!」
ミアが再び叫んだ。
レオルが苦笑する。
「自覚なしか」
セレナは続けた。
「ですが」
その一言で空気が変わる。
「属性魔法の制御が全くできていません」
リオは苦笑した。
「そりゃ、覚えたばかりですから……」
セレナは頷く。
「ええ」
吹き飛んだ標的へ視線を向ける。
「例えば先程の魔法ですが、的の中心に当たっていません」
リオは標的を見る。
確かに少し右へ逸れていた。
「放出の際に魔力の揺らぎがあります」
「発動までの時間も長い」
「実戦なら撃つ前に攻撃されます」
「なるほど……」
セレナは小さく頷く。
「ですが、覚えたばかりでここまで出来るのは大したものです」
リオは少し驚いた。
「そうなんですか?」
ミアが勢いよく頷く。
「そうなんだよ!」
「私なんて最初は魔法を出すだけで必死だったもん!」
レオルも肩を竦める。
「俺なんか本読んで投げたしな」
「本読むだけで魔法撃てる人間の気がしれん」
ミアが吹き出した。
ドルクの肩も少し震える。
セレナは気にした様子もない。
リオも思わず笑った。
セレナは続ける。
「威力だけなら十分です」
「ですが、
「現状では宝の持ち腐れですね」
リオは素直に頷いた。
その通りだと思った。
威力が高いことは分かった。
だが。
狙って当てる技術も。
戦闘で活用する方法も。
何も知らない。
ただ撃っただけだ。
「まずは基礎からですね」
セレナは言った。
「一週間ほど集中的に訓練しましょう」
その日から。
リオの属性魔法訓練が始まった。
火。
水。
風。
土。
闇。
適性のある属性魔法を一つずつ学んでいく。
魔力制御。
威力調整。
発動速度。
命中精度。
実戦での使い方。
訓練は想像以上に厳しかった。
だが。
面白かった。
知らない知識を学ぶこと。
出来なかったことが出来るようになること。
リオは毎日夢中になって取り組んでいた。
「もう一回です」
セレナの声が響く。
「はい!」
リオも即座に応じる。
最初は制御が不安定だった属性魔法も。
素早く、狙った場所へ飛ぶようになっていった。
「信じられないな……」
訓練を眺めながらレオルが呟く。
「一週間だぞ」
「普通なら初級魔法一つ覚えるだけでも苦労する」
ドルクも頷いた。
ミアは嬉しそうに笑う。
「でしょー?」
「だからなんでお前が自慢げなんだ」
レオルが呆れた顔になる。
「だってリオだよ?」
ミアは胸を張った。
「意味が分からん」
そして一週間後。
訓練場。
セレナは首を縦に振る。
「ひとまず問題ありません」
「リオの初級魔法は十分実戦投入可能です」
ミアが目を丸くする。
「もう?」
「ええ」
セレナは答えた。
「もちろんまだ未熟な点はあります」
「ですが最低限の基準は満たしました」
「リオの初級魔法の威力があれば、深層でも使えるでしょう」
リオもほっと息を吐いた。
正直なところ必死だった。
覚えることが多すぎた。
だが。
確かな手応えもあった。
「では」
セレナが言う。
「予定通り深層へ向かいましょう」
その場の空気が変わった。
レオルの表情が引き締まる。
ドルクも無言で頷く。
ミアも珍しく真面目な顔になった。
リオも思わず背筋を伸ばした。
蒼天の軌跡でも長年攻略中の場所。
迷宮深層。
いよいよ挑戦する時が来たのだ。
翌日。
深層1層目、31層。
周囲の景色は中層と大きく変わらない。
だが。
空気が違う。
重い。
張り詰めている。
まるで迷宮そのものが侵入者を拒んでいるようだった。
リオは無意識に剣の柄を握りしめた。
ミアもいつもの笑顔がない。
ドルクは周囲を警戒している。
セレナも無言で魔力の流れを探っていた。
そして。
レオルが振り返る。
その表情には迷いがなかった。
「行くぞ」
誰も異論は言わない。
リオは深く息を吸った。
蒼天の軌跡が長年越えられなかった壁。
その先へ。
一歩。
また一歩。
深層へ足を踏み入れる。
迷宮の闇が彼らを飲み込んだ。
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